6/8開催 ひるねこBOOKS『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』刊行トークイベント・レポート①

  2018年6月8日(金)ひるねこBOOKSで『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』刊行トークイベントを行いました。

イベントでお話した内容+当日時間の都合でお話しきれなかった内容をレポートします。どうかお付き合いください。

上写真:ひるねこBOOKS代表小張隆さん。お持ちの本は『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』と、ディスカッションの参考資料として使用した『たからもののあなた』(ともに岩崎書店)。

今回のノートの内容に対応するPower Pointの画像はこちらです。

話に少し出てきた本

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●本の概要

この本は2006年にスウェーデンで出された本です。​

10歳のスウェーデンの少女エッバが、新聞記事に載っていた世界の8人の権力者が全員、スーツ姿のおじさんばかりなのに気付くことからこの本ははじまります。そこからエッバは物知りのいとこやおばあちゃん、友人達と対話しながら、なぜ男女の不平等がこの世の中に存在するのか社会の構造を探っていくという話です。

●世界での受け入れ​

 作者のサッサさんの本はスウェーデンでも一定の評価を得ているようですが、海外での熱狂はさらに特筆すべきものです。​

(ロシア)

例えばサッサさんはロシアの文学祭に招致されています。野外ステージでサッサさんがロシアのフェミニスト達と対談する中、家父長制を維持したい警察官が反意を示すかのように、会場のすぐ横にパトカーを止めて威圧してきたそうです。フェミニズムについて公の場で話すのにロシアの人達はなれていないのか、会場ははじめ緊張と戸惑いの空気に包まれていました。

サッサさんがロシアの人達にされた質問はこんなものでした。「男女平等で家庭がうまくまわりますか?」「男子が厨房に立つことで、女性の面目をつぶしてしまうのでは?」​

(トルコ)

サッサさんは今年春にイスタンブールで開かれた女性文学フェスティバルにも招致され、トルコのフェミニスト作家と難しいテーマを扱った児童書というテーマで、政治的テーマを物語のように語るにはどのようにしたらいいのか、スウェーデンの様々な児童書を紹介しながら発表しました。また児童文学におけるジェンダーというパネルディスカッションにも参加しました。

トルコの人たちからは、「男女平等先進国スウェーデンにもいまだに問題は残ってるとは意外だった。偏見と常に闘い続けなくては前進できないのだとわかった」と言われたそうです。

サッサさんは2016年にもトルコに招致されています。イスタンブールのブックフェアでなぜ子ども向けに民主主義、フェミニズムの本を書いたのか講演を行いました。​

●スウェーデンの男女平等について

​当日会場で、スウェーデンの育児休暇男女平等の歴史、法整備などについて分かる資料をお配りしました。

最近スウェーデンで相互の同意なしに性的行為に及ぶことをレイプと規定する法案が可決したことが日本でもニュースになりました。同意なしセックスを犯罪行為と定めたのはヨーロッパで10カ国目です。

(イベントではこの後、参加者の方達に自己紹介、参加理由などをお話していただきました)

●男女平等を絵本の中でどう描く?

日本で出ている働くママを描いた絵本で、私が特に素晴らしいな、と思うのは、『たからもののあなた』(まつおりかこ作、岩崎書店)です。

(イベントではこの本を読み聞かせの活動を行っている方に朗読していただきました)​

その他にも日本で出ている働くママが描かれた絵本には、『ママがおうちにかえってくる』『おかあさんは、なにしてる?』おかあさん、げんきですか』などがあります。また『はやくはやくっていわないで』も、忙しい親への子どもからのメッセージとしてとても印象的です。

ノルウェーの絵本で働くお母さんの思いがあらわれた本に『いとしいあなた』(Barnet mitt, Hilde Hagerup文、Kristin Roskifte絵)という作品があります。この本の抄訳を紹介させてください。

夜中うなされているあなたを、わたしは後ろからぎゅっと抱きしめて、耳元で子守歌を歌った。疲れで頭がぼうっとする。あなたの寝息が穏やかになったのを確かめると、わたしはまた眠りについた。​

朝がきた。わたしはパンを焼き、牛乳をコップに注ぎ、りんごを切りながら、あなたの声に耳を傾けた。「ねえ、ママ。ジャンプしてみてよ。ジャンプしている時のママって、すっごくおもしろいんだもん」重い足で、私は何とかジャンプする。するとあなたはきゃっきゃっとうれしそうに手を叩いた。するとその手がコップにぶつかり、牛乳がこぼれてしまった。キッチンペーパーではとても吸いきれない。ぞうきんをとりに行かなくちゃ。でも足が重くて、なかなか動けない。​

