神谷光信

日本文学。博士(学術)。詳細な経歴はこちら。https://researchmap.j…

神谷光信

日本文学。博士(学術)。詳細な経歴はこちら。https://researchmap.jp/okapi/

マガジン

  • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から

    放送大学大学医博士後期課程は、2014年10月に1期生が入学しました.募集定員10人、受験者260人、合格者12人。3年後の学位取得者4人。私はそのなかの1人でした。放送大学博士後期課程とは、どのような世界なのでしょうか。体験者として詳しく記事にしました。社会人で博士号取得に関心がおありのある方はぜひお読みください。

  • 岸惠子論:国際政治の世界から

    映画女優岸惠子は、1932年、神奈川県庁職員の一人娘として横浜に生まれました。若くしてスターとなり、イヴ・シャンプ監督と結婚してパリで暮らし始めます。この評論は、パリを中心に、1968年のチェコ動乱、イラク革命など、国際政治の視点から、彼女の人生を追跡するものです。

最近の記事

放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(最終回)真理への愛と世界美化の実践

放送大学大学院で一から学び直そうと考えたきっかけが、2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故であったことは、前に記しました。根源的な思想的動揺を覚え、それまでの自分が破産したと思ったということも書きました。要するに、真実が何も見えていなかった。 修士課程と博士後期課程の5年間。私がどのように自己を変貌させたのかといえば、一言でいえば、真理への愛と世界美化の実践に生きる姿勢を確乎たるものにしたということになります。認識と行為にかかわる在り方の

    • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(17)組み込まれた体制の周縁部を生きる

      中心と周縁という分析概念は、文化人類学者の山口昌男さんが広めたものです。排除されるものとしてそれまで否定的に捉えられてきた周縁部に山口さんは注目し、中心を活性化させるものとして、そこに積極的な意味を見出そうとしたのでした。そして、自分の人生をふりかえるとき、私は常に自分が中心ではなく周縁に生きて来た気がするのです。 あるとき、信頼する知り合いの大学教授から、私の研究が「境界的」であると指摘されたことがありました。いわれて初めて気がついたことでした。「制服を着た文章」(これは

      • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(16)時間管理の方法など

        社会人が大学院博士課程で学ぶことは、短からぬ人生の旅路に組み込まれた数年間なので、我々の人生そのものが再現不可能であるように、私の大学院体験が、いわゆるノウハウとして万人の役に立つことはないでしょう。 そもそも、目的が明確であれば、何事であれ、適切な手段は自ずと見えてくるものです。東京から大阪に行く際に、航空機、新幹線、在来線、高速バスなどの手段があり、その時々の用事によって方法を使い分けるように。 外国語を身につけるに際しても、世の中にはそれぞれに素晴らしい方法が公開さ

        • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(15)修士論文の公刊

          前回は、博士論文を、関西学院大学出版会から公刊したことについて書きました。今回は、修士論文を公刊したときのことについて記します。 博士論文の口頭試問の際、遠藤周作とフランツ・ファノンとの思想的関係に関する疑問が投げかけられました。両者を結び付ける主張は、日本では私が初めて修士論文で行い(2014年)、そのほかでは、アメリカ合衆国のミシガン大学准教授が主張しているだけだったので(2014年)、ほとんど知られていない見解だったからです。(現在でもその状況は大きく変わってはおりま

        放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(最終回)真理への愛と世界美化の実践

        • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(17)組み込まれた体制の周縁部を生きる

        • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(16)時間管理の方法など

        • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(15)修士論文の公刊

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        • 放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から
          18本
        • 岸惠子論:国際政治の世界から
          16本

        記事

          放送大学博士後期課程:1期生の立場から(14)口頭試問と博士論文の公刊

          私の博士学位請求論文「ポストコロニアル的視座より見た遠藤周作文学の研究:村松剛、辻邦生との比較において明らかにされた、異文化受容と対決の諸相」は、400字詰原稿用紙に換算すると約2200枚、ごく一般的な単行本5,6冊の原稿量になりました。400枚程度を書けば分量的には充分なのですが、私はそれまでの自分の研究を集大成するつもりで、自分の命のすべてを注ぎ込んだのでした。 口頭試問は、すり鉢状の階段教室で行われました。他のプログラムの3名は1時間でしたが、4番目の私だけは、何故か

          放送大学博士後期課程:1期生の立場から(14)口頭試問と博士論文の公刊

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(13)メンターについて

          今回は、社会に出てからの私のメンター、わかりやすくいえば、理想の兄のような存在だった方々について書きたいと思います。 神奈川県の教員採用試験(正式には、神奈川県公立学校教員採用候補者選考試験)に合格すると、採用候補者名簿に登載されます。そして現職者に異動内示が出るころに、着任する学校から連絡が来て、校長面接を行います。  連絡があった工業高校を訪ねたのは雪の日でした。春の雪で、グラウンドが真白でした。初めて会う校長(故人)は、開口一番「君、酒は飲めるかね」といって私を驚かせ

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(13)メンターについて

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(12)キリスト教と文化研究所

          人生には「仕事」と「愛」が必要だと、精神科医のフロイトがどこかで書いていました。これは、若い人であったら、恋人と勉強(勤労)と言い換えることができるかもしれません。家庭と会社という人もいるでしょう。私の場合は、仕事場としての学校と、妻子のいる家庭でした。ささやかな自分の人生をふりかえるとき、フロイトのこの言葉は真理だと思います。 しかし、私には、家庭と職場のほかに、第三の場所が人生には必要であるという気がします。人生という大がかりな建造物は、やはり2本脚よりも3本脚の方が安

