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舞台「黒薔薇アリス」撮影ノート

水城せとな先生のコミックス「黒薔薇アリス」の舞台化に際し、ビジュアルのアートディレクションを担当させていただきました。

脚本は赤澤ムックさん、演出はキムラ真さん。
ビジュアルチームは、ディレクションとグラフィックデザインを私が担当させていただき、ヘアメイクは松前詠美子さん、衣裳は小泉美都さん、カメラマンは渡辺慎一さん。馴染みのスタッフでビジュアル会議からスタートしました。


ビジュアル会議。

今回の原作を拝読して、水城先生の美麗でロマンティックなカラーイラストを眺めていると、真っ先に思い浮かんだビジュアルは、ここ数年人気になってきている韓国のブライダルフォトでした。
googleで「韓国 ブライダル フォト」で検索すると以下のような素敵な写真がたくさん出てきます。

とてもドラマティックに、徹底してロマンティックな演出がなされていて、昨今は日本から韓国に撮影してもらいに行くカップルも多いんです。
今回はこのビジュアルを資料として持参しつつ、各セクションに以下のようなお願いをしました。

制作へお願いしたこと
・アンティークなロケーションのスタジオを探して欲しい。
・個別に撮って合成するのではなく、ペアで一緒に撮影することを前提で、当日はペアで撮るキャストが前後で時間が重なるように撮影スケジュールを組んで欲しい。
・小道具として、血糊、生花の薔薇数本、ブライダルなどで使われるフラワーペタルを用意して欲しい。(http://item.rakuten.co.jp/happylab/pg001/

ヘアメイクさんへお願いしたこと
・アリスの髪はボリュームが命なので、絵的に通常の2人分の毛量が欲しい。撮影の際に一時的につけたすので構わないので、2人分用意して欲しい。
・双子は、演じる役者さんが実際の双子ではないので、髪質とつやが同じのほうが似た雰囲気に仕上げやすいから、地毛ではなくウィッグにして欲しい。

衣裳さんにお願いしたこと
・ヴァンパイアものなので、血糊を使った撮影に備えて欲しい。
・ペアの写真を多く撮りたいので、アリスの衣裳は2〜3色のバリエーションが欲しい。

カメラマンさんにお願いしたこと
・お持ちの最も広角のレンズを用意しておいて欲しい。
・韓国のブライダルフォトの魅力は自然光の陰影にあるので、自然光での撮影に備えて欲しい。

キャストのマネージャーさんにお願いしたこと
・少女漫画のイラストレーションは、男女がキス寸前の距離感の構図が多いので、できればそれぐらい密着したカットの撮影を了承して欲しい。

……という、かなりのわがままを各所にお願いして、撮影させていただきました。


撮影当日。

制作が見つけてきてくれたスタジオは、
渋谷にあるアンティーク撮影スタジオ「unikk」さん。
http://unikk-antiques.com/studio/
アンティークショップであり、そのインテリアを使った撮影が可能な、とても素敵なスタジオです。
こうしてみなさんのご協力を得て、思い描いた通りの写真が撮れました。

少し、キャストさんのお話も。

ディミトリ役の石黒英雄くんは、視覚認知力にとても優れた方で、普通の人より色んなことに気づいて、気配りをされる方でした。
視覚認知力とは、私が20年カメラマンをしてきて勝手に辿り着いた考えなのですが、同じ空間にいて、同じ視界を眺めていても、どこに何があるか、どんな素材かなどを「脳が」ちゃんと認識するかどうかは、本当に個人差があります。
私は自分が小さな糸くず一つ気づいてしまうタイプで、だからカメラマンには向いているわけですが、石黒くんもまさに同じ目で現場を見ていて、撮影する側に向いている人だなと思いました。ちなみに、視覚認知力が高いと、ホコリも人より見えやすいわけで、それが気になって潔癖性になりやすいです(笑)