着替え。「ちくちくするからイヤ」と言うあなたに、わたしは無理やりセーターを着せてしまったわ。するとやっぱりあなたは泣き出してしまった。確かにセーターは、ちくちくするわね。わたしはセーターを脱がせると、あなたをひざにのせ、泣き止むのをじっと待った。「保育園に行く?」と私は聞いた。でも本当はそんなこと、聞いちゃダメよね。決めるのは、大人なんだから。行かないって言われたところで、どうしようもないもの。質問をするなら、はっきりと分かりやすく。​

​ようやく家を出る。あなたの手を引き、階段を下りながら、わたしはふと考えた。こんな風に毎日、手を引っ張られて、あなたはどんな気持ちなんだろう? 痛い時だってあるわよね。​

道端で野イチゴを見つけ、嬉しそうに摘もうとするあなた。暖かく見守ってやりたいのに、ついつい時計に目がいってしまう。​

ようやく保育園に着いた。あなたの冷たい手を握りしめながら、爪に砂が入りこんでいるのに気付いて、しまったと思う。おまけに今日、森に散歩に行くのに、ココアを持ってこなくてはいけなかったのに、忘れてしまった。「毎日ちゃんと掲示板を確認してくださいね」と先生。泣き出しそうになるあなた。すると別の先生が、「今からココアを沸かすから大丈夫。さあ、お母さん、安心して仕事に行ってください」と言って、優しくほほえみかけてくれた。でも私は自分が情けなくてしかたがなかった。

仕事場でその日、会議があったけれど、私は物思いにふけってしまった。私はあなたからどれだけのものを奪ってきたんだろう? あいまいな質問をしたり、朝、あなたをせかしたり、言うことを聞かせたいあまり、甘いものをあげてごまかしたり、公園にろくにつれていけなかったりすることで。きっとたくさんのものを奪ってきたんだわ。数えきれないぐらい、たくさんのものを。

お昼休み、私は食堂でコーヒーを買うと、窓際のテーブルに腰かけ、町を見下ろした。人、人、人。肩車されて、お父さんの肩の上から世界を見下ろす子ども。あなたもいつか私の背を追い抜いてしまうかもしれないわね。そして私はおばあさんになる。今下にいるお年よりみたいに腰がまがり、のろのろと横断歩道を渡るようになるんだわ。

仕事が終わると、保育園にあなたを迎えに行く。いつもより早く着いたのに、あなたはもう門の前で待っていた。私はあなたを抱き上げ、髪にキスをした。「今日のお散歩はどうだったの? 森に行ったの?」でもあなたは答えない。それはあなたの秘密なんでしょうね。でも、私は知りたい。あなたが何を考えているのか。私が母親として十分なことができているのか。

帰り道、公園によった。「かけっこしよう」とせがむあなた。でも私は疲れて走る気がしなかった。するとあなたは泣き出した。私はしゃがんであなたと目線を合わせた。子どもの目。私はあなたが赤ちゃんの時のことを思い出した。もっと色々なことをしてあげられたらよかったのにって、後悔ばかりが押し寄せてくる。あなたはもう4歳になってしまった。「かけっこしようか」わたしが言うと、あなたは首を横に振った。「おうちに帰りたい」

家に帰ったわたしたちは、レゴ・ブロックでお城を作り、幼児番組を観てから、お風呂に入った。わたしがシャンプーの泡に息を吹きかけて飛ばすと、あなたはうれしそうに笑った。

ようやく保育園に着いた。あなたの冷たい手を握りしめながら、爪に砂が入りこんでいるのに気付いて、しまったと思う。おまけに今日、森に散歩に行くのに、ココアを持ってこなくてはいけなかったのに、忘れてしまった。「毎日ちゃんと掲示板を確認してくださいね」と先生。泣き出しそうになるあなた。すると別の先生が、「今からココアを沸かすから大丈夫。さあ、お母さん、安心して仕事に行ってください」と言って、優しくほほえみかけてくれた。でも私は自分が情けなくてしかたがなかった。

仕事場でその日、会議があったけれど、私は物思いにふけってしまった。私はあなたからどれだけのものを奪ってきたんだろう? あいまいな質問をしたり、朝、あなたをせかしたり、言うことを聞かせたいあまり、甘いものをあげてごまかしたり、公園にろくにつれていけなかったりすることで。きっとたくさんのものを奪ってきたんだわ。数えきれないぐらい、たくさんのものを。

