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主権者教育に関する最近の動き:メモ

PTAの新学習指導要領についての学習チームで、私の担当は主権者教育。
調べていたら、めっちゃめちゃ面白かったので、その記録メモ。

新学習指導要領に伴う、主権者教育に関する動き

◆平成27年6月 公職選挙法改正 選挙権が18歳以上に変更

平成27年10月 文科省の通知
高校:現実の具体的な政治的事象については、様々な見解があり、一つの見解が絶対的に正しく、他のものは誤りであると断定することは困難。生徒が自分の意見を持ちながら、異なる意見や対立する意見を理解し、議論を交わすことを通して、自分の意見を批判的に検討し、吟味していくことが重要。
→教育現場で具体的な事象を扱うことについて言及!

平成27年12月 総務省・文科省 高校副教材「私たちが拓く日本の未来」配布

平成28年 主権者教育の推進に関する検討チーム発足
・主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社会を生きぬく力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力
・子どもたちの発達段階に応じて、それぞれが構成員となる社会の範囲や関わり方も変容していくことから、学校・家庭・地域が互いに連携・協働し、社会全体で多様な取り組みを行うことが必要
・高校:「公共」という新科目、主体的な社会参画に必要な力を実践的に育む
・小中:社会で自立し、持続可能な社会形成に参画するために必要となる具体的な内容を習得、地域の抱える具体的な課題の解決に取り組む体験的・実践的な学習プログラム
・地域:より地域住民が参画した発展的な活動が実施されるよう、地域と学校との連携・協働体制を構築する
・家庭:基本的な生活習慣や社会的なマナー。お手伝いなどの役割を担い、家族の一員として主体的に家庭生活に参画する取り組みを進める
・最終まとめ:主権者教育は、主権者として求められる能力を育むだけではなく、地域への愛着や誇りを持ち、ふるさとに根付く子どもたちを育てるなど、地域の振興・創生の観点からも重要である

平成28年12月 中教審答申
・小中からの体系的な主権者教育の充実、教科等横断的な視点から教育課程を編成する必要性がある
・事実を基に多面的・多角的に考察し、公正に判断する力/課題の解決に向けて、協働的に追求し根拠をもって主張するなどして合意を形成する力/よりよい社会の実現を視野に国家・社会の形成に主体的に参画しようとする力
・地域の身近な課題を理解し、その解決に向けて自分なりに考えるなど、現実の社会的事象を取り扱っていくことが求められる
・現実の複雑な課題について児童生徒が課題や様々な対立する意見等をわかりやすく解説する新聞や専門的な資料を活用することが期待される・
・高校の公民科の中に共通必履修科目として「公共」を設置する
・日本と世界の生活・文化の多様性の理解、地球規模の諸課題や地域的な諸課題/グローバル化への対応、持続可能な社会の形成、情報化等による産業構造の変化、防災安全への対応、周囲が海に囲まれ多くの島からなる海洋国家である我が国の国土の様子など・
・小学校:自然災害時における地方公共団体の働き、地域の人々の工夫・努力/少子高齢化による地域社会の変化や情報化に伴う産業の変化
・中学校:地球規模の課題を取り上げた学習、防災安全教育に関して空間情報に基づく危険の予測/民主政治の来歴や人権思想の広がり/防災情報の発信活用、情報化による産業の構造的な変化、起業

平成29年3月 学習指導要領改訂(小中)
小中の新学習指導要領において、「主権者教育」という言葉は出てこない。案内パンフレットの中で、「社会の中で自立し,他者と連携・協働して社会に参画する力を育みます。」として紹介されている。
小学校:社会
3年:地域の安全、市の様子の移り変わり、公共施設
4年:健康や生活環境を支える事業(飲料水電気ガス・廃棄物処理)、公衆衛生、自然災害
5年:国土の自然環境と国民生活、大気汚染水質汚濁
6年:日本国憲法、政治(社会保障、自然災害、地域開発活性化)、民主主義(国民の祝日)
中学校:社会
歴史:近世の日本とアジア(民主政治の来歴)/近現代の日本と世界(政治体制の変化や人権思想の発達、アメリカ独立・フランス革命)/日本の民主化と冷戦下の国際社会(男女普通選挙の確率、日本国憲法)
公民:市場と経済(職業の意義と役割、雇用と労働条件)/政府の役割(福祉の向上、市場の働きにゆだねるのが難しい問題)/人間の尊重と日本国憲法(法に基づく政治、日本国憲法の意義)/民主政治と政治参加(議会制民主主義と多数決の原理、世論の形成や選挙)/国際社会の課題(持続可能性、世界平和の実現と人類の福祉の増大、国旗国歌の意義、国際的な儀礼国際連合における持続可能な開発のための取り組み)

平成30年3月 学習指導要領改訂(高校)
新科目「公共」:自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち
・法、政治および経済などの側面を関連させ、自立した主体として解決が求められる具体的な主題を設定し、合意形成や社会参画を視野に入れながら、その主題の解決に向けて事実を基に協働して考察したり構想したりしたことを、論拠をもって表現する力

優良事例としての模擬選挙(多摩市)

