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職人の道具を譲ってほしいとお願いしたけど、もらうことができなかった話

みなさんこんにちは。RENEW事務局の西山です。

福井県鯖江市・越前市・越前町は、ものづくりが盛んな地域。越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼といった、7つの産業が根付いています。
そんなものづくりの現場を体験できるイベント「RENEW」。職人がものづくりをしている工房の見学やワークショップを通じて、職人の技術や想いを体感できます。

2021年は、10/8-10の3日間で「ONLINE RENEW STORE」を開催します。10/8 0:00から販売がスタート!商品数は約160種類にも及び、イチオシの自社商品から、端材や職人の道具、アウトレットまで、バリエーションも豊富です!まだチェックしていない方はぜひ覗いてみてくださいね。

▶ONLINE RENEW STORE

オンラインRENEWストアでは、魅力的な商品を揃えるため、事務局が自ら直接工房を訪れ職人さんの話を聞き、商品になりそうなモノを探しにいくこともあります。

今回はその際に「ぜひ出品してほしい!」とお願いしてみたけど、売ってもらえなかった職人の道具をご紹介!なぜその道具は売ってもらうことが出来なかったのか。その意外な理由と、そこに秘められた職人の想いに触れていきます。
※職人さんの許可を取って掲載しております。


歴史ある漆器のまち・河和田

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福井県鯖江市にある河和田は1500年続く越前漆器のまち。人口約4000人のこの地域には、漆器関係の会社が約200社ほどあるそうです。実は全国の業務用漆器の8割が、ここ福井県の越前漆器!日本一の生産率を誇ります。その多くはこの河和田地区で作られており、旅館やホテル、レストランなどで出てくる漆器が、実は河和田産だった!なんてこともしばしば。

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福井県の伝統工芸品としても有名な越前漆器。実は分業制で作られており、主に重箱やお膳などを指す角もの。お椀やお盆などを指す丸物で、それぞれ職人が分かれます。そこからさらに木地師、塗り師、蒔絵師など、工程ごとに専門の職人が分かれており、ひとつひとつの作業がいかに専門性が高いかが窺えますね。

それでは早速、職人の方々がオンラインRENEWストアに出品しなかった、思い入れのある道具たちをご紹介していきます。


塗装会社である高橋工芸で、世代を超えて愛用されている“ 名前のない道具 ”

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高橋工芸は、100年近く続く漆器の老舗メーカー。木工の受注から受け付けており、外注して仕上がってきた木地に塗装を行います。「人の手を使って作ること」を大事にしながら、ひとりひとりに寄り添ったものづくりをされています。

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( 写真は器のつなぎ目を桜の薄皮でとめている様子 。)

高橋工芸はオンラインRENEWストアにもこだわりの商品を出品しており、この期間にしか買うことの出来ない茶器のセット「イップクボックス RENEW ver.」や、今回初登場し注目を集めている職人の道具、「シルクスクリーン」などがあります。

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RENEWのシンボル、あかまるを和紙であしらった「イップクボックス RENEW ver.」。こちらはオンラインRENEWストアでしか買うことの出来ない特別な一品です。

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二世代前の職人が使っていた「シルクスクリーン」。一見たんぽぽのように見える和柄は、昔からある伝統的な和傘の絵。他にもアカシア、桜、ツユクサなどのシルクスクリーンが出品されていますが、それぞれ一点ずつしかない限定品。

この他にも「高橋工芸の板」や「イップクボックスの蓋」など、ユニークな商品を多数出品。事務局から「お客様に面白い商品を届けたいんです!」「端材や、いらなくなった道具を出品して頂けませんか?」と高橋工芸へお電話したところ、突然のお願いにも関わらず快く対応してくださったのは4代目の高橋 亮成(あきのり)さんでした。2年前にお父さまが亡くなり、家業を継ぐことになった高橋さんは、家族の方やベテランスタッフと一緒に毎日奮闘されている若き職人さんです。

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( 笑顔がチャーミングな高橋さん。手に持っているのは、紅茶やコーヒーを楽しむように、気軽に抹茶を楽しめる茶器のセット「ippukubox(イップクボックス)」です。 )

その中で今回売ることは出来なかったけど、どうしても皆様にご紹介したい職人の道具があります。それがこちら。

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注意して見ないと板のように見えますが、木の溝にカッターがはさんであるこの道具。なんとこれは、高橋さんのお父さまが、ご自分で作られたものだそう!器の留め具として使う桜の皮を、綺麗にはがすために使用するそうで、持ち手が広く、指が丁度フィットする工夫もされています。

