ノルウェー人日本文学翻訳家マグネ・トリングさんインタビュー

■はじめに 

2015年4月にノルウェーに赴いた際、ノルウェー人の日本語翻訳者のマグネ・トリングさんにお話を聞く機会を得ることができました。マグネさんは川上未映子さんや村上春樹さん、川上弘美さんをはじめ多くの日本文学をノルウェー語に翻訳されています。

この記事では、マグネさんと日本人作家(川上未映子さん)との交流、翻訳者としてノルウェーの出版社にどう日本の作品を売り込んでいるのか、翻訳者の労組の役割をも果たすノルウェー翻訳者協会とは何なのか、翻訳者同士の付き合い、ノルウェーの図書館の本の買い取り制度、翻訳の難しさ(川上弘美さんの『センセイの鞄』を訳された時、どんな工夫をしたかなど)、作家・翻訳者の収入、出版社による書店チェーンの買収、日本とノルウェーの書店の本の陳列法の違い、川上未映子さんの作品への思いなどについてうかがったお話を公開します。


■純文学とミステリ

――マグネさんはイーカ・カミンカさんとオスロ大学の阿部玲子先生と一緒にyonda! yonda!という日本文学紹介サイトを運営されているそうですね。ノルウェー語に翻訳されている日本の作品リストを拝見したのですが、谷崎潤一郎さんの『細雪』や小林多喜二さんの『蟹工船』など、純文学の割合が高いように思えるのですが、ノルウェーでは純文学の方がミステリよりも受け入れられやすいのですか?

マグネ・トリング(以下マグネ) ノルウェーで純文学しか売れないかというということはないです。むしろ逆でヨー・ネスビュ(ジョー・ネスボ)やスウェーデンの作家ですがスティーグ・ラーションのようなミステリやサスペンスがよく売れます。

――日本では1つのジャンルに絞って訳す翻訳者も多いようですが、ノルウェーではどうなのでしょうか?

マグネ ノルウェーでは1つのジャンルに絞って訳すとは限りませんよ。ノルウェーには翻訳者協会というものがあるのですが、例えばノンフィクションと文芸作品の両方を手がけている訳者はノンフィクション作家・翻訳者協会と文芸の翻訳者協会の両方に入会を申し込むことができます。どちらかだけに入会することももちろんできますし、どちらにも入会しないという選択肢もあります。

――日本語の場合、ジャンルによって訳し方が大分変わるのですが、ノルウェー語ではどうなのでしょうか?

マグネ ノルウェー語の場合も変わると思います。児童書の場合は特に読みやすく工夫することもあるでしょうね。例えば児童書で時々ヨーロッパの別の国の作品の登場人物の名前をノルウェー的な名前に変えることがあります。例えば「ウィニー・ザ・プー」をノルウェー人的な「オーレ・ブロム」にするとか。また『ハリー・ポッター』のダンブル・ドア校長はノルウェー語ではホンネル・スヌルと全く違う名前に変えられています。主人公のハリー・ポッターはハリー・ポッターのままですが。魔法の世界の世界観や空気が伝わるよう、変えているのでしょう。ただ名前を変えるのは児童書だけです。また日本の作品の場合は変えないように思えます。

――今後ミステリを翻訳されるご予定は?

マグネ 僕は純文学が好きなのですが、可能性はあります。ただこれという作品にまだ巡り会っていないだけです。

――中村文則さんがアメリカで賞をとったらしいですが、彼の作品はノルウェー語に翻訳されないのですか? とても素敵な作家さんだと思うのですが。

マグネ デイビッド・グーディス賞ですね。中村文則さんは典型的なミステリというよりは純文学よりの作品を書く作家ですね。芥川賞をとった『土の中の子供』などは文学で、他にも色々な毛色の作品を出しています。『教団X』のように日本ではゲームみたいな設定の小説が流行っていますね。漫画『LIAR GAME』(ライアーゲーム)に近い設定が凝った感じの小説や、ライトノベルの『東のエデン』のようなライトなものが小説でもあるように思えます。純文学を書いている作家がこんなライトな感じで書くんだな、と不思議に思いました。あと東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』は設定がわざとらしく、また仕掛けが多過ぎると感じました。ガリレオが頭がよすぎるのも現実味がない感じがするし、もう少し仕掛けを表に出さない、さりげない感じのものの方が個人的には面白く感じます。

■翻訳の難しさ

――日本とノルウェーでは文化が違うので注や説明をつけないと分からないこともあるのでは?

