「多様な生き方が実現できる社会をつくるには」Re.ingトークイベント書き起こしレポート(前編)

こんにちは!Re.ingの大谷です。
大雨や地震など、天災が続きましたね。被害が大きなところもありました。早く元の生活が訪れることを心から祈っています。どうか、身の安全だけは第一にされてください。

今日は、7月5日(木)に開催したRe.ingのTALK EVENT「多様な生き方が実現できる社会をつくるには」の書き起こしレポートの前編です。個人的にも、とても楽しみにしていたトークセッション。業界や、社会に根強く存在する「当たり前」という概念に、全く違う視点で取り組んできた、白木、高木と、トランスジェンダー活動家の杉山文野さん。時に、逆風を受けながらも社会課題に様々な視点で向き合ってきた3人が繰り広げたトーク内容は、非常に濃いものとなりました。

<登壇者プロフィール>

白木夏子 / Re.ing共同代表

起業家。株式会社HASUNAのCEO。世界の宝石鉱山労働者や、職人とともにジュエリーを制作するなど、ビジネスの視点で日本における、エシカル消費文化の普及につとめている。
高木新平 / Re.ing共同代表

株式会社NEWPEACEのCEO。「20世紀をぶち壊す」というVISIONを掲げ、社会課題からストーリーを組み立てることで、新しい形のブランディングを実践。“ 普通 ”や“固定概念 ”を、クリエイティブ・プロダクト・サービスを通して打ち破っている。
杉山文野 / トランスジェンダー活動家

1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。
早稲田大学大学院にてジェンダー論を学んだ後、2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。現在は日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事、セクシュアル・マイノリティの子供たちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、各地での講演会やメディア出演など活動は多義にわたる。


業界や社会に根付く古い
価値観をアップデートしたい

ー まず、Re.ingプロジェクトの始まりからお話させていただきます。はじめに共同代表の2人から自己紹介をお願いします。

白木「初めまして。白木夏子です。私は、もともと国際協力をしたいなと思っていて、国連でインターンをしていました。でも、少しずつ今社会にある課題をビジネスで変えたいと思い始め、27歳の時に、ジュエリーブランドのHASUNAを立ち上げることになりました。

▶︎HASUNA:HP

そのきっかけは、鉱山労働者の方々とたまたま出会ったことにあります。インドの貧困層、アウトカースト(カースト制度に入らない)と言われる方々がインドには1億人ほどいると言われているのですが、2ヶ月間寝食を共にしたことがありまして。5-6歳の子も鉱山に入って働いていたり、大人たちも一日一食しか食べられない環境で、彼らは、40度近い灼熱の中で朝から晩まで強制労働させられているという状況で働いているんです。かたや、鉱山から取れるものって、私たちが普段使っているPCやスマホに使用されるレアメタルや、ジュエリーになる素材なんですね。私たちの便利で豊かで、美しい生活のためにこの方達は働いているんだって、その時初めて知ったんです。勿論、その中にはブライダルリングに使われるものもあって。それがすごく衝撃的で、何とかこの状況を変えたいなと、自分が何ができるんだろうと考えた時に、そこで取れる金や石を使ってフェアトレードという形で仕入れてきて、日本でジュエリーをつくって解決できないかと考えたんですね。いいお金の流れができれば、少しでも世の中が変わるんじゃないかと思って。

今、HASUNAのジュエリーはパキスタンの山で取れたアクアマリンや、トパーズ、ペルーの首都から車で10時間、南に走った金の鉱山で採掘された金などの素材を使っています。

このペルーの鉱山の金は、1gあたり5000円ほどなのですが、そのうち2.5ドルがその土地の小学校の建設や、安全設備などに使われています。そんな形で、今は10カ国ほどで取引をしながらジュエリーをつくっています。

10年ジュエリーブランドをやってきた中で、私たちのブランドは結婚指輪も取り扱っているので、色んなお客様が来られるんですね。入籍したカップル以外にも、事実婚の方や再婚の方、子連れ婚の方、1人で生きていくって決めている方、そして同性カップルの方など、色んなバックグラウンドをお持ちの方がいらっしゃっるんです。でも、ブライダル業界の広告やブランディングが、男女のカップルで教会のようなところで結婚式を挙げってっていうイメージしかなくて。その価値観の古さを、変えたいなと思っているところに、新平くんと話す機会がありまして、今回Re.ingが生まれることになりました。