お昼休み、私は食堂でコーヒーを買うと、窓際のテーブルに腰かけ、町を見下ろした。人、人、人。肩車されて、お父さんの肩の上から世界を見下ろす子ども。あなたもいつか私の背を追い抜いてしまうかもしれないわね。そして私はおばあさんになる。今下にいるお年よりみたいに腰がまがり、のろのろと横断歩道を渡るようになるんだわ。

仕事が終わると、保育園にあなたを迎えに行く。いつもより早く着いたのに、あなたはもう門の前で待っていた。私はあなたを抱き上げ、髪にキスをした。「今日のお散歩はどうだったの? 森に行ったの?」でもあなたは答えない。それはあなたの秘密なんでしょうね。でも、私は知りたい。あなたが何を考えているのか。私が母親として十分なことができているのか。

帰り道、公園によった。「かけっこしよう」とせがむあなた。でも私は疲れて走る気がしなかった。するとあなたは泣き出した。私はしゃがんであなたと目線を合わせた。子どもの目。私はあなたが赤ちゃんの時のことを思い出した。もっと色々なことをしてあげられたらよかったのにって、後悔ばかりが押し寄せてくる。あなたはもう4歳になってしまった。「かけっこしようか」わたしが言うと、あなたは首を横に振った。「おうちに帰りたい」

家に帰ったわたしたちは、レゴ・ブロックでお城を作り、幼児番組を観てから、お風呂に入った。わたしがシャンプーの泡に息を吹きかけて飛ばすと、あなたはうれしそうに笑った。

あなたの寝息が聞こえてきた。あなたはくまのぬいぐるみを抱え、眠っている。あなたのほっぺたは赤い。あなたは世界一うつくしい子。世界一すてきな子。面白くて、頭がよくて、勇敢で。あなたはわたしの子ども。わたしはあなたのお母さん。

体を縮こまらせて眠るあなたを、後ろから抱きしめる。あなたがお腹にいた時みたいね。あの時、わたしはあなたで、あなたは私だった。あの時、すべてがはじまったのよね。わたしとあなたの世界が。あなたは眠っている。いとしいあなた。

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●ノルウェーのパパから見た日本の男女平等

この本を出しているノルウェーの絵本会社Magikon社のスヴァインさんは、ノルウェー文学セミナーで、「子どもをお腹の中で育て、産み、母乳をあげるので、どうしても母親の方が子どもとの距離が近くなりがちだけれど、この絵本の主人公は別にお父さんだっていいんですよ」とおっしゃっていました。「日本では母親ばかりが、仕事と子どもどちらをとるかの選択に迫られることが多いそうですが、そんなの選べるわけありませんよ。不公平ですよ」ともおっしゃっていました。

参考:『女と絵本と男』(中川素子 編纂)を会場で参考に回覧しました。

●なぜお父さんが描かれていない? シングル・マザーなの?

参加者の1人の方から、なぜノルウェーの絵本の方には父親が描かれていないのか? シングル・マザーなのですか? という質問が出ました(『たからもののあなた』の方の1場面で、お父さんのスーツがかけてあって、お父さんの存在が示唆されているそうです)。

これと似た疑問を私も抱いたことがあります。『ママ!』(キム・フォップス・オーケソン作)にはお母さんと子どもしか出てこないので、デンマークの児童文学センターの所長に、お母さんはシングル・マザーなのかうかがったのです。

すると所長は、そういう疑問を抱くことを意外に思ったようでした。北欧では離婚率が高く、シングル・マザー、シングル・ファザーは珍しくありませんし、逆に父親と子どもしか出てこない絵本も多くあるそうです。なので、シングル・マザーかシングル・ファザーかがポイントとは現地の人はあまり思わないとのことでした。

またどちらか片方の親のみ描くことで、お父さんと子ども、お母さんと子ども、とそれぞれの関係性にスポットを当てて描くことができるのも理由だそうです。

日本でもお父さん、お母さんどちらかだけを登場する絵本を作ることで、多様な家族のあり方を示すことができるのではないでしょうか。

この後、4人、4人、3人のグループに分かれて、働くお母さんを絵本などの児童書でどう描いたらいいか話し合いました。

参考:『学校をジェンダー・フリーに』(亀田 温子、舘 かおる ・著)

『実践ジェンダー・フリー教育』(小川 真知子 、森 陽子 、日本女性学研究会「学校と女性学」分科会 ・著)

『どうしていつも男が先なの?―男女混合名簿の試み』(男女平等教育をすすめる会 ・著)を会場で参考に回覧しました。

(つづく)


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