マグネ 注は嫌いであまりつけません。分からないことがないように訳します。どうしても説明が必要な場合は説明をつけますが、できるだけ自然な流れの中で伝わるように工夫します。説明を付け加えすぎると、わざとらしいですね。例えば「床の間」という言葉を細かく説明する必要はない。Tokonoma-nische(ニッシェ)(英語)という風に語尾に形を表す言葉を付けました。大体のイメージを読者は大抵の場合、つかめます。ただそれも作品によりますね。『センセイの鞄』では昔の日本のものが好きな先生が出てきて、昔ながらの日本の雰囲気を出すことが重要なので、布団とか床の間とか、日本らしいものを残した方がいいと思いました。例えば村上春樹さんの作品の場合はまた違ってくるでしょう。彼の作品は日本っぽくはないですね。
――ノルウェー語って人の呼び方を言い換えますよね? それをそのまま日本語にするとヘンな感じがすることもあれば、意味のある言い換えの場合は残した方がいい場合もあって難しいです。逆の場合どうでしょう?

マグネ ノルウェー語の場合は「彼が」と言ったり、「あの男は」、とか「警官が」などと言い換えても、日本語の場合は大体いつも同じ呼び方をしますね。ノルウェー語にそのまま訳すとくどいので、初出の時は名前で呼び、次は「彼は」などとしたりはします。「警官は」、「あの男は」とまでは変えませんが、ずっと名前で呼び続けるのは変な感じがします。
ただ例外もあって『先生のカバン』では主人公のツキコは同級生のことを常に「小島孝」と呼んでいるのですが、よそよそしさを残すためにノルウェー語でもずっと「Takashi Kojima」と呼ばせました。
あと『センセイの鞄』でセンセイツキコを「ツキコさん」と呼びます。今、ノルウェーではミス、ミセスっていうのはほとんど使わないし、使うと古めかしい感じがするのですが、この作品では先生は律儀な人間なので、「ミセス・ツキコ」という表現をあえて使いました。

■翻訳者協会

――マグネさんと村上春樹の翻訳者のイーカさんが属している翻訳者協会は入会資格などあるのですか?

マグネ あります。訳書を2作訳していないと入会の申し込みができません。委員会がその訳書を審査して入会の可否を決めるので、ある程度の長さがあって、翻訳の腕前を測るのに適した作品でなければなりません。応募者の半分から3分の2ぐらいは選考で落とされます。もちろん何度も応募してチャレンジすることも可能です。メンバーは330人います。

――協会に入れると、どんな特典があるのですか?

マグネ 毎年開かれる総会やセミナーに参加できます。セミナーはオスロからバスで1時間ぐらいのところなる会場で開かれます。

――じゃあ色々とつながりができそうですね。翻訳者同士でライバル意識はないのですか? 皆仲がよさそうに見えましたが。

マグネ 日本の文学を訳していて協会に属しているのは私とイーカ・カミンカとアンネ・ランデ・ペータスの3人です。イーカは翻訳者協会の会長です。翻訳者同士、ライバル意識はあまりないです。イーカと僕は特にどちらもオスロに住んでいて仲良しですし。協力することでお互い仕事が増えるんですよ。それは翻訳者協会の哲学でもあります。

――協会の活動を通じて翻訳者同士だけでなく、作家さんともつながりができそうですね。

マグネ そうですね。私は先日翻訳者協会の代表として、作家協会の総会に出席しました。作家協会と翻訳者協会の総会に代表者が1人ゲストとして招待されるんですよ。そこで日本語に訳されているシモン・ストランゲルさんに挨拶できました。『猟犬』(早川書房)のヨルン・リーエル・ホルストさんとも話したことがあります。とてもいい人ですよ。

――翻訳者協会は他にどんな役割を果たしているのですか?

