見出し画像

5. ステージ4(76.3km)前編/サハラマラソン2019

朝、レースの支度をしていると韓国人選手セウンが私のところへ来た。
「例の彼を紹介してよ。」
おお、そうでした、そうでした。
セウンを隣のテントにいるHおじさまの元へ連れて行き紹介した。挨拶がわりのジャブなのか、セウンは彼が今まで登った山々の名前をあげる。
Hおじさんは、「若いのにそれだけの山を登っているのは大したもんだよ。」と感心している。次はマナスルに挑戦すると言うことで、僕も前に登ったよとか、無酸素で行ったか?とか、私の知らない世界の話をしている。

「レナさーん」
とモリモリがやってきた。
今日はオーバーナイトステージ、70km超のコースを一晩かけて攻略する。
モリモリはみんなとスタート時間が違う(*1)ので、みんながスタートした後はどこで待機していればいいかとのこと。
残念ながら、私はそのような経験はないので、一緒にトップランナーが集まるモロッコテントに向かい、ラシッド(優勝候補筆頭)に聞いた。常に紳士な彼は、親切にこの辺にいるんだよと教えてくれた。

今日はわらじを履かずに、心許ないが足袋だけで行くことにした。
持参した4足のわらじはすぐに大破してしまい、残り1足しかない。であれば、これは最終日のラスト2−3kmで使おう。フィニッシュ時にわらじ+足袋で体裁を整えておくか、と考えた。

オーバーナイトステージは例年だと、日が昇っている日中の暑い時間帯は無理せずにとにかくゆっくり進む、日が沈み、涼しくなる夜間に一気にゴールを目指す、という作戦をとる。

今年は例年に比べて暑さが和らいでいるし、風もある。
例年は制限時間が35時間だが、今年は31時間と4時間も短くなっている。距離自体も去年より15km近く短い。これをどう捉えるか。

8時頃にスタートだと思ったが、もう4日目となると皆の準備も遅く、だらだらとスタートゲートに向かい、しかもブリーフィングも長引くので結局スタートしたのは8時半過ぎだった。スタート付近ではスタッフの他に3時間遅れでスタートするトップ選手たちがハイタッチで応援してくれる。

CP1までの約12kmは3時間位で到着する。
時間はたっぷりあるので焦る必要はない。とにかく、1歩1歩、前に確実に歩みを進めることが大切だ。
CP1には給水スタッフ、そして友人でもあるレナ(Lで始まる方)が「レナー!」とハグで迎えてくれた。
「次はCP6で待ってるね!」と。
そこに、大会ヘリコプターが降り立った。砂埃が舞うヘリコプターの方を見ると、ノベルトの姿があった。
「ビバークで待ってるからな。」と励ましてくれた。そして、パトリック。あれ?ということは、後発組の選手が出発したってことか!
パトリックのハグでエネルギー充電してCP2へ向かう。

予想通り、CP2へ向かう道中で、ついにトップ選手に抜かれた。
ラシッドかモハメドかと思っていたら、イタリア人選手だった。その後に続々とジュリアンやヨーロッパ系の選手が通過するが、ラシッド達がやってくる気配がない。と、その時「ブラボー!」と声をかけられたので振り向いたら、ラシッドだった。モロッコ人選手が集団を作って走っている。
ここから先頭に追いついてゴールしたら相当すごいんですけどー?と思いながら歩みを進める。

すると、
「ヒューヒュー!」と自分に向かって、叫び声みたいなのが聞こえてくるので振り返ると、モリモリだった。
オーバーナイトステージで3時間遅れでスタートする上位50名の中に日本人選手がいるなんて、その同胞からこのステージで後ろから抜かれるなんて、私の中で言葉にならない感動があった。(いやゆる、胸熱ってやつ?)
モリモリは初日から総合30番台にいて、日本人選手の皆んなの期待を一身に背負っているヒーローでもある。

CP3に向かうまでの間に、後発組のエリート選手に続々と抜かれて行った。
抜き去る時に「Well done!」「Good Job!」「Keep goin' 」「Bravo!」と次々に声をかけてくれる。いやいや、その言葉をそっくりそのままあなた方にお返しします。