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( 写真は桜の皮。ここからさらに内側の薄皮を剥いだ素材が、留め具として使われます。 )

亮成さんは「こんなのがあればいいのになっていう道具を、父が自分で考えて作ったんだと思います」と話してくれました。ないなら作ればいい!という発想は、さすが職人さん!普段から、人が使うことを考えて漆器を製作されているからこそ、次世代にも愛用されるような道具が作れるのかもしれませんね。

お父さま亡き今は、まさに世界に一つだけの特別な道具。さすがに売ってください!とは言えませんが、記事として紹介しても良いか聞くと、快く承諾してくださいました。3月の現地開催で高橋工芸に行かれることがあったら、ぜひ商品の他にも、職人さんの道具や、それにまつわるエピソードに着目してお話をお伺いしてみるとよいかもしれません。


丸廣意匠で見つけた、先代が残した銀色の銃

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1983年創業の丸廣意匠は、木製品を中心とした吹付塗装の会社。2018年からデッドストックの漆器や木地に、塗装を施すことで再生させる実験的なプロジェクト「MARUHIRO SPRAY」を展開。独創性溢れる作品や、取り組み。2代目である廣瀬 康弘さんの挑戦し続ける姿勢やその人柄から、多くのファンがいる工房の1つです。

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( いつも突然色々なお願いをする事務局に、積極的に協力してくれる廣瀬さん。何を隠そう執筆者もファンの1人。 )

丸廣意匠は、昨年からオンラインRENEWストアに出品しており、「塊」や「板」と言った商品は、その独特の雰囲気から大きな反響を呼びました。今年も「板」は引き続き出品されており、そのほか新たに吹付の際に使用する道具、「スプレーガン」が顔を並べます。

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こちらはその名も「板」。お椀や盆などをこの板にのせて吹付塗装を行います。同じものは一つとしてなく、どれも一点ものの商品です。

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( 吹付塗装の相棒「スプレーガン」。その名の通り銃のような形をしており、今回オンラインRENEWストアのために、特別に黒い塗装を施してくれたそうです。 )

昨年に引き続き、丸廣意匠ならきっと面白い商品を出してくれる!そう思って「今年も出品して頂けませんか?」とお電話したところ、「いいよ!あるある!」と二つ返事が返ってきました。工房に出かけていくと「今年も好きなの選んでいいよ」と、たくさんの板がお出迎え。

さらに、「今年丁度この型が廃盤になって、総取り換えしなきゃいけなくなったから」と言って出してきたのは黒塗りのスプレーガン。「え、銃みたいじゃないですか!」「カッコいい!!」「これ出品していいんですか!?」と盛り上がる事務局に、「いいよ^^」とにこやかに答える廣瀬さん。「ちなみに入れ替えて今使ってるスプレーガンはこんなのだよ」と現在の相棒も見せてくれ、その仕組みや、メーカーの特徴なども詳しく教えてくれました。

そしてふと壁にかけられた古いスプレーガンをとり、「これが昔のスプレーガン。親父が使ってたやつ」と事務局員に手渡してくれたのが、下の写真のもの。

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年季の入ったそのスプレーガンは、現代のものよりもずっしりとした重みがあります。

「これはさ、親父が亡くなる少し前に購入して使ってたやつなんだよ」「いわば、形見だね」と、あいかわらずにこやかに語る廣瀬さん。

顔も知らない職人さんの道具。でも私たち事務局員が良く知る廣瀬さんのお父さまの道具。その穏やかな笑顔と反比例して、スプレーガンの重みが増した気がしました。

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廣瀬さんは2代目の職人。代替わりする前は、ずっと漆器産業の営業に長く携わってきました。家業を継いだ時、今までと離れずとも違う土壌で多くの苦労をされたそうです。時には歯を食いしばり、時には人に支えられながら。お父さまが立っていた塗装場で、廣瀬さんは今もスプレーガンを片手に吹付けをしています。

お父さまがどんなものを作り、どんな想いをもって、この仕事をされてきたのか。今となっては直接聞くことはかないません。それでも工房の積み重ねられた塗装の跡が、廣瀬さんの挑戦をし続けるその姿勢が、今は亡きお父さまの姿を教えてくれるような気がします。1500年続く漆器のまちは、この先も廣瀬さんのようなたくさんの職人さんによって、受け継がれていくのかもしれません。


塗師屋・漆琳堂の受け継がれる魂

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1793年創業の漆琳堂は、漆器の塗りを専門とする老舗の漆器屋さんです。伝統的な器も製作する一方で、POPな色合いが可愛い「aisomo cosomo」や、食洗器に対応した漆器「RIN&CO.」などを販売。これまで培ってきた技術を活かし、現代の生活様式にマッチしたものづくりをされている工房です。