マグネ ノルウェーでは出版された本は図書館が1000部買い取る制度があります。ノルウェーの作家の本は余程ひどい内容でない限りは、どれも買い取られるのですが、翻訳書の場合は全部買われるのではなく、出版社が申請した一部が選ばれます。そして図書館で本が借りられたら、1冊につき何%かが作家や翻訳者に支払われる制度もあります。お隣のデンマークなどはそのお金が翻訳者に直接支払われるのですが、ノルウェーの場合、翻訳者協会に支払われます。そのお金が翻訳者協会の主な収入源になっています。毎年1100万クローネが図書館から入り、そのうち700万クローネが翻訳者への助成金として翻訳者に支払われます。その助成金には協会のメンバーでなくても申請できます。デンマークのシステムだとベテランなどたくさん仕事がもらえる人はたくさん収入を得られるのですが、ノルウェーの場合はこの制度に特に若手は支えられています。デンマークの人達は不公平な制度だと思うかもしれませんが。

■作家や出版社との付き合い方

――翻訳した作家さんと会ったことはあるのですか?

マグネ 川上未映子さんとは出版社を通してコンタクトをとり、フランス著作権事務所のカンタンさんと3人で自由が丘のカフェで会い、1時間ちょっと軽くおしゃべりしました。とても緊張しましたが楽しかったです。諏訪哲二さんには名古屋を案内してもらって、意気投合しました。

――仲良くなるとやっぱりまた訳したくなるものですか?

ええ。ただ出版社が出してくれないと、どうにもなりませんね。

――川上さんの『ヘブン』は訳さないのですか?

マグネ 訳したいです。『乳と卵』を出した出版社さんに断られてしまって、他の出版社さんからは難しいようです。ノルウェーではすでに別の出版社から出ている作家を別の出版社は手を出しにくいみたいで。

――出版社にはどういう風に提案するのですか?

マグネ いい作家さんがいれば、口頭で面白いですと伝えます。そうして出版社からレジュメを書いてくださいと言われることもあります。一方で出版社は第三者の意見もほしがるので、翻訳はあまり多くはしていないけれど、日本語がわかる人にレジュメの作成を依頼することもあります。『乳と卵』の場合は僕の意見をそのまま信用してくれて、レジュメがなかったのですが版権を買ってくれたのですが。

――レジュメを書く時ってテーマが面白い作品は伝わりやすいのですが、江國香織さんみたいに何も起きないけれど、文章が素晴らしい作家さんの場合、どうやって伝えるのですか?

マグネ レジュメを書く時にプロットだけを書くのではなく、文体の面白さも伝えなくてはいけません。どういう作家に影響を受けたか、ノルウェーやアメリカの作家に例えたりします。川上弘美だったらスウェーデンのレーナ・アンデションに部分的に似ているとか。文体はこうこうこうですと言葉だけで説明するとぼんやりしていますが、こういうところはこういう作家に似ているとか、こういうところは似ていないんだけど、こういうところはこっちの作家に似ている、などとか書けば文体をイメージしやすいと思います。

■編集者の役割

――イーカさんとはサイト運営の他にどんな協力をしているのですか?


マグネ 例えば川上弘美さんの『センセイの鞄』を僕が訳した時、イーカが僕の訳文をチェックしてくれました。それは編集者が仕事としてイーカに依頼してくれたのです。それを見てイーカがここはもっと上手い表現があるんじゃ?、ここは原文とニュアンスが違うのでは?、などと指摘してくれます。それを僕が確認して、賛成するところはその通り直し、同意できないところは直さなかったりしました。逆に谷崎潤一郎の『細雪』はイーカが訳して僕がチェックをしました。

――日本と編集者の役割が違うのでしょうか。何となくノルウェーの編集者さんは作家や翻訳者に自由に仕事をさせるのかと想像しているのですが。

マグネ ノルウェーでもノルウェーの作家が書いた本なら、編集者が内容を精査します。作家に編集者は厳しいみたいですよ。3回、4回、5回、6回と何度もやりとりして、こうした方がもっといい作品になるのではないかとアドバイスするそうです。作家は特定の編集者につくんです。ただ翻訳の場合は編集者が原文を読めないですよね。校正については外部のフリーランスの人に頼む場合もありますし、編集者自身がやる場合もあります。