撮影時は、大胆な密着も臆せず楽しんで対応してくれました。モニターを見ながら、手の角度、足の位置まであれこれポーズを提案してくれて、本当に助かりました。
黒髪の長髪という非現実的なウィッグが地毛のように馴染んでいて、今回のビジュアル解禁後には、「彼の美しさに、原作知らないけどチケット買いました」というお客様のツイートをたくさんお見かけしましたから、彼の持つ美しさをインパクトを持って伝えられたことを嬉しく思っています。

アリスとアニエスカの二役の入来茉里ちゃんは、希有な "少女感" を持っている女優さんで、キャスティングされたときから撮影が楽しみでした。
なかなか出せない透明感、非現実感を最初からまとってくれているので、何のディレクションもなく、そのままを撮った感じです。

レオ役の秋元龍太朗くん、カイ役の杉江大志くん、レイジ役の柏木佑介くんは舞台の本番中だったり本番間近だったりで、とにかくタイトなスケジュールの中で撮影をしたのですが、本番中の役者はオーラが出来上がっているというか、とにかくコンディションが良く、表情や瞳に力があって、とても撮りやすいのです。短時間で、捨てカットもほとんどなく撮り終えました。

生島光哉役の野嵜豊くん、鳴沢瞳子役の名塚佳織さんは、お話のポジションとしてそれぞれ独立した存在感がある役どころ。
今回全体的に、スタジオにあるアンティークの洋書を小道具に使わせていただいたのですが、光哉の本棚が背景のカットを撮っているとき、岩井俊二監督の1995年の映画「Love Letter」をイメージして、木漏れ日を入れました。
学生時代の女の子が憧れる、学校の図書館で静かに本を読む綺麗な男の子…これは現実になかなか実在しない奇跡の男の子なので(笑)、その奇跡を奇跡のまま撮らせていただきました。

名塚さんを撮らせていただくのは3度目でした。
この物語の主人公のアリス(梓)を恋愛に不器用な女性像とするならば、瞳子は大人の選択ができる強さと余裕がある憧れの存在で、キャスティングの段階で名塚さんはそのままはまっていらっしゃるから、こちらも余計な演出は不要でした。一児の母になられても変わらず可憐な美しさが感じられて、入来さんと同じく、希有な存在感の女優さんだなあとしみじみ思います。


残りの作業と、ごあいさつ。

公演は無事に千秋楽を迎えましたが、私はこれからDVDのデザインに取りかかります。ディミトリとアリスのカットで結局未使用なものがいくつかあるので、もったいないのでDVDのパッケージなどに使用できたらと思っています。
DVDのご予約は8/27までこちらのサイトで受け付けています。
http://www.cornflakes.jp/kurobara/special/dvd.html

グッズの通販はこちらのサイトで。
http://besten.shop-pro.jp/


私の仕事は、初日を迎えたら一旦終了し、終演後にまた作業が始まるという、あまり現場のキャスト・スタッフとの一体感はない立ち位置です。
稽古場にも行かないし、本番中も劇場にいる必要がないので、公演の座組としては一番外側、お客様のすぐ近くにいるため、必然的に自分の手がけたものを買ってくださるお客様のほうに意識が向いています。公演中は毎日ツイ検索して、いろんなご意見に目を通しています。
いつも、少なからず、私の作るビジュアルグッズを気に入ってくれて購入してくださるお客様に、心から感謝しています。感想をくださる方々もいて、とても嬉しく思っています。
力の及ばないことも多い中で、今回も私なりにやれること、提案できることはすべてやったつもりでおりますが、私の中での無力だった部分、後悔や反省点をきちんと反芻し、また次に繋げていけるよう努力したいと思っています。


最後に、キャスト・スタッフのみなさま、今回はお世話になりありがとうございました。親睦会にも打ち上げにも参加せず、酒付き合いが悪いタチで申し訳ありません。またどこかでご一緒できる日が来ましたら、そのときはまたどうぞよろしくお願いいたします。

長文におつきあいくださりありがとうございました。

清水みちる

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