高木「こんばんは。高木新平です。夏子さんから、エモい個人的な話があったので、僕も最初に1つ自分の経歴について、お話ししたいなと。僕は、今NEWPEACEという会社をやっていまして、その中でこのRe.ingを立ち上げたのですが、会社では「20世紀をぶち壊す」というビジョンを掲げています。

▶︎NEWPEACE:HP

このビジョンにした理由はいくつもあるのですが、新卒で入社した博報堂という大企業での経験が、大きくあります。2010年入社当時は、ちょうどFacebookやTwitterといったSNSが流行し始めた頃でして、僕自身ソーシャルメディアを使った新しいキャンペーンを考えたいなと思い、手を挙げてやっていました。そこで最初に担当したのが電力系組織の仕事だったんですね。その頃は、原子力発電を推進したいというタイミングで、火力・水力に次いで原子力への国民の理解を深めなければ、という流れがありまして。そこで一方的な広告ではなく、ソーシャルメディアを使って国民と議論できるプラットフォームをつくろうとなったんです。当時は、社内でもソーシャルメディアのことは誰もわからないということで、僕がアサインされて頑張ってやってたんですよ。

そんな風に4月1日のリリースに向けて準備している最中、3.11が起きました。当時は対応に関しても色々な葛藤があったのですが、“オープンでフラットに議論ができるプラットフォーム”だと言いながらも、元々、クライアントからお金をもらい創ったものだったので、どうしても「安全だ!」ということを言わなければならない、刷り込み型のものになってしまっていることに疑問を感じていました。その状況下で、どうしても自分が心から応援できていない、という気持ち悪さもあって辞めることにしたんです。同時に、仕事とはいえ、20世紀の負の遺産を背負わされることが嫌だな、って思ったんですね。

とはいえいきなり辞めて行き場所もなくなってしまったので、3.11をきっかけに会社を辞めた数人の仲間たちと、シェアハウスを始めました。その頃、これからシェアハウスは面白くなるな、と思っていたので力を入れてやってたのですが、ある日自転車事故を起こしまして。相手が悪く、話も聞いてもらえず、泣き寝入りすることになったんです。でも保険入っていないから、かなりお金がかかってしまって。その時に、会社組織から出るとこんなことになるのかと奈落の底に落ちた感があったんですよね。そこから、お金ないからハローワークに通うっていう日々になって。『何をしているの?』って聞かれた時は、『シェアハウスの運営』って言ってました。でも、今だとそれが仕事として通じるところもあると思うのですが、2011年当時はシェアハウスはまだメジャーでもなかったので、結局『ニートってことね』って解釈されて。悔しくて『シェアハウスはメディアだ!』って言いながら、“夜ヒルズ編集長”と名乗っていたんですよ。

その時、僕らはもっと自由な生き方や働き方があるはずなのに、社会の仕組みや価値観はまだまだ古いんだと、そういう怒りを感じて日々生きてて。そして、段々『その古い価値観をアップデートすることを、仕事にするか』と思い始めたんです。そこから、NEWPEACEを立ち上げ、ある意味会社を使いながら、例えば政治家や国、クライアントと一緒に、古い価値観や概念を壊せるように、色んなことを仕掛けるという仕事をしています。

例えばこれはDeNAとクロネコヤマトと組んだ「ロボネトヤマト」っていう自動運転配達。最初は、DeNAが自動運転で自動車業界に進出する時に電車やバスがなくなった消滅可能都市と言われるような過疎地域を救うというプロジェクトとして立ち上げたもの。

▶︎ロボネコヤマト

また2015年にはGaiaxと、シェアリングエコノミーを広げるために“シェアリングエコノミー協会”を立ち上げました。さらにロビイングするための装置ということでコワーキングスペースなどが入った、GRIDというビルを永田町につくったり。

▶︎Nagatacho GRID

またVICTASという卓球メーカーとは、卓球日本代表のユニフォームをつくることからやっています。僕自身も実は卓球部だったのですが、当時は体育館の端で気が狭い思いをしながらやってまして。マイナーなスポーツのイメージが強いんですよね。でも、今ってこれだけ大きな競技人口の中で、卓球ほど若い世代が世界で活躍して、優勝できうるポジションにいる面白いスポーツって、なかなかないと思うんです。下は14歳とかですからね。さらに、最近はIT企業が卓球台を導入したりという流れができているおかげで、オフィスで卓球をするカルチャーができていたりとか。その流れに乗りつつ、渋谷のタワレコの横に卓球ができるバーをつくったりと、イメージを変えるために色々仕掛けています。

