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特許と実用新案、どちらを取得すべき?

結論から申し上げますと、特許出願をすすめることがほとんどです。
「実用新案権を取得したい。」というご相談を受けるケースの多くは、「特許はたぶん取れないと思うけれども」という前置きがついてきます。

ご相談の際は、特許権と実用新案権の違いを説明し、ケースに即して、どちらを取得すべきと考えるかをお伝えします。今回はその考える際のポイントをいくつか紹介します。

1. 実用新案権の取得は「早くて安い」

実用新案登録出願は、実体的な審査は行わず(無審査)、形式的な方式審査を経て、実用新案権の設定登録がなされ、実用新案権が発生します(実用新案法14条1項、2項)。
実体的な審査を経ない分、取得に係る費用と時間の面では、特許出願に比べメリットがあるといえます。
ライフサイクルが短い技術には適しているともいえるでしょう。

2. 実用新案権の存続期間は特許権に比べ10年短い

特許権の存続期間は出願の日から20年であるのに対し(特許法67条1項)、実用新案権の存続期間は出願の日から10年です(実用新案法15条)。
この点からも、ライフサイクルが短い技術には適しています

3. 実用新案権を行使するには評価書が必要

まず、実用新案権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、実用新案権の侵害者等に対し、その権利を行使することができません(実用新案法29条の2)。

そこで、他社に対して権利侵害の警告をする場合には、特許庁長官に実用新案技術評価を請求し、その評価書を受け取る必要があります(実用新案法12条1項、4項)。技術評価書のサンプルは、特許庁HPにある「実用新案技術評価書作成のためのハンドブック」に掲載されていますので気になる方はご確認ください。

なお、評価書をきちんと得た上で、訴訟提起を行い、実用新案権侵害が認められ、差止請求、損害賠償請求が認容された裁判例もあります(大阪地判平成28年3月17日平成26年(ワ)第4916号 実用新案権侵害差止等請求事件。均等侵害が認められ、損害額は1億6000万円以上認容された事案。)。

しかし、評価書を取る手間、そして否定的な評価を得るリスクを考えれば、権利行使を視野に入れて出願をする場合は、特許出願を選択する方が多いでしょう
逆に、権利行使の意図はなく、他社が権利取得できないように、防衛目的で出願する場合には実用新案登録出願も選択肢として有効であるように思います。

4. 実用新案でも、アピールは可能

パンフレットやパッケージに、商品やサービスの特徴とともに、「実用新案登録第○○号」、「実用新案登録出願中」といった記載をした場合、それを手に取る方の多くは、「他社にはない優れた品質かも」、「なんとなく良さそう」といったポジティブな印象を持つでしょう。
BtoCのビジネスであれば、一般消費者が受ける印象は「特許第○○号」「特許出願中」と記載があることとそう変わらないかもしれません。

そう考えると、他社との差別化を図り、宣伝効果を、特許出願よりも安く得られることが、実用新案を出願する大きなメリットであるように思います。

なお、実用新案登録表示(登録新案の文字及び登録番号)は努力義務であり(実用新案法51条、同規則20条)、必ずしも表示しなければならないものではありません。

5. 実用新案権は「方法」については取得できない

実用新案法で保護される対象は、「物品の形状、構造又は組合せ」に係る考案(技術的思想の創作)です(実用新案法1条、2条)。
したがいまして、ご相談内容が「方法」に関するものであった場合は、特許出願をご提案することになります(特許法2条3項2号、3号参照)。

6. 出願件数は圧倒的に特許が多い

メリット・デメリットとは関係ないですが、他社はどうしているのか?と考える参考として、統計データをお伝えします。
2019年の出願件数は、特許出願は約30万件であるのに対し、実用新案登録出願約5000件と圧倒的に少ないです。

特許出願件数の推移 ステータスレポート2020より

特許出願件数の推移(特許庁ステータスレポート2020より引用)

実用新案登録出願件数の推移 ステータスレポート2020より

実用新案登録出願件数の推移(特許庁ステータスレポート2020より引用)

7. 結び

冒頭に記載の通り、ご相談を受けると特許の出願をすすめることが多いのですが、改めて実用新案登録出願の使い道を再考して、まとめてみました。

実用新案登録出願は、①特許権の取得が難しいと思われる商品・サービスについて、コストをかけずに宣伝目的で出願するケースや、②技術的にライフサイクルが短い商品・サービスについて、他社に権利行使する予定はなく、防衛目的であったり、知財に明るくない企業に対して一定程度の参入障壁を低価格で作るために出願するケース等で活用する方法が考えられるかと思います。

いずれにしてもCase by Caseですし、今回は触れておりませんが、特許出願、実用新案登録出願のご相談を受ける際は、意匠出願もご提案することがございます。

知的財産権の取得をお考えの企業様はまずはお気軽にご連絡ください。

弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
所長 弁護士 弁理士 西脇 怜史(第二東京弁護士会所属)
(お問い合わせページ https://nipo.gr.jp/contactus-2/)


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