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(12)キリスト教と文化研究所

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(11)県立高等学校の再編統合

          文化庁長官官房総務課文化政策室に1年いて、その後の2年間は、神奈川県教育委員会に勤務しました。 横浜関内のビルにあるので、昼休みになると、同僚たちと中華街に行きます。昼のランチは料理に種類があるので、人数分、別々の種類を注文して、いろいろな料理を食べるのが楽しみでした。学校現場では、昼休みの時間は生徒を集めて委員会を開いたり、個別の相談対応をしたりするので、実質的には勤務時間で、昼食も慌ただしく即席麺で済ませたりするものだからです。 県教育委員会事務局時代に私が所属したの

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(11)県立高等学校の再編統合

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(10)文化庁長官官房文化政策室

          ここで少し、本務である高等学校教師としての経歴と、そのかたわら細々と続けていた文筆活動について書いておくことにします。 最初の全日制工業科高等学校には3年いて、次に全日制普通科高等学校に11年いました。2校目は進学校で、心身を磨り減らすような環境ではなかったので、この時期に私は勉強することができました。とはいえ、20代の頃は、仕事が忙しく、また面白く、自分の未来について深く考えることもしなかったことから、計画的で系統的な勉強をしたわけではありませんでした。 30歳になる頃

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(10)文化庁長官官房文化政策室

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(9)国際日本文化研究センター特別共同利用研究員

          京都にある国際日本文化研究センターに、特別共同利用研究員という制度があることを、あるとき知りました。おそらくツイッターで知ったのだと思います。 以前に書いたように、国際日本文学研究集会での発表についても、エントリー期間の延期をする旨の告知がツイッターに流れてきて、インターネット上で応募が可能なことから、急遽エントリーしたのでした。私がツイッターでフォローしているのは、研究者の方や研究機関などが多いので、手軽に貴重な情報を入手することができるのです。そのなかには、貴重な文献の

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(9)国際日本文化研究センター特別共同利用研究員

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(8)生涯学習開発財団による助成

          放送大学大学院博士後期課程は、3年間の学費が約140万円です。国立大学ならば、約190万円です。私立大学ならばさらに高額です。 私は生涯学習開発財団から助成を得ることができたので、90万円ほどで済みました。この助成については、美学芸術学ゼミナールに所属するとりわけ優秀な女性が教えてくれました。 この財団の博士号取得支援事業は、50歳以上の社会人が博士号を取得することを支援するもので、若い方は応募することができません。私はこのような財団があることすら知りませんでした。教えてく

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(8)生涯学習開発財団による助成

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(7)芸術学と政治学

          博士後期課程に入学して、修士課程のときの指導教授に引き続き指導を仰ぐことになりました。放送大学では、主たる指導教授の他に、ふたりの副指導教授からも指導を受けるという3人指導体制となっています。私は、人文学プログラムに所属していたので、美学芸術学の指導教授に加え、同じプログラムに所属する国文学の教授と、社会経営学プログラムに所属する国際政治学の教授から副指導者として指導を受けることになりました。 私は副指導教授のおふたりにご挨拶してご相談し、国文学の教授には、研究の進捗状況を

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(7)芸術学と政治学

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(6)博士後期課程の学生受け入れ開始

          修士課程を修了したのが2014年3月ですが、2014年度から博士後期課程が開学し、10月から学生受け入れが始まるということが公式に発表されました。博士課程が作られるという話自体は以前からありましたが、実現はまだまだ先のことと思っていたのでした。教授たちからは、一切何も情報が伝わってきませんでした。情報管理がそれだけ徹底していたということです。 私は悩みました。東日本大震災の年に小学校6年生だった長男が高校生、次男はまだ小学生。これからが経済的にも大変な時期だったからです。自

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(6)博士後期課程の学生受け入れ開始

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(5)修士論文と国際日本文学研究集会での発表

          修士課程の1年目はさまざまな書籍を読みました。学会に入り直すことで、日本文学研究の現在に関する知識を得ることができましたが、私がショックを受けたのは、私が学校の仕事に忙殺されていた間に、国文学研究の手法が大きく多様化していたことです。浦島太郎になった気がしました。 私は、文学研究科で近現代文学を専攻している教授の指導を受けたわけではありません。美学芸術学の教授から指導を受けたのです。指導教授は東京大学で今道友信教授から指導を受けた方ですが、私は今道教授の『美について』『愛に

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(5)修士論文と国際日本文学研究集会での発表

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(4)修士課程入学

          放送大学の本部は千葉県幕張にあります。4月最初の日曜日、大学院オリエンテーションに参加するため、JR幕張駅を下りて、南に向かって歩きながら、なんとなく殺風景な感じがするなあと感じていました。高い建物がなく、平地で道路も一直線なので、起伏が多く景観が変化に富む横浜と違って、何だか気持ちが落ち着かないのです。 午前中は、大会議室の前方に教授陣が並んで全体的な説明があり、昼休みを挟んで、午後に学生各自が所属するゼミナールの第1回があります。 私が所属した美学芸術学のゼミナールは、

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(4)修士課程入学

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(3)東日本大震災の思想的衝撃

          2011年3月11日に起きた東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故は、私に強い衝撃を与えました。 私の妻は神戸の出身です。1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災のときにも、私はショックを受けました。当日の朝、NHKニュースをつけたところ、テレビの画面で燃えさかる神戸の街が映っていたのでした。妻の実家に電話をしてもつながりません。横浜神戸間の電話回線が止められていたのです。当時は鎌倉市内の高等学校に勤務していたので、勤務先の公衆電話からかけ直す

          放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(3)東日本大震災の思想的衝撃