明るい選挙推進協会で行われている優良事例の紹介。
多摩市の模擬投票は、小中高と世界が広がっていき、段階を踏んでいける感じが、わかりやすい。

小学校「給食大臣を選ぼう!」
食べ残しを解決するための大臣を選ぶことから、まずは投票行動について学ぶ。

中学校「みんなで応援して当選を目指そう!」
国際交流大使を選ぶための選挙の中で、候補者を応援する応援演説等をした後に模擬選挙を行うことで、選挙活動について学ぶ。

高校「ディベートを活かして候補者になろう!」
「原子力発電を廃止すべきかどうか」というテーマで実際にディベートを行う。そこから選挙公約を作成していく。そこから立候補者を立て、さらにみんなで立候補者を支援し、みんなで当選を目指していく体験をしていく。
(が、この事例の中での選挙は国際交流大使を選ぶ選挙で、原発関係なかった💦もったいなーい。)

国分寺市の事例

国分寺市で青年会議所の方が、コミュニティスクール事業として取り組んだ模擬市長選挙。
実際に地域の課題のヒアリングから、みんなの意見をとりまとめてのマニフェスト作成し、立候補→演説→選挙とかなり本格的な取り組み。
さらに、最後には現市長への提言にまとめて提出するなど、小学生でも十分に地域参画することができるということを示している好事例。

教育の政治的中立性について(海外の事例)

学校と政治を語るときに必ず課題に上がるのが、政治的中立性。海外はどう取り組んでいるのか。

ドイツのボイテルスバッハ・コンセンサス(1976年)
3つの原則
・圧倒の禁止の原則(教員は、期待される見解をもって生徒を圧倒し、生徒自らの判断の獲得を妨げることがあってはならない)
・論争性の原則(学問と政治の政界において論争がある事柄は、授業においても議論があるものとして扱う)
・生徒思考の原則(生徒は、自らの利害関心に基づいて政治的状況を分析し、政治参加の方法と手段を追及できるようにならなければならない)

イギリスのクリックレポート(1998年)
2つの留意点
・シティズンシップ教育では、政治的に議論のある問題(controversial issues)に関する論議を含むことが前提であるという点
・シティズンシップ教育は、家庭、メディア、生徒の周囲の環境など様々な要因によって影響を受けるが、学校にはその中心的役割が期待されているという点

つまりはどういうこと?(私の個人的なまとめ)

・主権者教育は、自立した一人の人として、社会の仕組みを知り、社会が抱える様々な課題について、多様な視点を持ち、周りの人と協働しながら課題を解決していける力を育てていくということ。
・そのためには、小中高の連携が重要となってくる。選挙を控えた高校生だけに実施するのではなく、小学校の頃から主権者としての力を身につけていく必要がある。子どもの発達段階に合わせて、本人の世界の広さは広がっていく。その世界の広さに合わせて、実際の地域課題/政治課題を扱っていくことが大切となる。
・知識を身に付けるだけではなく、新学習指導要領の主体的対話的な深い学びという部分にもつながるが、模擬選挙や模擬請願などで実際の課題を扱い、自分なりの意見を持ち、それを周りに伝え、協働しながら合意形成していく機会をつくることが求められている。
・そのためには、学校だけではなく、地域や専門家との連携が必須となる。学校は、政治的中立性を保ちながら、そのコーディネートをする役割を求められるようになっていく。

現在議論されている内容&個人的考察

・現状としては、政治的中立性の課題が大きい。先生の完全な中立はありえないという声もある。逆に、先生が意見を主張し、他の視点も紹介するような多様性を示していくことで、政治的中立性が果たされるのではないか。(ここは諸外国も様々な配慮や工夫をしている)
・それ以前に、そもそも先生や親が自分の意見を持っていないという課題もある。親世代の投票率も低く、親向けの主権者教育の機会も必要なのではないか。
・主権者として行える行為は投票だけではなく、地域や社会を変えていく武器(陳情や請願等)を持つことも必要なのではないか。
・海外では11歳から16歳が重要だと言われているが、日本でその時期にあたる中学は高校受験に向けた学習が多く、受験につながらない主権者教育が重要視されるのか、という課題がある。
・知識を身に付けるだけではなく、他の人の意見を聴きながら自分の意見を持つということを促していくということについて、先生にその力があるのか。
・学習指導要領に書かれている具体的な事象の例として、どういったことに触れるかということまで挙げられているため、わかりやすい一方で、「国民の祝日に関心をもち、我が国の社会や文化における意義を考えることができるよう配慮する」「国旗及び国家の意義並びにそれらを相互に尊重することが国際的な儀礼であることの理解を通して、それらを尊重する態度を養うように配慮する」「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存在していないことを取り上げること」など、政治的中立性が保たれていると思えない部分もあり、この指導要領で主権者教育が行われることへの疑問も生じる。
・実際の地域課題を扱った模擬選挙は、地域の力を借りていくことで、小学生からでも実施できる(国分寺七小でも実施済み)。その世界の広さに合わせて、実際に課題を扱っていくという機会が必要なのではないか。その中で、小中高の連携がしていけるとよいのでは。(実際に多摩市では連携して実施済み)

参考資料

現在行われている、主権者教育推進会議の記録

学校における主権者教育に関連する近年の動きについてのまとめ
このPDFにほとんどの情報が集まっています。

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