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アノニマス建築特有の魅力を理解し、法的知識とデザイン力で建築を再生し現代に適合させるーー再生建築研究所による「ミナガワビレッジ」

こんにちは。

アーキテクチャーフォトの後藤です。

先日、東京・表参道で行われた再生建築研究所が手掛けた「ミナガワビレッジ」の内覧会に言ってきましたのでその感想を書いてみたいと思います。

新しく再生されたミナガワビレッジは、SOHO・コワーキングスペース・カフェ等からなる複合施設です。

(道路から見る)

改修前の「ミナガワビレッジ」は、1957年に最初の住宅がこの敷地に建てられたのがそのはじまりです。2016年の計画開始に至るまでの時代の流れの中で減築や増築が繰り返され4棟の建物になり、用途もアパート・下宿と様々に変化をし続けてきた建物だったとのこと。

着工前は、1敷地4建物で検査済証のない違反建築状態だったものを、設計者である再生建築研究所が、渋谷区と協議を重ねた末、既存不適格証明をを行い、適法建築物として認められ、そのうえで増築の確認申請を行い、60年ぶりに検査済み証を再取得したそうです。
改修には、曳家を伴う大規模な耐震改修工事も行っています。

(上記:当日配布資料の要約です)

再生建築研究所の代表・神本豊秋さんは、リファイニング建築で知られる青木茂建築工房出身の建築家です。その経歴からも、再生建築研究所が、建築関連法規や改修についての知識を豊富にもった設計事務所であることが伺えます。

また、建物を取り壊して全てを新築してしまえば経済的合理性という視点では、実際の計画を上回る可能性は高いでしょう。しかし、事業主の強い希望で今回の建築再生が選ばれたということです。

このような、建築を再生するプロセスや背景も、もちろん興味深いのですが、実際にこの場所に建っている生まれ変わったミナガワビレッジも非常に興味深い空間でした。

敷地内には、路地や中庭のような場所があり、緑も豊富に植えられています。回遊性が高くなっていて、2階においても別棟に移動する際に一度外部に出るような設計となっていたりします。

非常に複雑な、ある種ルールがないような、自然な配置計画になっています。

これは、改修前の既存の建物配置に由来しています。違反状態であった時代の建物の配置をそのまま活かしているのです。

建築設計に携わっていると、道端にひっそりと建っている小屋や、誰が設計したのか分からないけれどプロポーションが変わった建物に対し、興味を持ったり、面白さを見出したりするという経験は誰にでもあると思います(私自身もそうです)。
実際に、様々な建築家が、そのような写真をSNSに投稿している様子を目にします。

そこには、建築家が計画した構成やプロポーションにはない、ある意味偶然が生み出したような、設計者の意図を越えたものが生み出されているから、鑑賞者は、興味をひかれるのでしょう。

アートの分野でも、アウトサイダーアートと呼ばれるものがありますし、超芸術トマソンなどもそのような視点があると思います。

今回見学したミナガワビレッジの配置計画にも、その面白さを感じることができるのではと思いました。建築家による合理性やプロポーションを熟慮から生まれたのではない、アノニマス建築がもつ面白さがこの配置にはあると感じました。

そして、それを再生建築研究所が、その審美眼で面白さを見出し、それを活かし回遊性のある路地と庭、そこに呼応する機能・レイアウトが計画されているのが、このミナガワビレッジなのです。

実際に再生建築研究所・神本さんとお話した時にも「新築だったらこの配置は生まれていなかっただろう」とおっしゃっていました。

そして、ポイントは、そのアノニマス的配置の面白さを活かすために、建築家のアイデアと創意がいかんなく発揮されているところです。開口部の位置やバルコニーの場所。そこから何が見えるのか、どのような素材をセレクトするのかが適切に行われていると感じます。

それは、既存のアノニマス建築という財産とその価値を理解した建築家のコラボレーションと言えると思いました。結果できあがった建築は、開放的で開かれていて2018年の現在の日本に適合し時代性も反映した建築にもなっています。

アノニマスな建築に価値を見出したり、面白さを際立たせるリサーチは色々とあると思いますが、このように実践として建築作品として結実したものはそう多くないように思います。

内部空間における既存の柱を表しにした仕上げ(外断熱で温熱環境性はしっかりと考慮)によって、この場所に確かに建物がたっていたという記憶も伝えるつくりになっています。

神本さん率いる「再生建築研究所」は、その名前やウェブサイトからも分かるように、法規的な知識と経験によって、既存建築を改修していくことに強みを持った事務所だと言えます。しかし、この建築を見て、それは一面であるけれど全てではないと感じました。

ミナガワビレッジは、そのような法律に関する知識と、既存建築の価値を見出す建築観、実際に空間を作り上げるデザイン力、社会背景を読み解く観察眼、それらが備わっているからこそ出来上がった建築だと感じました。

2018年5月23日~6月2日にもこの建築の再生プロセスなどを紹介する展示が行われたり、コワーキングスペース、共用スペースの利用者も募集しているとの事です。

この記事を読んでくださり、興味も持たれた方は、是非訪問されては如何でしょうか?

それでは、今後も色々な建築をレビューしていきたいと思っています。

何卒よろしくお願いいたします。

後藤。

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