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INU『メシ喰うな!』(1980)

アルバム情報

アーティスト: INU
リリース日: 1980/3/1
レーベル: ジャパンレコーズ(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は20位でした。

メンバーの感想

The End End

 田中宗一郎氏が“ポストパンクとはつまるところ、冷や水を浴びせること”というようなことを言っていたのを覚えているのだけど、「つるつるの壺」の“オイ!!!!!”でまさにそれを感じた。メタでパンクをやってる感じ。全部を斜めに見てる感じが、俺たちのツボなのかな…
 全曲、結局のところポップでかわいいし、聴くたびに新しく頭にこびりつく言葉がある。今回は“全くいい加減な現実を”を覚えました。聴いた人の中にある“カッコいい”を拡張する力を持った作品だと思う。

桜子

 歌い方も歌詞も尖っていてかっこいいです。私が18才の時は...って比べて考えて、思わず恥ずかしくなってしまいます。
 それとギターの音色のカラッとしている感じって言えばいいのかなあ...この音色が好きです。

俊介

 すごい自分の中でフェイバリット!
 ダンスミュージックを聴いてて、それがテクノなのかハウスなのかすらもよく分からないままでとりあえず楽しめてしまうタイプなので、相変わらずINUのジャンルがなんなのかもよくわかってないけど、いわゆるなパンクとは違った感じが!
 聴く度に感想は変わるものの、一貫してるのはすごい爽やかにヌルヌルしてる感じ。
 作家としての町田町蔵の作品にも通ずる詩の歯切れの良さと、そこに纏わりつく音のヌメった感じはなかなか異様。
 あと、不気味なCMとして時折ネットの掲示板で取り上げられる1989年のケンミンの焼きビーフンのCM、あれがこのアルバムの雰囲気に少し近い気が、CM自体に爽快感は皆無だけどアルバムを聴く度によく思い出す。
 話が少しそれますが、youtube上に落ちてる公式か非公式かよく分からない、ライトサイダーのPVと、気い狂いてのMADみたいなやつ両方センスが爆発してて最高。
 とにかくこのアルバム最高やな〜〜てかんじ。

湘南ギャル

 俺の存在を頭からかき消すやつだけ知っていたせいで、おどろおどろしくてヘビーなバンドなのかと思い込んでいた。アルバムを聴いてみたら、ポップだしキャッチーだしびっくり。
 歌詞は、良い意味で隙がない。どんなに好きなアルバムにも、なんとなく予想できるようなありきたりなフレーズがあるもんだけど、このアルバムにはそういう歌詞がひとつもない。
 なんか怒らない人が優れた人間みたいな風潮ってあるし、実際怒るのってめちゃ疲れるし、情緒が凪の方が自分も楽だし、周りも離れていかないし、ってな感じで、最近の自分は臭いものに蓋をしていた。ボケボケと過ごしすぎた。毎日INUの歌詞を写経したほうがいい。

しろみけさん

 包丁の持ち方。パンクの体裁をとってはいるものの、直情的な表現とはかけ離れているように感じた。そもそも演奏が上手いのもあるが、“ダムダム弾”のよろめくような歌い方だったり、“インロウタキン”のドラムのテイクの組み合わせ方(4回くらいに分けて録ってる?パートごとに違う音色になってる)だったり、覚めた頭で淡々と机に包丁を突き刺しているような、天然物ではない故の怖さを感じる。より深く刃を入れるために助走をつけているというか、ずっと聞いてると日常生活に支障を来すと思う。黒沢清『CURE』のラストみたいな、ああいう包丁の持ち方がしたくなっちゃう。

談合坂

 とにかく身軽。私自身もまだまだ若者の範疇だけど、ここからは若々しい強い力を感じられる。身体が楽器にアタックする瞬間が鮮明に聴こえてきて、プレイヤーの予備動作が間髪入れずに音楽に直結しているという印象を受ける。思考をそのまま音に結びつけているというより、産地直送という感じ。

 「つるつの壺」の後半、彼らの理知的なフレーズの組み立て方を聴いた瞬間に只者じゃないな!と驚いたことが記憶に新しい。裏打ちとキメで引っ張るドラムに蔓のように絡みつくベース。ジョニーロットンがキレ者だったように、戦うためには冷静さと知識が無いと駄目なんだよ。「ダムダム弾」はお坊さんが読み上げるようなポエトリーリーディングが空間現代の新作と交じり合ったようだし、「夢の中へ」はトリップホップの如き酩酊感を引き起こす。時折使われる清涼感のあるコーラスがかったギターもそうだし、ジャパニーズアンダーグラウンド・パンクのアルバムで片づけられていない理由を聞く度に実感する。

みせざき

 代表曲しか知らなかったので、全体的に聴いてみると意外にも単なるパンクアルバムでは無いことがよく分かった。ポリスのアンディサマーズのようなコーラスを駆使した空間的なリフが随所に出てくる。曲一つ一つも衝動的というよりかは一曲一曲がしっかりまとまり切っている印象に感じた。そう捉えるとこのボーカルにも意図的な側面が見えてきた。

和田はるくに

 何回聞いても素晴らしいぞこれは。改めて聞いてみて、特に働き始めた自分にこそ、やはり刺さってくるものがある。日本のパンクのアルバムというと五本の指の中にこれは入ってくると思うが、パンクといってもそのサウンドアプローチは必要以上にキャッチーで、何回聞いても飽きない。2019年に夏の魔物というイベントで町田康はINUの曲だけを演奏するという名目で出演したのでそれを見に行ったんですが、全曲みなシンガロング。思わず口ずさめてしまうあたりが世間一般のポップスと同じように受け入れており、聞いてない時も刷り込まれるまで曲をリフレインする。これがこのアルバムの一番の強みというか、長く愛される一因のような気もする。キャッチーながらも町蔵の鬱屈ながらも開き直った様な歌詞、関西弁による語りは今でも聴いた人に訴えかけるものがあるし、かけがえないものだ。
 それでいてポストパンク的アプローチが。これも同バンドのギタリストの北田昌宏、東京ロッカーズの一員だったプロデューサーの鳥井ガクの手腕によるものが大きく、音楽的にも面白い。思想と音楽が両方かね備わった、バランス良く、ずっと聞いていけるアルバム。

渡田

 パンクアルバムとしてのイメージと同時に、様々なジャンルから演出方法を取り入れている点でポストパンクとしての一面を持っているアルバムと聞いていた。実際に聴いてみると、「ポストパンク」の範疇で言い表せないほど、驚くべき大量の演出方法がたくさんあった。
 確かに、他のポストパンク/ニューウェーブのバンドのように、ロック以外の音楽ジャンルの演出を取り入れているけれど、このアルバムが印象深い理由はその部分ではない気がする。
 このアルバムでは、古い電気製品から出るようなくぐもった音とか、意味はないけれど耳に残る歌詞とか、その他色々な他の音楽では聴いたことないような音が、それらが最も印象的に残るように緩急をつけて配置されていた。こういう楽しいケレン味は、音楽だけでない、映画や漫画とか他ジャンルのサブカルチャーにも精通していないと思いつくこと自体不可能だと思う。
 他の音楽を聴いている時にはまず感じない、映画を見ている時のような、予測不能の緩急に翻弄される楽しさがあった。

次回予告

次回は、Phew『Phew』を扱います。

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