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8. フィニッシュ、その後・・/サハラマラソン2019

「レナ、今年のコースはどうだった?難しかった?簡単だった?」

去年の手抜きコース設定(一昨年と全く同じ)ということをわかった上での質問だろう。尋ねるパトリックの表情は真剣だ。
「コース設定は去年よりは難易度が低い印象だけど、でもバリエーションがあって楽しかった!」と答えると、微妙な表情になっていた。

あ、そうだ!パトリックに大切なことを伝えなくてはならない。
そばにいたナタリーに「フランス語で上手く話せなかったら、英語で言うのでその時は助けてね。」と念押しする。

恐らく、もう少しすると、テントメイトのOさんがゴールする。
Oさんは20年ほど前にNHKでサハラマラソンのドキュメンタリーを見て、いつの日かサハラマラソンへの挑戦を決意したそうだ。その最中にガン告知、生存率20%以下という絶望的な状況から、見事に生還し、ついにサハラマラソンに出場したというすごい方だ。

Oさんがワルザザードの空港でパトリックに話しかけたけれども、反応が薄かった、とがっかりされていた。そうなのだ、パトリックはちょっとした英語は話すものの、流暢とは言い難く、ガチンコで英語で話してしまうと、伝わらないのだ。

ということで、この後フィニュッシュを迎える日本人男性は、、とパトリックに説明すると、手を口に当てて「オララー!」とすごく驚いていた。
Oさんがフィニッシュする瞬間をパトリック、ナタリーと一緒に見守り、そして私は静かにフェードアウトした。


フィニッシュ後のビバークの雰囲気はまるでお祭り騒ぎだ。
ノベルトやレナをはじめとするスタッフ達から「おめでとう!」「ありがとう!」と抱き合ったり、記念撮影したりと大忙しだ。テントに戻ると、既にフィニッシュした日本人選手達が次々にやってきて、握手したりして、お互いの健闘を称え合う。

何度も言うようだが、
最終日のこのビバークの雰囲気が大好きだ。

クッソうっとおしかった足袋を脱ぎ、荷物をテントに置き、仲間達とフィニッシュゲートに向う。まだ戻ってきていない日本人選手、KおじさんとSくんを迎えるためだ。

フィニッシュゲートで日本人選手の到着を待つ間、続々と他の選手がフィニッシュする様子を仲間達と見守る。KおじさんとSくん、もうそろそろフィニッシュかな、どうだろうなんて、言いながら待つが、一向に姿が見えない。
そして、制限時間の19時は刻々と迫ってくる。

えっ?本当にどうしたの?2人に何か起きたのだろうか?

私が最後に彼らを見かけたのは、Jebel el otfalで渋滞にはまっていた時に、砂場方向から2人支え合いながら登る姿だった。

辺りが薄暗くなり始め、遥か先に大会車両が5台ほど並走し、こっちにゆっくりと向かってきている。クラクションをガンガン鳴らしている。

え?まさか、最終ランナー?
クラクションをブーブー鳴らしてめっちゃ煽ってますやん。
煽り運転はいかんよー。
気がつくと、フィニッシュゲートにランナーやスタッフが続々と集まる。

スイパーはラクダじゃないのか?!
何この西部警察(*1)みたいなシチュエーションは?
というか、車両のライトが逆光になって全然見えないんですけど?!

見えない!誰なん?!
KおじさんとSくん?!

すると横並びの大会車両の脇から人の姿が見えた。

Kおじさんだ!
(あれ?1人だけ?)

最終ランナーが日本人選手と確認するやいなや、その場にいた仲間たちみんなでKおじさんの元に駆け寄り、声援を送る。

本日の最終ランナーであるKおじさんが、ランナーやスタッフに暖かく迎えられながら、フィニッシャーメダルを手に待つ、パトリックの元へ吸い込まれていく姿を見守った。

***********


表彰式はこの日の夜に行われる。
表彰式を見に行こうかと思ったのだが、昨年同様に冷え込みがキツイ。

まあ、テントにいてもパトリックと通訳のギョームの声は聞こえるし、シュラフにくるまって、ここでのんびりすることにした。

って、ん?今、なんか誰か日本人っぽい名前を言ってなかった?

テントメイトにも確認する。
「確かに、MxKxxOって言ってるの聞こえましたけど、誰ですかね?」
そんな下の名前の日本人っていたっけな?
日本人選手の顔を次々に思い浮かべるが、一向に検索条件と一致しない。

ギョーム氏の通訳を待つ。

ああああああー!!例の彼のことか!!
昨年はパスポートを盗まれ参加できず、今年はロスバゲにあい、装備が届かなかったけど、その試練を乗り越え、見事に完走した日本人選手として紹介されている。

な、な、なんで!?∑(゚Д゚)
めっちゃ美談になってますやん!!

あ、あれが、どこをどうしたら、そんないい話になりますの?
ヲーイ!誰だパトリックに説明したやつは?!すぐにその犯人を捕まえてコンコンと問い詰めたいんすけど?

表彰式が終わると、ご褒美のビール、又はコーラの配給の時間だ。
気持ちを切り替え、ビールをもらいに行くと、表彰式をずっと見ていたと言う仲間達がいた。

「ちょ、さっき彼の名前呼ばれてましたよねっ?!」
「あー、そうなんですよ。特別賞の候補者かなんかみたいで、3人いたんですけど、別の人(*2)が受賞しましたよ。」

ファ?!特別賞の候補?!
マジでパトリックに説明したヤツ出てこい!ヾ(。`Д´。)ノ

何だかなぁと納得行かない気分でテントに戻り、就寝の支度をしていると、
「レナー。」
と、韓国人選手のイムがやってきた。

「今晩は冷え込むから、これ使って。」とカイロをくれた。
「直接肌につけちゃだめよ。衣類の上につけないと火傷するからね。」と身振り手振りで教えてくれる。

「あ、でも、これ日本製だから分かってるよね。フフフ」と穏やかな笑みを浮かべて去って行った。

と、思ったら、その後焦った様子で
「iPhoneをどこかに落としたみたいなんだけど、見かけなかった?」
と、戻ってきた。
「えー?見かけてないけどなあ。」
「そう、、わかった、、。」
「あっ!イムー!あった、あった!ここに落ちてたよ!」

イム、、まじでそういう所だぞ。(*3)
でも、イム、ありがとう。
あなたのおかげでなんか癒されました。


(*1) わかる人にはわかる、80年代の刑事ドラマ。
(*2) 片足義足で走った女性選手が受賞。
(*3) オーバーナイトステージ後編を参照のこと。






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