▶︎VICTAS

そうやって、今までのイメージやあり方を変えられるようなプロジェクトにビジョンを与えて、表現に落とし世の中にコミュニケーションするっていうことをやっています。

Re.ingについては、パートナー企業としてHASUNAがありまして。勿論白木さんのことは、エシカルという考え方をジュエリー業界に持ち込み、革命を起こした方ということで知っていたんですけど、エシカルが、ある程度業界のスタンダードになってきたところで、次の課題は何だろうと。そこで、人と人とのパートナーシップの形が日本はまだ1対1の男女に囚われていて、そういった慣習の上に産業が乗っかっているなと感じたんですよね。そこで、それ自体を問い直したいなと思って、新しい指輪のブランドをつくりましょうという形で提案させてもらいました。


「普通」や「みんな」という空気が
人や社会を停滞させてしまう

ー 最初は、LGBTの方に向けたジュエリーをつくれないか、というところからスタートしたんでしたっけ?

白木「いえ、特別にLGBTの方のためにつくりたいという思いはかったんです。最初は投資家である谷家衛さんから、これからはLGBTの方々のマーケットが大きくなっていくから、何か考えてみたらと言われていていたんですね。

でも、その方達のためっていう形でフォーカスするのは違うと思っていたんです。そんな中で、自身の経験を通して日本のパートナーシップの形について疑問に思うことが多くなっていまして。結婚って入籍しなきゃいけないのか、なぜ同性の方の結婚がダメなのかって。例えば、私は3年ほどイギリスに住んでいたのですが事実婚カップルの間に生まれた子供も多かったんですね。でも日本では非嫡出子になると、社会的な偏見があったり差別を受けるかもしれないっていう空気があるなと。フランスに行くと、非嫡出子として生まれてくる子供が半分以上なのにって。今、私は36歳なのですが、周りの働いている女性たちが出産するか否かを迫られる年齢になってきている中で、パートナーがいないから、結婚していないから、未婚の母扱いで後ろ指さされる可能性があるから、といった理由で出産を躊躇したり、諦める方も多いんですよ。子供ってどんな形で生まれたとしても、本当は宝物のような存在であるし、日本はこれだけ少子化が問題って言われているのに、社会の空気が理由で諦めちゃう人がいるのって勿体無いなと。例えば、イスラエルでは子供が生まれることは何よりも素晴らしい、という風潮があるから精子提供も非常に安価で行われていたりするのになと。そこで沸々と、今の日本の社会のあり方への疑問や怒りを感じるようになってきたんです。」

高木「例えば離婚する方も、今は3人に1人って言われていわれていますもんね。他にも、授かり婚って“できちゃった婚”って言われて後ろめたさを感じる空気があったりとか。男からすると、結婚に踏み切れるひとつのきっかけだったりするから、全く後ろめたさを感じることなんてないと思うんですけど、順番を守らないのがどうだとか。これは、一種の広告の弊害なんだと思うんですけど、こういうのが幸福の形である、っていう表現がそれを際立たせているのかなと。ラベリングすることでわかりやすさが増すから、受け取る側はこれが正解って感じてしまうんですよね。永遠を誓うって、ロマンスはあるかもしれないですが、それだけじゃないじゃないですか。僕も結婚はしていますが、今って人生長いから永遠っていう言葉が目の前にくると気が引ける部分もあると思うんです。」

白木今は、人生100年時代って言われますよね。ちょっと前までは、男性が頑張って定年まで働いて10-20年の余生を夫婦だけで過ごすということが、日本の正しい家庭像みたいな形としてあったと思うのですが、私たちの世代は70-80代まで働けるし、むしろ年金ももらえるかどうかもわからない中でその年齢まで元気に働かないといけなくなっている。新しい生き方を模索していかなきゃいけない時代に入っていると思うんですね。「LIFE SHIFT(ライフシフト)」という本があるんですけど、皆さん、読まれたことありますか?是非、読んでみて頂きたくて。これまでは1つの会社や同じコミュニティに属して生活していくことがデフォルトだったと思うのですが、今は人生100年時代だから、職業を何度も変えたりとか。それが軽やかになって行って、いろんな職業を掛け持ちしたりパラレルキャリアの人が増えたり、もしかすると長い人生の中では、パートナーも変わっていくかもしれない、っていう考え方なんですね。私もその考え方に賛同していて。例えば、周囲の男性でこれからの人生長いから、って結婚に躊躇する友達も多いんです。永遠を誓う入籍のハードルの高さがあって踏み込めないのであれば、フランスのPACSのようにもう少しカジュアルに結婚しようって思えたり、それを皆で祝福しあえるような世の中になると、少し社会が前に進むのかなと思ったりもしていたんです。」

