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プラスチックス『ウェルカム・プラスチックス』(1980)

アルバム情報

アーティスト: プラスチックス
リリース日: 1980/1/25
レーベル: Invitation(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は39位でした。

メンバーの感想

The End End

 なんて不敵な笑みを浮かべているんでしょう、肩肘張っちゃってどうするの?とでも言いたげな顔でコーナーを突いた球を投げ込んでくるからタチが悪い。リズムボックス担当のメンバーは、“インベーダーが上手いからリズムボックスのボタン押すのも上手いだろう”ということでリズムボックス担当になったらしい。なんなんだよ…そして、当時の日本って本当に文化の最先端を走る国のひとつだったんだなあ、とも感じた。これはお金に余裕のある時代じゃないと生まれないもののように思う。良くも悪くも。
 ポストパンク的な構造を持っているけど、まだ80’sっぽいリバーブが幅を利かせる前の比較的ドライな音像で、そこがとびきり好き。

桜子

 このリズムマシンの音好きすぎる!CR-78であってるかな?教えてください。ヘンテコで憎めないキュートさがあって魅力的です。
 それはDEVO聴いた時の感覚に近いのかな?可愛くて、元気出る系(ケイ)です。

湘南ギャル

 1976年、B-52’sとプラスチックスが同年にデビュー、そして4年後の1980年にプラスチックスはWELCOME PLASTICSを、そしてtalking headsはRemain in Lightを、それぞれリリース。なんなんだこの時代。なんなんだこの時代、と彼らも思ったのか、プラスチックスは欧米ツアーで2組それぞれと共演している。今ほど情報の速度が速くない時代だ。お互い刺激は受けたかもしれないけど、影響を及ぼすほどの猶予があったかは疑わしい。そんな中、同じような時期に、こんなバンドが、世界に三つも?疑問があれば、答えが欲しくなる。70年代はオイルショックが2回も起きて、結構暗い時代だったらしい。閉塞感にやられた人間がどういう行動を取るかを考えてみる。まず思いつくのは、(FRICTIONのように)殺気を纏わせ、自分の周りを防御壁でかためるだろうということ。他に考えられるのは、「こうでもせんとやってられねえ!」とすべてを吹っ切っちゃうこと。多くの人は、奇抜だとかアホだとか言って向こうから勝手に壁を作るだろう。そのおかげで、彼らの吐く毒や皮肉は規制を受けることなく必要な人に届く。プラスチックスは圧倒的に後者のタイプだ。先が見えないような暗い時代に、彼らの音楽に救われた人たちは絶対にたくさんいる。一見バカな道化師みたいでも、内実はスマートで強かだ。
 感想にもならない妄言を長々と書き連ねてしまったが、とにかくサイコーでした。

しろみけさん

 居心地が悪い。クイック・ジャパンの古本を買うことがあります。大抵はお目当ての特集ページを資料のように活用するだけなんですけど、何の気なしにニュースだったりコラム記事を読むと、雑誌天国だった80〜90年代の東京カルチャーの雰囲気を鼻先で食らうんです。それがまぁ、現代っ子の自分からすれば露悪的で低クオリティのクソばっかりで、毎回本棚の隙間に紙をぶん投げて強制的に読書タイムを終えます。魔法の使えなくなった魔女は、ただの皺だらけの老婆でしかない。
 つまりそういうこと。「このアルバムの魔法は完全に失効したんだな」と、2023年現在の自分は思いました。というより、そうとしか思えなかった。“あの頃”に比べれば東京も地方もみんな貧乏らしいですけど、リアルタイムの風速で駆け抜けるだけの作品が過度に称揚されない土壌ができたんなら、この貧相な畑も悪くはないなと、心から思います。そもそも、嫌いな雑誌のオーディオブックみたいなのを聞かされて、正気でいられると思います?その軽薄さ、身体性のなさが時代への批評…なんて後付けのレトリックで肯定しようとも思ったけども、それよりは本棚の隙間にぶん投げて違うのに触れた方が良いなと。気分を害されたら申し訳ございません、ただポジティブな言語野が全く働かなかったくらいには、私はこの作品が嫌いです。今回の人生がこういう作品の良さがわからない設定でも、別にいいです。あなたたちだってnot for youでしょうけどね!

談合坂

 日本語と日本のポップ音楽を全く知らない人としてこれを聴いたらどんな感想を抱くのだろうか。英詞と日本語的な感覚、そして’洋楽’と’邦楽’との間で板挟みになりながらだと、かなり脳のリソースを奪われていてもったいないような気がしてくる。
 小さい頃にリズム機能のついたカシオのミニキーボードで遊ぶのが好きだったのですが、それを思い出すサウンドでした。

 知らない独裁国家への誘致ソングのような奇妙さがある。あえてチープに聞かせるドラムマシンとシンセの組み合わせにビートルズ直系のポップスが組合わさると人工甘味料と着色料が合わさったうめぇ駄菓子みたいな味わいになる。坂本慎太郎の作品に近いのかもしれない。

みせざき

 ポストパンクとサーフロックの融合のよう。若干スパークスっぽいのかな、、?いやもっと近いものがあるかもしれないです。少年ナイフもそうですが、完全に母国語感覚を無視した純日本製なはつらつな英語詞はほんと愛嬌あって好きです〜。何故が好きになってしまう不思議な魅力があります。

和田はるくに

 同じ御三家(日本人はこの表現好きね)でもP-MODELとヒカシューは割と好きなのに、プラスチックスは何故か聞いていなかった。今回聞き直してその理由がわかった。
 男声と女声、それぞれ片方ずつなら割と「ありだな」と聞けるのだが、両方あると吠えてるだけに聞こえてあんまりよく聞こえない。この手のニューウェーブバンドには本当によくある曲感とボーカルですごい好きなのに、自分に全くはまらない。1曲聞くのも割と苦痛なレベル。
 彼らの3枚目のアルバムではリズムボックスや演奏を一新して1枚目と2枚目の曲を新録しており、そっちも聞いてみた。かなり行ける。特に男声のほうがかなりパンクっぽくなっており、またCR-78からTR-808に差し替えられてリズムもイケイケである。これは好きだね。もっと早く聞けばよかった。
 3枚目はたしか、海外のスタジオで録音していたが、発売前の808をいじっていたら、たまたまスタジオにいたエリッククラプトンが後ろから覗いてきたというエピソードをキーボード/ベースの佐久間氏のインタビューが何かで読んだ記憶もあるが、クラプトンが覗いてくるぐらい、808の音が魅力的なのが今回の比較でもわかった。(アルバムのレビューからは外れちゃったけど。)1枚目の実感はわかすぎる。

渡田

 聴いてすぐB-52sやDEVOなど、電子楽器を用いた個性派ポストパンクバンドと似た印象を抱いたが、聴くにつれプラスチックスだけにある個性をどこかに感じた。
 例えば、印象的なボーカルの裏、イントロや間奏で際立つギターの音は、時にシンプル且つ比較的穏やかで、少しサーフロックの印象を持たせる。こういったところは、先に挙げたポストパンクバンドにはない特徴かと思う。女声コーラスも、各単語を読み上げるような強い発音で歌い上げ、語尾もはっきりしている。こういったところも、B-52sのコーラスとの差別点だと感じた。
 これから聴くならば、B-52sと比較して聴くと、似ているところとそれぞれの個性が自然と考察できて楽しいかもしれない。


次回予告

次回は、坂本龍一『B-2 UNIT』を扱います。

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