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1人ひとりが「望み」を持つオランダ吹奏楽団


 RENEW LAB. の浅原ルミ子です。音楽家として

「身近な本格派」
「日本一アマチュアを理解するプロ」

をモットーに、クラリネットを演奏することや教えること、管楽アンサンブルのコーチングをお仕事にしています。ビールが大好きです。

 この夏は、いくつかの吹奏楽部および吹奏楽団のコンクールに向けたお手伝いをする機会に恵まれました。オランダで現地の吹奏楽を知り、良いところを日本の吹奏楽界に紹介するということが留学の目的の一つだったので、帰国後1年目にして早速そのチャンスを頂けて大変充実した夏になりました。

オランダと日本の吹奏楽活動の違い


 日本とオランダの吹奏楽活動には様々に違いがあります。たとえばオランダでは...

・部活動がないので、子供達は地域の楽団に参加する
・全国共通のアマチュア奏者向けディプロマがあり、大抵の楽団でその受験と合格が必要
・コンクールは数年に1回参加
・コンクールは課題曲の難易度別に参加するディヴィジョンを選べる
・コンクールには賞金と副賞がつく
・リハーサルは週に一回2時間~3時間程度
・8月はヴァカンスなので1ヶ月間リハーサルなし

等に、日本の吹奏楽部/団との違いを見ることができます。

また、吹奏楽だけでなく、マーチング、英国式ブラス、ファンファーレバンド、フルートだけバンド、自転車マーチング(!)など、管楽合奏ジャンルにおける多種多様な楽団が存在しています。

そして、この夏の活動を通して最も印象的だった違いが
個々の奏者が作品に対して「望み」があるかないか
ということでした。

「望み」を能動的に持ち、表面に出す人々

 オランダ留学中の4年間で様々なアマチュア楽団へのエキストラ出演をし、また、卒業論文を書くために複数の市民楽団を見学しました。

そこで見たことは、奏者一人一人が「望み」を明確に持っており、それは、個々人のアイデンティティと楽器を演奏する自分に健全な自尊心、そして演奏曲に対する能動的で自発的な「思考」や「空想・想像」に導かれたものであるように見受けました。

 その証拠に、どの楽団もリハーサル中に奏者が積極的に指揮者に質問をするのです。

いや、質問というより、

「私はこうやりたいから、こう吹いているんだ」
「私、こうしたいんだけど!」

という意見表明でした。

しかも、パートリーダーやコンサートマスターが代弁するということはなく、望みを持つ奏者が主体的かつ能動的に行っていました。

 また、リハーサルの休憩は30分間のコーヒー&ビールタイムなのですが、その間も指揮者の元には次々に楽団員が話しかけ、質問、または、意思表明をしていました。

 指揮者たちも、誠実に答え、対話をなし、奏者の意見を採用したり、自分の意見を試してもらったり、時には二つの違う観点から新しい表現のアイディアが生まれたりします。

そんなやりとりをしながらリハーサルを進めていました。

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望みを表現できる場に必要なこと

 私がオランダで見て経験した「望みを表現できる場所」は

・誰とでも人間として対等で平等である
・寛容と共存
・自由で自発的なイマジネーションと発想

が可能な場所、すなわち、

「心理的に安心な場所」

であり、それによって奏者一人一人が望みを持ち、また、発言や演奏を通してそれらを臆することなく表明できるのだなぁ、と考えました。なるほど、これが、オランダの楽団の演奏が心がすくような、生き生きとした人間らしい演奏の秘訣なのかもしれません。

 この夏、日本で豊かな感性を持っている中高生や社会人奏者のみなさんにたくさん出会いました。

しかしながら、対象となる演奏曲について、自分で考え、空想と想像し、「望み」を十分に持つこと、またはその材料を集める時間がとても少ない環境にありそうだ、と気づきました。

もしかしたら、そういったことを思いつくきっかけもこれまでなかったかもしれません。

 こういった側面を助けられる音楽家であることが私の「望み」ですので、今後も音楽家としてこの点をメインの研究テーマとして、演奏やレッスン活動を通して日本の吹奏楽をより理解し、またオランダでの経験を生かしていきたいと思います。RENEW LAB.での活動もきっと私の視野と思考の枝葉を広げてくれるでしょう。

 今後もオランダと日本の違いや共通点、双方に活かせそうなことなど、noteに綴ってシェアしていきますね。

 
 


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