高木「というような、雑談をしていまして(笑)。その中で、事業としての勝ち筋とかよりも、パートナーシップを問い直すようなプロジェクトをやりたいねっていう話になったんですよね。今は、1対1の男女っていう組み合わせからはみ出た関係性の方が、多いんじゃないかと。僕の仮想敵は、一億総中流なんですけど、日本人は、「普通」と「みんな」っていう考え方が根強いですよね。誰も正解と言えない、見えない空気が。でも、そこの恩恵を受けている人はもう半分もいないんじゃないかなって。はみ出している人たちって、そこで既に個々多様だから、見えづらさというものがあると思うんですよ。なので、そこの受け皿というか何か肯定できるような提案を、していけたらいいなと思って、そういった関係性の象徴である指輪から始めようってなったんですよね。だから、まず9つくらいの関係性の指輪から発表していこうって。先週の日曜日は、遺骨でつくるダイヤモンドリングのイベントを開催して、安田菜津紀さんを招いてトークをしたんですけど、あるカップルの、女性が亡くなるまでの写真を撮り続けられていて。それが幸せそうな看取りの光景で。男性は彼女を失ったわけですが、そう聞くと「不幸」とか「早く忘れたいだろうな」とか、そうなるわけじゃないですか。でも写真を見ているとその2人の間には最期まで、幸福があって。その後もその男性は、亡くなった女性に生かされているんですよね。そういった関係性の形もあるし、その相手が同性だったり、ペットだったり、入籍しないパートナーだったり、それぞれだと思うんですよ。家族みんなをつなぐっていうのは、授かり婚を前向きに捉えられないかとか。そういった関係性を色々と考えながら、指輪をつくっています。」


「誰もが生きやすい社会をつくりたい」という
それぞれの想いを伝えるために


ー その第一弾が、今回のテーマでもある「LITTLE RAINBOW」ですね。

白木「はい。LITTLE RAINBOWは、内側にレインボーをあしらっているんですけど、これは人間の多様性っていう、カラーが本来持つ意味を表現しているんです。でも実は、メンバーにはLGBTに関しては誰も当事者がいなくて、そんな私たちがそういった意図を含んだ指輪をつくるということが本当にいいことなのか、おこがましいことなのではっていうことを、かなり悩みました。ギリギリまでプロジェクトメンバーで議論して。私もたまに、自分自身にラベルを貼られることがあり、女性起業家って言われること違和感があったりするんですね。男性起業家とは言わないのに何で?とか。例えば、これは女性起業家向けの◯◯ですって言われても、全然嬉しくないなって。そういったことがしたいわけではなかったので、この指輪のコンセプトについては文野くんにも、色々と相談させてもらったんです。それで、最終的に“すべてのカップルのためのマリッジリング”になりました。」


ー そうですね。文野さんに相談させてもらって理解を深めるうちに、伝え方には本当にこだわりたかったですよね。「LGBTの方のための」というのは意図と違った。カップルが皆、同じように祝福されるようにっていう想いが1番の根底にあったので、誰かにとっての特別にはしたくなかったんですよね。文野さんに質問ですが、1番はじめに、このプロジェクトについて聞かれた時、どう思われましたか?

杉山「最初は、確かに指輪ってカップルや男女の結婚という象徴的なものだったりするので、アプローチが面白いなと思いましたね。ただ、今言われたようにLGBTのためのリングって言われても買わないと思うんですよ。例えば、トランスジェンダー用のトイレなんて用意されたとしても、そこに入っただけでカミングアウトするようなものじゃないですか。当事者の僕たちも、自分たちを特別に扱って欲しいわけじゃないんですよね。だから、「すべての国民に」とか、「すべてのお客様」と言うように、その「すべて」の中には、LGBTだったり、他のマイノリティの人たちもいるっていうことを伝えていきたいなと、日々思っているんです。LGBTについては、近年認知が一気に上がったり、社会で機運が高まっているからこそ、当事者の中にもこの流れについていけていない人たちもいて。特に、経済活動に巻き込まれるんじゃないかとか、ターゲットにされるとか、そういうことに嫌悪を抱く人も勿論いるんです。要は、今まで散々差別をされてきて、自死で友人を亡くした方も少なくない中、急に「LGBTマーケット」だなんて突然言われ始めて、お金になりそうとなったら企業が手のひらを返したように、話を聞かせて欲しいとか、おだてられるようになったと。そういう風潮に怒りを覚える人もいるんですよね。でもそういう現実もありながら、少しずつ色んな形で社会にアプローチしていくっていうことも必要だと思っていて、僕自身はそこの摩擦をできるだけ抑える役割を果たしたいと思っているんです。誰もが生きやすい社会をつくりたい、という目的は、皆同じだと思っているので、アプローチの方法やコミュニケーション不足で揉めたり、仲間割れして社会が前に進むきっかけがなくなってしまうことは勿体ないなと。

