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理想の関係性、なんて勝手な押し付けだけれど

名前のない関係性が好きだ。

というか、本当は関係性なんて一つ一つ全部違うのだから、すべてを同じ名前で呼ぶことの方がおかしいんだけど。

名前のない関係性っていうのは、たとえば友達関係の中に見えるいわゆる「恋愛」と「友情」のはざまにある絆、みたいな、上手く言い表せないんだけど、その相手を他のひととは違ってとくべつに大切にしていることがわかる関係みたいなもの。そしてそこには「付き合いたい」「キスしたい」みたいな固形の感情じゃなくて、「これからも一緒にいたいな」「こいつ大事にしたいな」みたいなゆるゆるとした、柔らかい、固体と液体の間みたいな感情があるだけで、お互いに同じような感情を共有している、みたいなのが理想の関係性だ。そこには性別も年齢も、関係ない。

同じような感情を共有している、というの、非常に大事かもしれない。そんな理想の関係性なんてないよ、美化しすぎだよ、と言われるかもしれないけれど、よく見て。そんなに現実離れした関係性じゃないんじゃないかな。

今の時代、関係性は多様化している。「男女の友情ってあると思う?」なんて質問は古臭すぎる。そんなの、「女子/男子同士の友情ってあると思う?」っていう質問となんら変わらない、意味のない質問だ。あるに決まってる。多様化している関係性をなるべく表そうとする言葉も今から既に試みられているし、これからもたくさん出てくるだろう。分類わけ、まぁそう悪いことじゃない。

たとえば、今行われているセクシュアリティ・ジェンダーの分類することは、その分類に入ることができた人間を安心させられるということにつながる。男/女という二項対立の価値観がベースとなっているところにいる、自分のアイデンティティを決定できない、不安定な場所に立つ人が、自分の所属するカテゴリーを見つけて安心できる。悪いことじゃない。ただ、カテゴリーを決めてしまうと、どうもカテゴリーの中身が見えなくなってしまう、という問題点はある。トランス女性を見て「オカマってファッションセンスあるんでしょ?服選んで!」と言う、なんてまさにカテゴリー化の弊害だ。いやオカマ全員ファッション属性全員持ってるわけじゃないから。視覚障碍者全員耳いいわけじゃないから(cv:濱田祐太郎)。

話を戻すと、現在主に為されている分類のうち、人間関係にかかわるものは「性的指向」つまりは「どんな人を愛するか」というものしかない。この世の中の人間関係は、愛とそれ以外(主に友情)しかないのかい?うそだぁ。現状、性的指向の分類が行われているのは、ヘテロセクシャル(異性愛)が当たり前!みたいな価値観を根底からぶっ壊すためであって、そう考えたら「人間関係は愛とそれ以外(主に友情)!わーい!」って価値観も、根本からぶっ壊されていいのでは?とか思ってしまう。

言葉ってすごく大事で、言葉ができるとその概念が生まれたりする、と思う。愛って言葉が出来上がる前は、愛なんて存在しなかったんじゃないかな。日本語は一人称がすごく性別化されているから、より一層男らしさ女らしさに目が行ってしまうのかも。

愛以外の関係性、みんな多分うすうす存在していることには気づいているけれど、どこにも分類されない関係性たちが確かに存在することを示すために名前をつけたい。「もう結婚しちゃえよ」「もう付き合ってるだろ」みたいな安易な言葉で、その関係性を表したくない。汚したくない。と同時に、だからこそ、すごくすごく名前をつけたくない。名前をつけたら、その関係性の中に確かにあったはずの純度が、カテゴリーの中に吸収されて、消えて行ってしまう、俗化してしまう気がする。その関係性を、みんな安易に表現するようになる。まるで「エモい」みたいに。エモいってすごく便利な言葉で、今まであいまいすぎて表現しづらかった感情をこの一言で言い表せるようになってしまった。でもだからこそエモいは量産されて、今まで名前がなかったからこそ大事にされてきた部分の感情も消えて全部一緒になってしまったような気もする。この関係性が、エモい、みたいな扱いになるのは嫌だな。

たまらなく好きだけれど付き合いたいわけじゃない、とか、一生傍にいたいけど結婚したいわけじゃない、とか、その「友達」とキスしても明日もまた変わらない毎日を送れる、とか、何のてらいもなくその「友達」を守れてしまう、とか、一つ一つに名前をつけるのもいやだし、かといって全部同じって思われるのも嫌だな。やっぱり名前はないくらいがちょうどいいのかも。そういう意味でも名前って重要だね。

ゆくゆくは全部、名前なんて関係なくなったらいいのに。私とあなたの関係性は私とあなたであって、それ以上でもそれ以下でもないもの。お互いに同じくらいの思いを抱きあって、ゆるやかな関係性を作りたい。私はあなたを気に入っていて、あなたは私を気に入っている、どんな関係性もそんなもんなのに、すごく簡単なことなのに、どうして難しいんだろう。難しく考えちゃうんだろう。

どんなに難しく考えたって、目の前にある好き、からは逃れられないんだけどね、結局。耳に小さく開いた穴に昔の恋人の影を見て、思わずピアスをぶっ刺しちゃうくらいには。

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