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お肉屋さんで肉を買うというライフハック

「肉は肉屋で買うのが、いいよ」

…と、13文字で書けることを、長々と語りたいのが私です。

今年「財布を小さくしたら毎日が変わった」というnoteを更新してみたり、日々の暮らしの中での小さなライフハックをいろいろと研究している私。

毎日来るDMを、なんとかかんとか受信拒否設定したことも書いたっけ。

そんな私が新たに見つけたライフハックが「肉を肉屋で買う」ということだ。お家の近くに贔屓の商店街や個人商店がある人からすれば「?」と思うことかもしれないけれど、何を隠そう、これまでの長い人生の中で、お肉屋さんでお肉を買うという経験が一度もなかった。私だけじゃないと信じたい。あと料理はそれなりにすることも言い訳しておきたい。

ただ、スーパーに行けばパックのお肉が売っていて便利だし、自分が何を作りたくて、そのためにはどれぐらいの分量のお肉が必要かというのはパックの大きさで目で見てざっくり判断するのが常識だった。それ以上のことは特に必要としていなかった。

「ハンバーグを家族3人分作るには何グラムの合挽肉が必要?」と考えてもいまいちピンとこない私にとって、たくさんの種類のお肉と、グラム単位のお値段という情報だけがずらりと並んだ街のお肉屋さんは、なんとなく心理的なハードルが高かったのだった。忙しそうな店頭、さくさくスムーズに注文できないと怒られそうな気がして。それにスーパーに比べるとどうしても割高なイメージ。とにかくよく食べる我が家には、デパ地下の精肉店のような高級なお肉は無縁な気もしていたし。

そんなある日、帰り道の導線的にどうしてもスーパーに寄るのが面倒、合挽肉さえあれば夕食のハンバーグが完成する、という日があり、駅の近くにあるおじいちゃん・おばあちゃんが夫婦で経営している小さなお肉屋さんに入った。こじんまりとしているのだけど、常連のようなお客さんがいつも絶えない人気店。外から店内をのぞけば、やっぱりなんとなく苦手なグラム単位のお値段と高級そうなお肉も並んでいたのだけど、「耳が遠いのでご了承ください」と書かれた張り紙が店内のよく見えるところに貼ってあり、ここならスムーズに注文できなくても怒られなさそうだなと店に入った。

えーと、そもそも何を質問するのが正解? と、必要な答えを得るための問いすら思い浮かばなくてどぎまぎしていると「今夜のお献立はなんですか」と店頭の上品なおばあちゃんが声をかけてくれた。大阪生まれ・大阪育ちの私は、もうこの ”お献立” というワードだけでノックアウト。

「ああ好き! だから東京が好き!」とか心の中で叫びながら「ハンバーグを‥ 大人2人と子供1人で食べます。ちなみによく食べる男性です」と聞かれてもいない個人情報も含めて慌てて答えた。すると本当に手際よく「よく食べるのね。じゃあこれぐらいかしらね、○○グラムあれば、大きいのが4枚は焼けるから、パパはおかわりしても大丈夫よ」と、落ち着いたスマートな返し。

(ちなみにここでも何グラムと言われたか覚えてないぐらい、私はやっぱりこのグラム数にすこぶる疎い)

そんなおばあちゃんの声に答えるように、その後ろではおじいちゃんが「どっこらしょ」と大きな塊の豚肉を冷蔵庫から出し、「ハンバーグならね、合挽肉に豚肉のバラを粗く切ったのを少しだけ足してあげると肉汁たっぷり、ジューシーになるよ。帝国ホテルのシェフもやってる、間違いないからね」と、まさに目の前で豚肉を力強く切って、お肉屋さんでしか見かけない、あの竹の皮みたいな包み紙に載せてくれた。「焼くときはこの牛脂を使うのも忘れないでね、旨味が違うんだから」と、これまた目の前でステーキ肉のような大きな塊から油の部分だけを切って包んでくれた。

ショーケースに入ったお肉をぱぱっと売られるだけだと思っていたものだから、今まさに目の前で切ってくれた、見るからにツヤツヤ、こんもりしたお肉の小さな山にそれだけで嬉しい気持ちになった。どさくさに紛れてすごい高級肉では? 予算言った方がよかったかな? となんとなく不安に思っていた私に、おばあちゃんは笑顔で、多分いつものスーパーの 1.5倍 ぐらいのお値段を告げた。心のなかで「喜んで!」と叫びながらお会計を済ませた。