なので、Re.ingの話を聞いた時は絶対にやったほうがいいと思ったし、だからこそ、世の中に出る時にできるだけ摩擦が起きにくいように、自分が経験してきたことを通して協力したいなって思いました。書き方とかも、最初にもらった時は結構ダメ出しさせてもらったと思うのですが、きちんと意図が伝わる形をつくることが大事だと思ったので。」


小さな想いの積み重ねが
社会の空気を変える、大きなムーブメントを生む

ー 思わずお聞きしたくて話を振ってしまい、順番が逆になってしまったのですが、文野さんの紹介をさせてください。

白木「文野くんは、元々日本女子大でフェンシングの日本代表なんですよね。今年は15万人が参加した日本最大のLGBTプライドパレードを率いて、大きなムーブメントを起こされたLGBTアクティビストのお一人です。」

杉山「僕は杉山家の次女として生まれたのですが、小さい頃から体に対する違和感がありまして。幼心にそれは、言っちゃいけないことだと思って誰にも言えずに過ごしていたのですが、高校の途中から少しずつカミングアウトし出したんですね。でも『そうか、最終学歴が女子校はつらいな』ということで、フェンシングの推薦で早稲田大学に入りました。就活の時も、男女のどっちに丸をつければいいんだろうということから悩んでしまい、なんとなく将来を諦めていたんですよね。そんな時、たまたま乙武洋匡さんに出会って『本を出さないか』ということになったんですよ。そのきっかけが、乙武さんを街で見かけた時に、『すみません、手術しないんですか?』って声をかけたことだったんです。その当時、僕は性別適合手術を考えていたのですが『文野は、なぜそこまでして男に変わりたいの?』って聞かれることが多くて。僕にとっては、変わりたいではなく、元に戻りたいという感覚だったんですけど、それをなかなか共有できる人がいなかったんですよね。それで、乙ちゃんを見た時に、もしかして手足があるっていうのが人間としてあるべき姿だとしたら、手足を取り戻したいと思わないのかな、と思って『手術しないんですか?』って突然聞いたんです。彼も、きっと世界中で声をかけられていると思うのですが、そういう声のかけられ方は初めてだったと思うんですね。びっくりされましたが、理由を話すと『ご飯に行こう』って言ってくれて、仲良くなったんですよ。

さっき、なっちゃんからは“アクティビスト”って紹介されたのですが、実はアクティビストになりたいと思ったことはないんですよね。何らか活動すると、そう称されるだけで。本を出したのも、LGBTの存在って、当時は水商売やテレビタレントのイメージが強かったので、そうじゃなくて普通に隣で生活している誰かも、LGBTだったりするんだよっていうことを知ってもらいたくて出したんです。結局その本が出た後は、どこに言っても「性同一性障害の人」って言われるようになってしまって。当時、グリーンバードで掃除のボランティアをやっていまして、取材を受けた時も、僕は掃除のことについて話したのに、結局出てきた記事は、<グリーンバードで活動する杉山文野さんは、性同一性障害を乗り越えて掃除をしています>って。

僕は僕です、と言ったら、それ自体が活動になってしまったというわけなんです。本来、制度についても、生きるために制度があるわけで、制度のために生きているわけではないですよね。時代の流れでアップデートされるべきだと思うのですが、どうしても追いついてないなと。何十年も前に作ったルールだから、無理があるのは当たり前だと思うんですよ。例えば、結婚も以前は女性の永久就職のような感じで、結婚自体が人生にとって大事だった時代もあったのかなと。それが悪かったわけではなく、今は女性が社会進出し始めて、自立ができるようになって、変化しただけなんですよね。じゃあ、同性婚だけではなく、別姓の問題や、事実婚についても今の制度が時代にあっているかというとそうじゃないのかなと。だからこそ、どうアップデートしていくかが我々の世代の使命なのかなと思っています。」


多様な社会とは、
誰のためのものなのか

ー 今は、具体的にどういった活動をされていますか?

