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7. ステージ5(42.2km)前編/サハラマラソン2019

最終ステージの朝。
上位150位以外の選手のスタートは午前7時とやたら早いので、いつものように5時起きで準備を始める。穴が開いてしまった足袋は邪魔なので捨てようかと思ったが、これを持って帰って、ずっと足袋でサハラ砂漠を走ることを心配していた旦那さんに見せてあげよう(*1)と思い留まる。

スタートゲートに向かうと、見覚えがある日本人女性の姿が見えた。
ヨシさんの奥さんだ!!
ヨシさんの奥さんはサハラマラソンが提供する応援ツアー(Family Weekend)を利用して、サハラ砂漠くんだりまでやって来られた。

姿を見たときに嬉しくて、涙がこぼれ落ちた。
ああ、あの時のあの人はこういう気持ちだったんだ、と数年前に応援ツアーで来た家族と再会したある選手のことを思い出した。

泣いても笑ってもこのステージが本当の意味で最後。
通年、この最終日のマラソンステージは、ほぼフラットなコース設定で、スピードレース化してしまうのだが、今回は山越えがいくつもあり、特に700m級のJebel el otfalが初っぱなから目の前に立ちはだかる。序盤でのJebel el otfal登山は大渋滞になりやすい。

テントメイトのOさんは山越えがいくつもあることを気にしていて、制限時間に間に合わなくなるかもしれないので、最終日は走ると言っていた。


7時過ぎ、ついに最終ステージが始まった。
わらじは残り1足しかないので、フィニッシュ目前、残り2−3kmのところで、わらじを履いて体裁(?)を整えようと思っているので、スタート時にはわらじをはかず、新調した足袋でスタートを切る。

蓄積された疲労はやはり昨日だけでは取れておらず、しかも足の指の付け根のところにマメができ始めているため、一歩一歩が少し辛くなった。
ついに、私の相棒、ロキソニンの出番である。サハラマラソン以外では出番がないので、その効果たるや絶大である。

第1の難所、Jebel el otfalは案の定の渋滞。
というか、過去最高の大渋滞でございますよ!まず、レース開始早々にこいつを持って来てはいけません!選手がばらけて来た頃に持って来てくださいって何回言いましたかね?

もう麓に近いところまで選手が並んでいます。
ちゃんと並んでいるところをですね、横から抜いていこうとする人たちがいるんですよ。すると、辺り一帯がすごい険悪なムードになるんです。
「オイオイ!順番を飛ばすんじゃないよ!」とか
「横入りしてんじゃねえよ!」なんて、ピリピリしている。

この登りのコースは砂丘とガレ場の間の道を行くのが正解で、これはパトリックもレース前にちゃんとコースを辿っていくようにと説明していた。
ところが、あまりのひどい渋滞で時間がないと焦るがあまり、後方にいた選手たちは砂場の方から登り始めた。

これにはちゃんと順番待ちしている選手たちから怒号が飛ぶ。
「戻れ!そっちはコースじゃない!」
「ズルするんじゃない!ペナルティだ!」などなど。
ただ、そっちの砂場ルートって急斜面で、しかも砂でズルズルずり落ちていくから、正規ルートよりはるかにしんどいんだよねえ。

待っている間に雨雲がJebel el otfal上空を覆い始め、ポタッ、ポタッと小雨がパラついてきた。2013年から毎年サハラ砂漠に通っているけど、小雨が降ったのは初めてなんですけど!今年のサハラ砂漠はとにかく暑くない・・。

渋滞をのんびりやり過ごしながら、時間はかかったものの、何とか頂上に到達し、ここからは一気に岩場、ガレ場下りである。これが例年に比べて、下りやすく感じたのは足袋のおかげで、足元が軽く感じたからだろう。
しかし、小石がゴロゴロしているところでは、苦痛で顔が歪む。失敗した。
もっと早い段階でロキソニンを投入すべきだった。

小石ゴロゴロ地獄で足の裏を十分に痛めつけられた後は、砂丘である。足袋にザクザクと砂が入ってくる。時折、足袋を抜いで砂ぬきしながら、とにかくこのCP1までのこの道のりさえ乗り越えれば後は何とかなる(*2)、と言い聞かせながら、CP1を目指した。


CP1からCP2を目指している間についに3時間遅れでスタートした上位選手達が続々と追い越していく。今回はラシッドではないけれども、他のモロッコ人選手が先頭を走り、それをラシッドと弟のモハメドが追っかけていた。
こんなところで抜かれるなんて、やはりあのjebel el otfalの攻略に相当時間がかかっていたんだな。

そして集落に差し掛かり、ついに見覚えのある、ほぼ毎年のように通過するオーベルジュ(*3)が見えてきた。と、そのすぐそばにCP2があるというのも珍しい。

CP2に差しかかろうとしているところで、
「ワッ!」という声とともに、自分のザックに圧が加わった。
思わず振り向いたら、それは後発スタートした唯一の日本人選手、モリモリだった。そして、颯爽とCP2に入っていった。

CP2に入ると、「レナー!」と(Lで始まる方の)レナがハグしてくれ、そして、マリオが元気付けのためか、ボトルにハートマークと自分の名前を書いてくれていた。そして、「ナタリーがフィニッシュラインで待ってるわよ。」と名前を失念したが、給水スタッフが声をかけてくれた。

CP2でもぐもぐしながら、去年も同じ場所で遭遇した家畜の山羊の群れを眺めていると、「レナ!」と呼ぶ声がしたので振り向くと、イムだった。
昨日1日ゆっくりできたおかげか、わりかし元気そうである。
「レナはこんなレースに7回も・・・」
セブンタイムズ、セブンタイムズ!と連呼している。

イムがCP2をでる姿を見届けて、自分もCP2を後にした。

(続く)


(*1) 旦那さんに見せるためだけに持って帰ったのに、肝心の旦那はチラ見しただけで、「フーン、すごいねえ。」とあっさりした反応だった(涙)
(*2) この時はまだ何も気がついていなかった。
(*3) https://www.elmharech.com


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