「青、お好きなんですね」

う~~~~~ん………

まあ、そうなんすけどぉ………



3発目にしていよいよこの世で最も共感から遠い文章を投稿してしまおうとしている。

いっか。ここはそういう場所にしたはず。
葬式の会場ならいざしらず、夢の国で鼠の耳のカチューシャをつけていることに文句を言われる筋合いはない。
ここは夢の国であり、僕の文章は鼠の耳だ。
ちなみにセーラー服を着たあひるが一番好きだ。
比喩表現ではなく、テープが擦り切れるほどVHSを観た。
崖の上の巨大コンドルの巣に卵を盗りに行き、逆に卵に閉じ込められて暑くて死にそうになる話が一番好きだった。
わがままなロバにオーダーメイドの蹄鉄を作ってあげる話、デイジーに結婚を申し込むためにいい声になる薬を飲む話もいい。
デイジー言うてもうてるがな。

2022年3月現在、僕は髪が青い。
もちろんおぎゃあと生まれた時は黒かったし、己の意志で青くしているのだが、かつて「髪に色つけたいから塗料ぬってみよーぜ!あ、でもそのままだと多分つかないから、先に漂白剤塗って白くしよ!」とこの世で一番最初に言い出した狂人のおかげで、いまやそれこそ週末に舞浜に行くくらいの気軽さで頭髪を着色できる。


「なんで髪青くしたんですか?」


僕がこれまで一億二千八百七十三万五千二百四十一回聞かれた質問である。
この質問に答えるのは簡単だが、君はある日髪を茶色くしてきた知人に、
「なんで茶髪にしたの?」
と質問したことはあるか?

ある人だけが僕に質問しなさい。

罪を犯したことが無い人だけが石を投げてもいいように。

既婚者に、
「なんで奥さん(旦那さん)と結婚したんですか?」
と聞く人間がいるだろうか?
「優しいから」とか、「包容力があるから」とか、「お金持ちだから」とか、理由は様々あれど、収束するところは

「好きだから」

ではないだろうか?

「なんで奥さんと結婚したんですか?奥さんのこと、好きなんですか?」
という質問をしている人を見たことあるか?


「なんで髪青くしたんですか?青、好きなんですか?」


そりゃそうだろ。

「いや、僕は青が死ぬほど嫌いです。憎しみを忘れないために、あえて髪を青くしてこの憎悪と向き合ってるんです」なんてやついる?

青、好きなんだよ。好きだから青くしてるんだよ。
言わせんな恥ずかしい。


ここである問題が発生する。

「この世で最もメガネが似合わない人は、メガネをかけている人だ」問題である。

かつてダウンタウンの松本人志さんは視聴者から送られてきた「この世で最もメガネが似合わない人はどんな人ですか?」という質問に対し、「すでにメガネをかけている人です。だってメガネをかけている人がメガネをかけたら二重になるからね」と答えていた。

それと似たような現象が今僕の身に起こっている。

もちろん僕は昨日今日青を好きになったわけではない。
小学生のころからずっと好きだ。
鞄やちょっとした小物を買う時、カラーバリエーションに青がラインナップされていたら青を選びがちだった。
その時はまだよかった。
青は僕の持ち物のちょっとしたアクセントに過ぎなかったからだ。

ところが時は経ち、僕はとうとう自らを青く染めてしまった。
僕の髪は青くなったが、それに対応して僕の持ち物が黒や白にチェンジしてくれるわけもない。
僕は「髪が青いし、持ち物にも青が多い人」になった。

するとどうだろう。
くどいのだ。
林家ペー・パー子さん、カズレーザーさん、ダンディ坂野さん、
いずれも僕は大好きな方々だが、視覚的な意味ではやはり少しくどい。
僕は青が好きだからといって全身を青まみれにしたいわけではないし、むしろ青が好きだからこそそんな青だらけにしたくないのだ。
青がもし人間だったら決して全身を青だらけにされることを望まないだろう。
青は奥ゆかしく謙虚でぐいぐい前に出るようなタイプではない薄幸の美女なのだ。
急に気持ち悪さに舵を全切りしたことを許してほしい。それぐらい好きなのだ。
髪+α、くらいでいいのだ。青は。

昔からの夢だったわけでもなく、まさか自分の髪を青、それもフルカラーで染めると思っていなかった僕の身の回り・持ち物・洋服には青が多い。
とはいえもちろんそれらは気に入って買ったものだし、まだ使えるし、身につけるのだが、そうすると
「うっわ~~~…この人青好っきゃな~…」
というのが丸出しになる。
髪以外に青がないと
「うわっ、派手な髪だなあ、青好きなのかなあ」
で終わるところを、所持品やファッションにまで青が加わることで「この人は青が好きなのかも」を確信に変えてしまう。
別に好きなのは本当なのだから確信に変えさせときゃいいのだが、前述したとおりやはり視覚的に少しくどい。
そして青はそんなことを望んでいない。
二度も気持ち悪さに舵を全切りしたことを許してほしい。

嗚呼。

嗚呼どうか。

放っておいてはくれないか。

「うっわ~この人青好きなんだな~」と思いたきゃ思うがいい。
あなたが僕をどう思おうとあなたの自由だ。

ただ決していじらないことをせよ。

百貨店で買い物をしていると、マニュアルなのだろう、包装を待ったりしている時間、ほとんどの店員さんが業務上不必要な話題(世間話ともいう)を持ちかけてくる。

「青お好きなんですね~!」

始まった。いい、いい、いい、いい。僕の青いじりはいい。
あなたにとっては今日初めての青かもしれないが、僕にとっては約1年半、好きなだけでいったら約30年の青なのだ。

「見た時びっくりしましたよ~!YouTuberかと思いました~!」

それはなんかよくわからないがYouTuberの方にも失礼ではないだろうか。

「この包装のリボンも同じ青なので、ちょうどいいですねー!」

今あなたが包んでいるそれは僕が買っているので、当然僕は贈る側なのだが、果たして貰う側にとって僕の髪と貰ったプレゼントのリボンの色がおそろいなことに一体なにかちょうどいいことがあるのだろうか。
あとそのリボンは青っていうか紺だ。

無理するな。

決していじらないことをせよ。

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