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瑠璃の部屋66

G.W.の初日、熱中症注意らしい。昨日までエアコンを暖房モードにしていたが、新居での冷房の出番が近づいてきた。前の住居も気に入ってはいたのだが、今にして思うと不思議な部屋であった。家電が壊れる。パソコンに始まり、加湿機能付き空調機、電子レンジ、トースター。細かなところでは電子体温計、温度計付き卓上時計、壁掛け時計は電波受信すると10分、正確に遅れる。修正しても、夜中に針の回る音がして、律儀に10分遅れて朝を迎える。備え付けのエアコンは、除湿運転後、クリーン運転により湿度90%という計測値を叩き出してくれる。おかげで、今の住居は少数精鋭である。「必要ではないものが残った」名言だ!と思ったが、「必要なものだけ残った」と同義だなと、少しガッカリした。

 ある日、玄関脇に他人宛の荷物が置いてあった。不動産に問い合わせたら、前の住人だと分かり。連絡して取りに来てもらうから、エントランスに置いておいてくれと。しばらくしても置いてあるので、再度、問い合わせたら、本人と連絡がつかなくて、勤め先も辞めているとかで難儀していると。
「前の住人のもので、不動産預かりとなっています。お邪魔でしょうが、もうしばらくお待ちください」だったか、張り紙をしておいたが数ヶ月後に見なくなった。

 住んで1年半ほど経った頃か、台所に床下収納があるのだが、ケースが破損したのか、蓋を開けたらコンクリートの床が広がっているのは知っていた。虫が蓋のあたりで死んでいたので、外に繋がっているのか?と中を見回すと、物が見える。スマホの灯りで照らして見ると。缶詰、箱詰めのビール、ポテトチップス。
脇の方に箱が隠れているように見える。誰か、居るのか?

 不動産の職員が作業着でやってきて届くものを引き上げた。
「緊急用に取っといて忘れたんですかね」軽く終わったと思った。
「以上ですかね」と帰りかける。「そうですね」と答えながら、何気なく奥をスマホの灯りで照らした。「なんかある!でっかいのが」。職員も覗き込んで「あーなんかありますね。奥の方で届かないな、あれは、そのままで良いですかね」「そうですね、大変そうだし」と笑って答えると。帰りかけた男性が「やっぱり、気になるな」と踵を返した。蓋を支える金具のネジを外し、人がようやく入れるような入り口から高さのない床下に潜り込んでいく。
「気をつけてくださいねー。埋蔵金があったら、差し上げますよ」
やっとの思いで体を床に伸ばしているようだ。
「出るの大変そうですね、出られなくなったらどうます?」
「そしたら、ここで暮らさないといけませんね」
体勢が整ったらしく返事が返ってきた。
入り口付近へ品々を引き摺って、それを俺が引き上げる。割れた食器等は傍へ寄せた。思ったより多い。
「ふはぁ〜、以上です」埃まみれになった作業着で職員は汗を拭いながら
「ビール、要りますか?」と箱詰めのビールを眺めた。
「いえ、お酒、飲めないんです」
黒いケース、バドミントンのラケット、瓶詰め、錆びた電池、物干し、使われていない段ボール数枚、ライター。あとなんかあったっけな。
「割れた食器と、錆びた電池は、処分しときますね」と引き取った。それでも、荷物は多い。玄関を出る職員の独り言が聞こえた「どうしよっかな、これ」

食料品店で、その話をしたらレジの人に「死体が出なくて良かったですねー」と言われた。地球温暖化のニュースがあちこちで叫ばれる夏にこんな会話をした人だ。
「暑いわねー。夏だからかしらねー」
「そうかも知れませんねー」