生き甲斐

VTuberである凪乃ましろさんのファン小説(二次創作)2話目です。もしよければ第1話から読んでみて下さい。
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大福屋の店内に入り席に着くと、店員さんがすぐに温かい緑茶を出してくれた。

「どうぞ、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます」

2人して店員さんに頭を下げて見送ると、ましろちゃんはメニュー表を見ながらウキウキとした様子で話し始める。

「ねえねえ、何にする? 私はいちご大福!」
「じゃあ、私はみかん大福。ましろちゃんがよければ、半分こして分けて食べようよ」
「わぁ〜! そうしよう! 色んな味を一度に食べれるなんて最高!」
「だよね。じゃあ店員さん呼ぼっか。すみませ〜ん」

そうして店員さんに注文を伝えると、ましろちゃんは色んな事を話してくれた。
食べ物以外に、歌うことや人と話すことが大好きで、ピアノや箏が得意だということ。
あとは、海辺に居た理由。
ましろちゃんは歌う事が好きだから、あそこで毎日歌の練習をしているんだって。

「そうだったんだね〜」
「うん! あなたは、どうしてあそこにいたの?」

そう聞かれて、私は言葉に詰まる。
だって、私は……。

「分からないの。何であそこに居たのか」
「えっ……」
「気が付いたらあそこに居て、ここがどこなのかも分からないから、ましろちゃんに聞こうと思って声をかけたんだ」
「そうだったんだ……。ごめんね。私、自分の話ばっかりして」
「ううん、いいの。私、ましろちゃんの話を聞くの好きだよ。楽しいし、元気を貰えるから」
「ありがとう」
「こちらこそだよ。ありがとう、ましろちゃん」
「うん。じゃあ、改めてこの場所のことを教えるね」

そうして、ましろちゃんはこの世界の事を丁寧に教えてくれた。
ここは、ましろちゃんを中心に作られた仮想世界で、現実世界ではないということ。
そして、ここに来る事が出来るのは、何かを探して欲している人だけ。
それが何なのかは人それぞれで、答えは自分で見つけるしかないらしい。

そして、ここからが一番重要なこと。
現実世界に戻る為には、この世界で何かを得なければいけない。
この世界で過ごしている間も、現実世界では私はしっかりと生きて活動してはいるらしいけど、大切な事を見失っているから無気力なのだという。

確かにそうだ。
私は毎日職場と家を往復するだけで、楽しみなんてものが1つもない。
趣味もなくて、ただ命を繋ぎ止める為に働き、食べて寝るだけ。
そんな毎日が、とても辛かった。
だから私は、この世界に逃げ込んで来たのかもしれない。

「そっか。……私、きっと逃げて来たんだ。現実は辛いことしかなくて、楽しい事なんて1つもない。だから、私……もう現実世界には戻らなくていいよ」

そう言いながら力無く笑ってみせると、ましろちゃんは真剣な表情で私の手に手を重ねた。

「そんなの悲しいよ。きっと、現実世界で貴方の事を待っている人が居たり、貴方にしか出来ない事がある筈だよ」
「そうかな……」
「うん、きっと。私だって、現実世界でも貴方と友達になりたいし!」
「ましろちゃん……!! でも、私はこの世界でましろちゃんといられたらそれで十分だよ」
「……そっか。でも、私は貴方のこと応援したい!」
「えっ?」
「貴方が現実世界に戻る勇気が足りないなら、私が貴方の力になる!貴方の希望、生き甲斐になって、辛い時には癒して、頑張りたい時には勇気をあげられる、そんな存在になる!!だから……!!」

そこまで勢い良く言ってから、ましろちゃんは私を見てふっと頬を緩め、優しい微笑みを浮かべた。

「一緒にどこまでも駆け抜けていこう。私も頑張るから、ね?」
「っ……!!うん!!」

ましろちゃんの熱い言葉に、私は涙を流しながら頷いた。
この子は、きっと諦めない。
どんなに辛い事があっても、乗り越えていくんだろう。
だったら、私も頑張りたい。
ましろちゃんみたいに、こんな優しくて強い人になりたい。
そして、ましろちゃんがつまずいたり、しんどくなった時には、今度は私が支えるんだ。
だって、私はましろちゃんの事が大好きだから。

「ありがとう、ましろちゃん。大好きだよ!」
「うん。私も大好き」

嬉しそうにはにかむましろちゃんの姿がぼやけていく。

あれ……何だか意識が遠のいて……。

「はっ!!」

気が付くと、私はパソコンを前に座っていた。
画面ではVtuberの凪乃ましろちゃんが楽しそうに話している。

「夢……だったのかな?」

きっとそうなのだろう。
でも、私は確実に得ているものがあった。
それは……。

「ましろちゃんに出逢えて良かった! 今では生き甲斐になってます! ありがとう!」

そう書き込んでスパチャを送ると、ましろちゃんは驚きながらも凄く嬉しそうな笑顔になって、お礼を言ってくれた。




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