音楽好きでもない夫(51)、藤井風「燃えよ」に恋をするの巻

なんだか、周辺の人々が次々に藤井風にはまっていく。
中学生の息子の周辺だけでも、お父さんが風ファンという女子2名、「『旅路』もええけど、私はやっぱり『帰ろう』やなー」とか言ってる先生1名、spotifyで聴いているという先生1名、修学旅行に出かける息子を「無事に帰ってきてまた風くんトークしようねー」と送り出してくれた先生1名、その他ライトな風支持者数名。
私の周辺では、仲良しだった元同僚1名、義姉の妹さん、そして母w

しかし。息子と一緒に藤井風に熱狂しながらも、のどに小骨が刺さったようにすっきりしない気分でもいた。
夫の存在である。
きゃーきゃー言ってる私たちのことをやや冷ややかに見ている感が、ちょっと気がかりだった。
 面白くないんだろうか。若い美男アーティストにうつつを抜かしている私のことが?
今までと全然毛色の違うサウンドにどっぷりはまっている私を、「今までの推しを裏切りやがって」とでも不快に感じているのだろうか?
はたまた単に寂しいだけなんだろうか?
別に、夫にもはまってもらって一緒に応援したいわけではない。
けれど、最低限、穏やかな気持ちで眺めていてもらえれば。
youtubeで流すたびにちょっぴり不機嫌そうになる(ように見える)夫に遠慮して、こそこそ風さんを応援する日々が続いた。

夫は音楽が得意なわけでもなく、推しアーティストがいるわけでもない。ごく普通のおじさんだ。
若い頃、モテたくて買い集めたというCDは、通りいっぺんの当時の売れ線アーティストばかり。
おまけに、子ども時代からの特撮ファンときていて、カラオケで歌うのは特撮ソング、アニメソングばっかり。
私と出会った頃こそ、私のことを知るために、私がすすめるアーティストを片っ端から聴いてくれたけれど、その後全然それらを聴きもしないのは、本当に気に入ったわけじゃないことを表していた。
そんな人だ。藤井風との精神的和解(?)をどうやって果たしてもらおうか(ていうかそもそも嫌いかどうかもわかんないけど)。

一家団らんの際にも極力音楽の話題は出さないことにして、夫がいない時に一人で楽しむようにしていた私にはおかまいなく、息子(超マイペース)は毎晩お風呂で楽し気に藤井風の曲を片っ端から口笛吹いていた。本当に毎晩。それがまた無駄に上手いのだ。
「夫が気を悪くしないか……」と内心困っていた私。

ところが。
毎晩毎晩の息子の布教(?)が、意外と功を奏したことが分かる時が来た。
技術家庭の時間に作ったという、スマホからBluetoothで音楽を飛ばせるというスピーカーを、息子が持って帰ってきて、当然のことながら藤井風をかけて楽しんでいた。
それが3日ほど続いたある日。
夫が帰宅したのを見て慌ててスピーカーを切ろうとした私に「ええよええよ、そのまま聴いといて」と夫が言うではないか。
え? 本当に?
以後、シャッフルで延々、ありとあらゆる曲を聴き続ける夫。
「一度どんなんか、ちゃんと聴いてみたいと思って」と夫。
特に気に入った曲があるわけでもなさそうだけど、おおむね好意的に聴いてくれてるように感じた。

その数日後、こんなことを言い出した。
「最近、風くんの曲がふと頭に浮かんできてぐるぐる回って大変なんよ……。特に ♪のーのーべいべー♪ とか」
あー、「燃えよ」の一節だわね。しかしなんて外れた音程……。
ここから、夫に対する歌唱指導が始まった。
夫「♪あしたのことなどのーのーべいべー♪」
息子「なんで♪No のところで上がるの? こうやで、♪明日のことなどNo no baby♪」
夫「♪あしたのことなどのーのーべいべー♪」
私「babyの by は下がるねん! ♪明日のことなどNo no baby♪」
夫「♪あしたのことなどのーのーべいべー♪」
私「(とほほ)……うーん、無理やり歌えるようにならんくてもええんちゃうかなあ。この曲難しいし」
夫「いや、歌えるようになりたいんよ! ずっと頭に残ってる曲やから! ぼくはこの曲に恋したんやから!!
私「恋!!」
そんなにも気に入ってくれたのなら仕方ない。
練習の成果があって、まずは ♪明日のことなどNo no baby♪ だけは歌えるようになった。
それにしても、「楽曲に恋する」という表現は、我が夫ながらなかなか面白い。

以来、藤井風に対する夫の態度はかなり柔らかくなった。
夫がそうなのかどうかはわからないしあくまで私見だが、「すかしてるように見えてなんとなく嫌い」「何もかも持ってる彼のことを、同じ男として受け入れられない(ライバル視してしまう)」という壁が男性にはあって、ある時その壁は(人にもよるが)いとも簡単に崩れてしまうようなのだ。
SNSなどで散見される、熱狂的な風ファンの男性たち。
私の知る限り3歳くらいの坊やから御年87歳のお爺様まで、女性ファンに負けない熱量で彼を支持している男性ファンたち。
我が夫もその一員になりそうである。

そういう私も、藤井風のファンになって丸一年。たかが一年、だけどその一年がなんと濃密な日々だったことか。
彼の圧倒的な魅力に押し流されてわけもわからずただただ聴くだけの日々。
仕事がほんっとに辛くて上司の前で大荒れに荒れたりしつつも、彼の歌にさりげなく背中を押してもらって前に進んだ日々。
そう、上司に本音をぶちまけられるようになったのも、思えば彼の歌を通して「自分らしくあるために本気で自分や周囲と向き合う」ことの大切さを知ったからかもしれない。
背中を押してくれたのはやっぱりこの曲だな。「燃えよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?