私がオーバーナイトステージが好きな理由の1つがこれで、普通にレースでていたら、エリート選手と交わることがほとんどないが、サハラマラソンなら、そしてオーバーナイトステージではこうしてエリート選手の走りをベストポジションで見ることができる。

CP3でケミカルライト(*2)が渡された。
これをザックにつけて歩くことで、後方からやってくるランナーの道しるべとなる。すぐに日が暮れるだろうから、ザックを下ろしたこのタイミングで発光ライトを装着することにした。途中から、イロキくんとOさんと合流したが、ペースに合わせられなくなっていたので、離脱した。

日が沈み、涼しくなったのでここからペースを上げて一気にゴールを目指すつもりでいたが、今回は無理だとわかった。
CP到着に時間がかかり過ぎている。今日まで足袋で歩き続けた疲労が相当蓄積されているということに気がついた。

今回、わらじ+足袋で挑戦しようと思ったのは、去年の参加者の影響だ。
去年は下駄に、なすび、ストロベリー、それにワラーチと面白い挑戦をする人たちがいて、よし自分も何かやって完走のハードルを上げようと決めた。
わらじ+足袋なのは、下駄とワラーチがいたので、じゃあワラージで行こうかな的なノリだ。

わらじの耐久性は山練で確認していたつもりだったが、サハラ砂漠のガレ場を前にしてはあっけないものだった。これは山と同じくらいに考えていた私がめちゃめちゃ甘かった。

で、今回はほとんど足袋(ソールなし、靴下、ほぼベアフット状態)でサハラ砂漠に挑むことになったのだが、実は、足袋って案外悪くないな、と思っている。というのも、まず軽量であること、(足袋に素足だったためか)蒸れない、マメができても(今回は1、2個くらい)布のためシューズのように接触しても激痛に苦しむことはない。

足袋で大地を踏みしめるようにして歩くので、足の裏の感触から足場の様々な情報を得て、自然に最適な足運びを選んでいることに驚いた。

というのも、今までは厚底の大きめのサイズのトレランシューズを履いていたのだが、感覚がつかめずに小石などにつま先をガツガツぶつけていたり、小石で足をくじきそうになり、ひやりとする場面もあった。後、転んだりもしていたが、今回はそれが全くない。

とはいえ、疲れるんですよ。
せめて、ワラーチのようなゴムソールがあったらまだ足のダメージが和らいだかも、こはぜではなくマジックテープだったら砂の侵入を防げたかも。
足袋を砂漠仕様にしたら行けるかもしれない、なんて悶々と考えていた。

というのも、CP4までの道のりで最大の試練が襲っていたのだ。
石ゴロゴロ、、とにかく石ゴロゴロで足袋でその上を歩くと痛い。まるで石ゴロゴロの河原を裸足で歩いているようなものだ。強烈な足つぼマッサージを受けているような感覚だ。

とにかく石ゴロゴロで、車が通った後も全くないのか、タイヤ痕、轍もないので、ゴロゴロとした石の上をなるべく鋭利なものを避けて歩く、しかも暗闇の中をだ。日頃の睡眠不足も相まって、とにかく一番きつい道のりだ。

CP4に着いたらとにかく寝よう。
とにかく睡眠を取れば、頭の中はそれだけだった。

CP4に着くやいなや、空いているテントを見つけ、その端っこを陣取った。寝袋を出し、iPhoneで目覚ましをセットして、ガッツリ睡眠モードに入る。
そこにいつも抜きつ抜かれつしている香港人グループがワイワイやって来た。寝返りをうつ私の姿を見て、「シーッ」と静かになった。この気遣いがありがたい。

が、あなたたち、ビバークでそういう気遣いしてほしいんですが・・。
毎朝毎朝大声で喋ってうるさいんですよね、、と思いながら深い眠りについた。

(続く)


(*1) 総合順位上位50位+女子上位5位は3時間遅れでスタート。
(*2) オーバーナイトステージではケミカルライトをザックにつけるのが必須となる。これにより、後方ランナーの道しるべとなる。ケミカルライトをぽきっと折ったら発光する。


サポートして頂けると単純なのでものすごく喜びます。サハラ砂漠の子供達のために使います。