杉山「例えば、これは渋谷区のパートナーシップ制度導入に携わった際の写真です。海外でもニュースになったりもしたのですが、実はこれも、『制度を作ってやるー!』っていう想いで始めたわけではないんですよ。先ほどお話したグリーンバードというゴミ拾いのボランティアから始まったのですが、渋谷区長の長谷部健さんって、元々LGBTに深い理解があったわけじゃないんです。むしろ全然知らなくて、『へえ、お前みたいな奴もいるんだなあ』くらいの感じだったのですが、ゴミ拾いを通じて話をする中で仲良くなって。その頃ちょうど本が出たんですけど、そうすると全国から当事者が会いたいって言ってくれるようになりまして、1人ずつ会いきれないからグリーンバードっていうところで掃除してますよってブログに書いたんですよ。そしたら全国から当事者が集まって、毎回レインボーな掃除の会になってしまって。それを見た長谷部さんが、『すごいな、LGBTってこんなにいるんだな。』ってなって。こんなに困ってる人がいるなら何かできないかということで、小さな勉強会から始まったんですね。そうするうちに、日本は同性婚ができないということについて、長谷部さんが『たかだか紙切れ1枚かもしれないけれど、自分は婚姻届を出した時に幸福感があったんだよね。』と。『その幸福な気持ちを共有できたら、少し街の空気は変わるのかもしれないね。』ということで、7-8年前に話が出て、やっとこういった形に至ったんです。」


ー 文野さんはご自分の事業をやりながら、まさにパラレルで様々な活動に携わられていますよね。

杉山「そうですね。普段は飲食店の経営をメインに、年間120本ほど企業や学校で研修や講演をしたり、レインボープライドの運営をしています。なぜ飲食店の経営なのかって、突き詰めると居場所づくりをしたいという想いが根底にあるんですよね。ゴミ拾いも、飲食店も、パレードも、いろんな人が垣根を超えて集う場をつくりたくて、場所づくり屋さんになりたいなと。

というのも、何よりも人との出会いがエネルギーになるということを信じているからなんです。セクシュアリティに限らず、色んな相談を全国の人から受けることが多いのですが、ちょっとしたきっかけを探している人が多いなと感じるんです。そこを後押しできるのが、人との出会いだと思うんですよね。だから、LGBTだけをわかってください!っていう活動をしているわけではなくて、LGBTという切り口でたくさんの人と話ができる場をつくることで、いろんな人がいるよねという認識の底上げをやれたらいいなと思っています。」


ー レインボープライドは、今や15万人が集まる場所ですもんね。

杉山「そうですね、ボランティアにも来てくださってありがとうございました。」

ー 参加できて、本当によかったです。いわゆる“普通”っていう概念や“男女”という括りが、その場から消えているなと感じました。色んな人がいて、その状態が“普通”なんだなって。その場にいくことで初めて感じた感覚で、なかなか、今まで日本で生きてきた中では経験したことがない場が、そこにあったなと。

▶︎Re.ingスタッフで参加したドラァグクイーンブース

杉山多様性って誰の話っていうと、当たり前だけど皆の話なんですよ。多様性という話題になると、外国人、高齢者、障害者、LGBTって、そういう対象がメインになるんですけど、時と場が変われば自分も当事者ですよね。だっていつかは歳を取るし、海外に行けば自分が外国人だし。いつ病気になったり、事故に遭うかもわからない。自分がLGBTの当事者じゃなくても、自分の子供や、好きになった人がそうだったら?って。だから、誰も線引きはできないんですよね。切り口によっては、誰でも何かしらの部分でマイノリティだったり、他のことで言えばマジョリティでもある、っていうことなんですよ。だから、マイノリティの課題に向き合うことは、マジョリティの問題でもあるし、マイノリティにとって優しい社会はマジョリティにとっても優しい社会だと思うんです。僕は、そのことを、今はマイノリティとされるLGBT当事者の立場から、伝えていきたいなって思っています。」

ー 次回、後編に続く(7月末日公開予定)

moderator&writer
:Aska Otani @aska28d

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