■作家・翻訳者の収入

――ノルウェーでは初版どれぐらい刷るんですか? かなり売れていそうな作家さんが出版社に勤務していたりしてびっくりさせられますが。

マグネ 僕が今まで訳した本は大体初版2000部程度でした。ヨー・ネスビュなどは10万部とか20万部とか刷るのかもしれませんね。普通、ノルウェーの作家さんだと2000部ぐらいでしょうか。でも売れる作家と売れる作家もいて本当に部数は人によります。人口の割にノルウェーは作家の数が多いと思います。デビューして全く注目されない作家もたくさんいるわけです。兼業している人は生活を安定させるとか経験を積むとか他の要因があるのかもしれませんが、恐らくノルウェーの作家で売れていない人はある程度の貧乏生活を送ることになるでしょうね。まあノルウェーは豊かなので、ノルウェーで言う貧乏生活ですが。

――失礼かもしれませんが文芸翻訳専業でやっていけますか?

マグネ 翻訳の賃金が低いですが、ある程度生活はできています。出版翻訳の翻訳料は字数計算で、いくら売れても翻訳料は変わりません。絵本など字数が少ない本はほとんどお金にならないのでそこは問題ですが、売れない本でも一定の収入がもらえるのでその方がいいと個人的には思っています。小説の場合、字数が多いので字数で計算してもらった方が翻訳者にとっては助かるんです。印税形式にしてほしいとは思いません。どちらにしろそんなに売れませんし。あと僕は文学の家という施設の事務所を無料で使わせてもらって、そこで作業しています。そこで執筆している作家もいますよ。

■出版社が書店チェーンを買収

――本があまり売れないんですか?

マグネ ノルウェーでは重版はあまりしません。ロングセラーにもほとんどなりません。本の値段は高いですしね。本屋に置いてもらうのも大変そうです。それが業界の抱える問題ですね。ノルウェーでは本屋のほとんどがチェーン店なんです。例えばギュレンダールがアルクを、アシュケホウがノーリを、カッペレンがタールムを所有しています。一般的に出版社が書店に本を置いてもらえないか交渉する際、所有元の出版社の本が多くなってしまう傾向があるようです。ただ主なチェーンが3つあるので、1つの出版社が市場を独占しているわけではありません。ここ数年、本の売れ行きがよくないそうです。出版社がチェーンの書店を買収した時は、出版社はいい収入源になるだろうという見込みだったのですが、それが逆に出費ばかりになってしまったのです。出版社が本屋にお金を出さないと平積みにしてもらえないのです。表向きでは書店が出版社の本のマーケティングに参加するということになっていますが、実際は出版社がお金を払わないと平積みはしてもらえないのかもしれません。

――それは大変ですね。

マグネ 業界の一番大きな問題は、出版社から書店への割引です。例えば本が1冊300クローネだとしますね。書店は昔は大体定価の70%とかで買い取っていたので、出版社の利益も多かったそうです。ところが書店がチェーン化してからというもの、書店チェーンの交渉力が上がり、定価の半分以下などの安値で買い取られるようにったので、出版社の収入も減ってきたのです。
――書店が本を買い取るんですね。

マグネ ノルウェーでは本が出版されて1年以内の4月か5月までは定価から12.5%を上回る値下げはできないことになっています。確かその期間なら売れなかった本は出版社に書店が返本することができたはずです。それより古い本はどんな値段をつけてもいいはずなのですが、書店が買い取って売るわけで売れなかった分は書店が損をします。

――出版社がお金を払って書店のスペースを確保するというのはどの書店でも同じなのですか?

マグネ オスロに北欧最大の書店、エルドラードができたのですが、そこはチェーン店ではなくどこの出版社の傘下にも入っていません。陳列の仕方は独特です。ある程度の大きさの出版社は決まったお金を払って決まったスペースを自由に管理できるようになっています。小さな出版社は実はお金を払わずに無料で本を置けます。そうすることで書店としても、大小様々な出版社からのバラエティ豊かな作品を揃えることができるのです。そういえばノルウェーのほとんどの書店ではそれぞれのジャンル内でアルファベット順に陳列されるのですが、日本の書店では出版社ごとに分けられていますよね。どの出版社から出ているか覚えていないと、なかなか見つからなくていつも苦労します。

■翻訳者の役割
――ヨーロッパでは翻訳者の社会的な地位が低いと聞いたのですが本当ですか?
マグネ 翻訳者の役割は大きいのですが、読者はそれが分からないから翻訳者の名前を知りたがらないし、気にしないですね。作家が翻訳することもありますが、翻訳専業の人も一杯います。詩の場合は詩人が訳すことが多いです。
――重訳は多いのですか?