もちろん漆琳堂もオンラインRENEWストアに出品しています。フクイヴェナトルや越前ガニの絵柄が可愛い「プラチッキ」や、普段生産していなオリジナルの「カラーカスタム汁椀」等を販売。

小皿・中皿・小鉢かに1

「プラチッキ」は、こどもの食器としても使いやすい小皿、中皿、小鉢の三種類をご用意。カニの手についている金色は、実はブランドもののカニにつけられるタグなんだそうです。名前に福井が入ってる地元の人にはおなじみの恐竜、フクイヴェナトルの小皿も可愛いのでサイトでチェックしてみてくださいね。

ピンク×ベージュ

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「カラーカスタム汁椀」はピンクベージュとモスグリーン(内黒)の2種類を出品。ピンクベージュは在庫が1つ。モスグリーンは在庫が2つしかないレアものです。

早速今年の9月、オンラインRENEWストアに珍しい商品を出品していただくため、職人の道具にはどんなものがあるのか、8代目である内田徹さんに聞いてみました。

内田徹

( 漆琳堂の社長であり、RENEWの幹部でもある内田さん。穏やかな中にも芯の強さが見える語り方は、聞くものを惹きつけてやみません。 )

内田さんが古い引き出しを開けて出してきてくれたのは、木地に漆を塗るために使われる柄の長さが特徴的な刷毛。なんとこの毛は人毛で作られているそうです。

刷毛

「かっこいい!!」「THE!職人の道具感あります」「漆器の職人ならではって感じがしますね!」と事務局は湧きあがりました。そして「ぜひ、使えなくなった刷毛があればRENEW STOREに出してみませんか?」と相談したのです。その問いに内田さんは首を横に振って言いました。

「これは“職人の魂”だから売れないよ」と。

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そもそもこの刷毛は内田さんが生まれる前から受け継がれ、幾人もの職人が使ってきた歴史ある大切な道具。

筆先がすり減ってきたら鉛筆を削るように木の部分を削り、柄の中に入っている新しい毛の部分を出すことで、また継続して使用できます。ただそんな頻繁に削りだすことはないため、一つの筆を何世代にも渡って受け継いできました。柄が短くなって持てなくなっても、鉛筆キャップのように持ち手の部分を補強すれば、最後の最後まで使いきることができるんだそうです。

そうやって長い年月をかけながら受け継がれてきたこの刷毛は、まさに職人の魂そのもの。何も知らずに見れば、それは数ある「道具」の一つかもしれません。でもそこに受け継がれてきた職人の思いは、最初の使い手を離れてもなお次世代に引き継がれ、今も大事に守られているのです。

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商品のその先にあるもの

実はこの記事を執筆するに至ったのは、漆琳堂さんのこのお話を聞いたことがきっかけです。さらには、他の工房にも聞けば聞くほど「職人の道具」には知られざる熱い思いや、魅力的なエピソードが隠れされていました。商品として売ることは出来ないけど、このお話をぜひたくさんの方に伝えたい!知ってほしい!そう思ったのです。

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私たちは何かを購入するときに、まずその“もの”を見ます。「このデザイン素敵だな!」「使いやすそうだから買ってみようかな」。そして、その“もの”の先を見ることもありますよね。「これはサスティナブルな商品なんだ」「こんな意味が込められているんだ」。でもさらにその先はどうでしょう?どんな顔の人が、どんな思いを込めて、どんな場所で、それは作られているのでしょうか。

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RENEWは職人の方々から直接、ものづくりへの想いを聞けるイベント。工房見学やワークショップなどを通じて、商品の“さらにその先”にいる職人さんたちのことを、もっともっと多くの人に知ってもらう、きっかけづくりをしたいと思っています。

今回、この記事を書いたのも同じ思いから。職人の道具にまつわるエピソードを伝えることで、誰か一人にでも興味をもってもらえたら。そして一人でも多くの人が職人さんに会いに来てくれたら、こんなに嬉しいことはありません。

RENEW2021は、10月の開催が延期になり、来年の3月に開催します。
ぜひその時にみなさまに直接お会いできることを楽しみにしています。

ONLINE RENEW STORE
販売期間:2021/10/8(金) 0:00 ~ 10/10(日) 23:59
URL:https://renewstore.shopselect.net/

RENEW/2021
開催日:2022/3/11(金) ~ 3/13(日)
開催場所:福井県鯖江市・越前市・越前町丹南エリア全域
公式サイト:https://renew-fukui.com/


執筆者:西山ほゆ

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