初めてのお肉屋さんでの買い物を済ませてお家に帰り、ワクワクとした気持ちで作ったハンバーグはいつもの何倍も美味しかった。肉汁じゅわーなハンバーグ、時々ごろっとしたジューシーな豚肉の噛みごたえがあり、不均一な食感が「手づくり」感を引き立てているというか。もちろん旦那は「もう一つ食べてもいい?」と聞き、おばあちゃんのシナリオ通りな展開を思い出して嬉しくなった。

餅は餅屋、とはよく言うけれど、専門店ってこんなに違うものなのかー! と目からうろこ。何も頑張ってない、早起きもしてない、無理な導線になってない、それでも日常の食卓が変わる「肉を肉屋で買う」というライフハック。予算はいつもよりちょっと高かったけれど許容範囲だ。

この体験にすっかり味をしめた私は、さすがに毎日ではないけれど、頻繁にこのお肉屋さんに通うようになった。『これまで作ってきたあらゆる肉料理、お肉屋さんのお肉で作ると格段に美味しい説』を自分の中で確かめたくて。

店に入るやいなや、耳の遠いおばあちゃんに「餃子をつくります、大判の皮、2袋分ぐらい。よく食べるので」と声をかける。餃子の皮が1袋何枚入りだったかはよく覚えていない。だけどおばあちゃんは確実に「大判の皮ね、ということは1袋が20枚入りぐらいだから、40個ね。それなら、豚ひき肉は150gあれば足りるわね」とちゃちゃっと見繕ってくれる。その声に答えるように、また後ろでおじいちゃんが「よっこらしょ」と豚の塊肉を取り出し、少しの豚肉を粗みじん切りにし、ミンチ肉の上に載せてくれた。

こちらが、明らかにスーパーのパック詰めとは違う、我が家の餃子のために盛られたミンチ肉です。食感の違うお肉を混ぜることで、またムギューと美味しいお肉の噛みごたえを演出してくれるつもりなのだな… 最高じゃん…。これはいつもの量じゃ足りないなと即判断して「タネが余ったら別の料理に使いたいので、200gください!」とすかさず量を追加。「はい、290円ね」と、スーパーとそう変わらないお値段にも感動した。

お肉を手渡すときにおじいちゃんが「あのね、餃子作るときはね、まず最初にお肉を調味して、ごま油も入れてよーく練ってね。よく練ったら冷やしておいて、その間に野菜を切って、ミンチ肉と野菜は、包む直前にざっと混ぜ合わせるだけ。パパにも手伝ってもらって、急いで包んで焼くんだよ」と、コツを耳打ちしてくれた。お肉と野菜をしっかりむぎゅむぎゅと練って、肉の旨味を野菜にもうつすのが良いのかなと長年思っていたけれど、実際におじいちゃんの言う通りにやってみたら、それはもう美味しかった。肉の食感がゴリッ、野菜シャキッ、肉汁じゅわーのオンパレード! 餃子のタネが、小さな団子状にまとまりきらずに、具材の個性が引き立っている感じ。

大判の餃子を計40個(おばあちゃんのヨミどおり、大判の餃子の皮は1袋20枚入りだった)、家族みんなで奪い合うように平らげた。我が家は本当に大食いである。。。

そうして私は「お肉屋さんで肉を買う」というライフハックに、人生31年目で出会った。

お魚屋さんだって、八百屋さんだって、一緒だろう。専門店だからこその商品の幅広さと、長年毎日たくさんの家庭の食卓を支えてきた経験値。そのときの旬やその人が食べたいものを踏まえて、ぴったりと欲しい答え、ときにはそれ以上の提案をくれる。さらにちょっとしたコツや、一生使える豆知識なんかも携えてくれるのだから、Willingness to Pay(=喜んで払いたいと思える金額)が、実際の価格を上回るのも当然のことだ。スーパーの総合的な提案はもちろん便利だけれど、やっぱり専門店の奥深さには勝てない。

と、このnoteを書きながら、あの美味しかったハンバーグや餃子にまたまた想いを馳せる…。次はどんな仮説を検証してみようかしら。鶏の照焼、ローストビーフ、コロッケ、角煮もいいなあ。

肉は肉屋で買うべし! 現場からは以上です。

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