見出し画像

森は生きている『グッド・ナイト』(2014)

アルバム情報

アーティスト: 森は生きている
リリース日: 2014/11/19
レーベル: P-VINE(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は85位でした。

メンバーの感想

The End End

 音響派だ!!!!音響派だー!!!!突飛な処理をするのではなくて、部屋とマイクと音量とパンとテープエコーの偏執的な調整の先にしか待っていない音像。彼岸と此岸の境界にピッタリ浮かんでいるような。それはリバーブのたっぷり含まれた遠い音と、コンソールに直接入力したような近い音とのコントラストからか。
 ドラムのこの音像とか、絶対にナチュラルエコーをマイクで収めないとこんな風にならないはず。シミュレートされた響きを後から足して混ぜる作業ではこうはならない。「影の問答」とか、このリズム隊にカラッカラのファズギターが乗っかるの、たまんねえよ…
 参照しているであろう音楽の、ほんの一部しか聴き取れないことが悔しい…!これも、洋楽編を経てまた聴き直したいアルバムだ。

桜子

 これを人が作ってるのすげ〜〜〜〜
 絶対初めて聴くのに、スッと身体に染み込んできて、何の違和感も無く受け入れられる。
 聴いていて、すごく落ち着くんだけど、落ち着くって言葉でまとめてしまうのが申し訳ないくらいに、自分の身体ひとつじゃ受け止められないくらい、大きいパワーがある作品です。そのパワーっていうのは、こっちにグイグイ迫ってくるものではなく、ただ、大きい何かがそこにある感じ。

俊介

 自分でできそうでできない、音の全てが補足できても、彼らの思惑の1mmも補足できてない気がする。
 どういう生活してたらこんな音楽作れるんだろう。
 自分に限りなく密着してるけど、限りなく自分から遠い。

湘南ギャル

 おひさまが似合いそうなグッドミュージックだわ〜とか思いながら聴いていたのに、気付いたら別の場所にいた。バンド名に引っ張られすぎかもしれないけど、木が動いているせいで絶対に迷子になってしまう森の中みたいな。日常に一番近い非日常というか、ケに擬態しているハレというのか、現実によく似た異世界なのか、知ってそうで知らない景色がずっと続いている。油断してると丸呑みにされる。でも、丸呑みにされるのも案外気持ちが良いかも。

しろみけさん

 音楽を聞いて昏倒することがある。半醒半睡から意識の崖をずり落ちて、真っ暗な場所に連れて行かれる。というか、正確には連れて行かれる「ようだ」。それから5分も経たないうちに目覚めて、後頭部に残った鈍い痛みだけが起きた現象を説明してくれる。
 このアルバムを聞くたびに、夢の中での辻褄の合わなさを想う。昏倒しそうなほどサイケデリックである一方、眠っている自分の顔がなぜだか見える。触れない靄の最中にあるようで、今手に握っているものであるような気もする。深いエコーが作品全体を覆っているが、決して静かではない。それは「影の問答」や「煙夜の夢」といった、苛烈なサウンドの曲に限ったことではない。葉のさわさわと揺れる音は、とても静かで、同時にとても騒がしい。夢に出口はないと思っていたが、実は48分30秒だったのかもしれない。

談合坂

 意識すればするほど音が聞こえてくる。なによりも、副次的なノイズを演奏するのがとにかく巧いと思った。ノイズというものに対して、そこに必然的に伴う偶然性に委ねることをせずに、あらゆる音響を制御することで構造材としての役目を担わせているように感じる。
 そして、一聴してそれがごく自然に何でもない音楽としてすっと喉を通ってしまうところが恐ろしい。この時代不詳感といい、近付けば近付くほど正体が見えなくなっていく怪しさがなんとも心をくすぐる。

 何トラックあるのかわからない程さまざまな音が散りばめられ、リズムも3拍子や4拍子、奇数拍子を往復していながらも最終的に''岡田拓郎の声の心地よさを堪能できるはっぴいえんどから連なるフォークロック''として楽しめてしまうところに「グッド・ナイト」の名作たる所以が詰まっている。
 要所で鳴らされるThe NationalやWilcoといったUSインディーと接続するような岡田拓郎のエアリー感たっぷりに豊かに歪んだギターのサウンドが本当に心地よい。「気まぐれな朝」や「煙夜の夢」で聴けるブルージーさとツェッペリンのリフに連なるダイナミックさを持ったギタープレイは絶品。そしてそのギタープレイをTortoise「TNT」に連なる美学であくまで曲の素材として使用する様はポストロックのアルバムとして聴ける理由のひとつだ。
 なによりもこのアルバム全体に漂う秘密基地での実験を繰り返しているような試行錯誤具合が堪らなく愛おしい。シカゴ音響派に連なるロマンの発露であり、かつてあった東京インディーの幻想の結晶でもある。現在の岡田拓郎のギタリスト/コンポーザー/エンジニアとしての各所での活躍っぷりは追っていてとても楽しいし、そのオリジンである「森は生きている」の2枚のアルバムを私はずっと聴き続けるのだろう。

みせざき

 ソフトロックのような穏やかな調子の中に緩急のある曲展開が続いていき、自然にリスナーを引き込んでいける魅力を感じました。空間性の中に構築していく綿密なギターフレーズ、ドラミングがまた目新しさを感じました。WilcoといったUSオルタナの世界観を連想させますが、ギターフレーズの中にはブリティッシュな雰囲気のモノも散りばめられており、更に素朴な日本語詩も音の中に上品に溶け込んでいる為、新たな日本ロックの体形の一つだと思いました。

和田醉象

 北欧の深い森の奥から聞こえてくるつぶやきみたいな、うねりみたいな。何を言ってるかは全然よく聞こえないんだけど。
 リードギターがジョージ・ハリスンみたいでかっこいい瞬間がある。でも、全体的には曲にメリハリがなくてあまり得意じゃない…ダラダラしているというと怒られそうだけど。
 あと、「影の問答」のイントロを聞いて、ウィーザーの影響を受けたバンドなのかと一瞬勘違いした。

渡田

 一聴した時の印象は、限られた数の楽器によるアコースティックな雰囲気の曲といった感じ。そう思ってぼんやり聴いていると、いつの間にか音がいっぱいに満たされている。タメや分かりやすい転調もなかったはずなのに、気づいたら色々な音が近くで、遠くで聞こえる立体感のある音楽になっていた。
 それに意識を向けて聴き直すと、アコースティックで穏やかで、警戒感を与えない第一印象のもと、その印象の水面下で複雑な音響が現在進行形で組み上がっているのを感じられた。

次回予告

次回は、cero『Obscure Ride』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー
#森は生きている


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?