マグネ 昔は重訳が多かったのですが、直接訳せる人が増えてきたので原語から訳すことが多くなってきました。

――日本語など編集者が読めない言語の場合、英版と照らし合わせてチェックされることもあるのですか?

マグネ 校正者が英語を見て、日本語の翻訳が違うんじゃないかと言ってくることもないわけではないですが、最終的には翻訳者に決定権があるので、英語ではこうでも日本語では違うと言うことができます。英語の翻訳は結構大雑把なものもありますから。例えばイーカと村上春樹の短編小説を訳した時、英語版を見てみたら、センテンス丸々とってしまっていたり、難しい表現が飛ばしてあったり、特徴ある文体が生かされてないところがありました。

――日本の文学を訳すのは難しそうですね。特に川上未映子さんの『乳と卵』なんて文章が長くて癖がありますよね。

マグネ 川上未映子さんの文章は長く、リズムがあって、読んでいて癖になります。『乳と卵』で文章をできるだけ切らずに自然なノルウェー語に訳すのはとても大変でした。苦労した甲斐あって、いいものができたと思うのですが。川上さんは実際のところは考えて文章を練っているんでしょうが、作品に出てくる人物のセリフはまるで思いつきで話しているような、考えているうちに言葉が溢れだしてしまっているような感じがします。AからZまで考えてから話し出しているというよりは、Aを話しているうちにBを思い出し、そのままBが口をついて出てきてしまったような。言葉があふれ出しているかのように自然に見せるのが上手いのかもしれません。

■社会と文学

――日本とノルウェーでは女性としてのあり方が違うように思えますが、日本の女性作家の作品はどう捉えられているのでしょう?

マグネ 日本とノルウェーでは女性としてのあり方が違いますが、川上未映子さんの作品に描かれている女性の姿は、ノルウェーの読者には興味深いと捉えられていると思います。日本人作家はまだノルウェーで知られていないので、この小説を読むことで、日本の女性の生き方がわかるなど評されてしまうことが多いのかもしれません。それは翻訳者としては悲しいことで、文学を紹介しているのだから、文学として捉えて味わってほしいと感じます。小説の中で起きるごく普通の出来事なのに、そこばかり注目されてしまうんですね。ノルウェーでは不思議なことに村上春樹は日本的な作家といわれています。ある評論家は不思議なことに『スプートニクの恋人』には禅の思想が見られると評しました。

――文体の面白さはなかなか翻訳ものだと理解してもらえないのでしょうか?

マグネ いや、例えば川上弘美はどちらかといえば文体の面白さや話の面白さが伝わったように思えます。彼女の文体は凝っていて、翻訳していて大変だったけれど面白かったです。はっきりとした味のある日本語は、ノルウェー語に訳す時もイメージが湧きやすいです。

――北欧の作家は社会的なテーマを書くのが上手な人が多い気がしますが、日本の作家はどうでしょう?

マグネ 村上春樹は阪神淡路大震災にショックを受けて、作家として社会に関わりたいと思うようになり、日本の社会問題や歴史を描くようになったようです。『海辺のカフカ』、『IQ84』などにも日本の社会が描かれているように思うのですが。ただ社会批判は村上春樹以前の世代、安部公房や大江健三郎とか三島由紀夫などが盛んにしていたように思います。80年代以降は社会批判というよりは、バブル崩壊後の社会で生きる人達の虚無感を描いているものが多いのかもしれません。

――日本の出版社は日本の作品の海外輸出に積極的な印象を持っていますか?

マグネ 講談社などは自社のエージェンシーを持っていて積極的な印象です。フランス著作権事務所も、日本の作品を海外に紹介する活動に意欲的なのでは。


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