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引き出しを開けてみると、そこは空っぽだった

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引き出しを開けてみると、そこは空っぽだった
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今日は今学期最後のフィールドトリップ。スタヴァンゲルから車で30分ほどのところにあるサンデスという街にある団体に訪問しました。ノルウェーでもかなり大きい組織で、主に就職支援や社会復帰を中心に活動している。もちろん、日本のようなキャリア支援団体ではなくて、身体ダイバーシティーを持つ人であったり、移民や難民の人に向けた支援が主(ノルウェー人の職探しの斡旋もしているよう)。今日は今学期最後のフィールドトリップということもあって、訪問した後に教授の家でご飯を食べることになっていた。

今学期最後のフィールドトリップも無事終わりなんだか感慨深い。それも束の間、終わり次第すぐに教授宅に向かった。僕は密かに楽しみしていた。教授と生徒の距離がなくて、フランクに接することができるのはノルウェーの良いところ。他の国でもこういうところ多い。日本の大学に在籍していた時、僕は国際系の学部にいてかなりフランクな雰囲気があったけど、僕のゼミはそうでもなかった。卒論相談で教授のオフィスにいって、4時間くらい話したことはあった(ほとんどが卒論とは直接関係のない世間話)けど、家にいくことはなかった。素直に教授ってどんなところに住んでいるんだろう、なんて期待を膨らませながら向かう。

中に入るとさすが北欧。デンマークの国民的インテリアブランド「ルイス・ポールセン」のたぶんあれはPH5というやつ、が天井からぶら下がっている。なんだかノルウェーではデンマークの家具をよく見る。大学のカフェテリアではアルネ・ヤコブセンのセブンチェアであったり、アリンコチェアがゴロゴロある。

まあそんなわけで想像していたようなノルウェー人の家だった。そして何と言っても窓からの景色が最高。Project Påseの調査場所であったスーパーまでの道中、いろんな家を練り歩いていたけど、ノルウェーの家の窓ガラスはやたら大きい。これでもかっていうくらい光が目一杯差し込むようになっていて気持ちが良い。家に着いた時はまだ明るかったけど、日が沈むにつれてだんだんあたりは暗くなっていく。暗くなると、家中のキャンドつに火を灯して部屋を照らす。天井から吊るされたPH5から放たれる光には無駄が削ぎ落とされていて、必要なところにだけを明るくする。明るい部屋ではないけど、すごく温かい部屋がそこにはあった。

早めの夕食をみんなでいただいて、お腹いっぱいになった僕たちはソファーや椅子で各々くつろいだり、おしゃべりしたり。音楽を流して楽しんでいるクラスメイトもいた。すると、唐突にダンスタイムが始まった。僕は一眼レフを持ってきていたので、踊っている瞬間を写真に収め、そんな様子を動画にも収めていた。ノリのいいクラスメイトはノリノリで踊る。一通り踊り終えると、他の人のダンスも見たいとその矛先がいろんな国に向く。時には個人名も呼ばれる。流れからしてだいたい想像がつくけど、「ジャパン」に来る。僕のクラスには日本人が3人いて、うち僕だけが男。「やばい」心の中で焦っていた。動画役ということで矢が僕に向かないことだけを祈る。そしてその時はやってきた。

「I wanna see Japanese dance!!」

ドキッとした。3人の日本人がいてこのクラスではマジョリティー。ジャパンの番はまあ来るよね。僕は頭の中にある引き出しを急いで探してみたけど、どの引き出しにも「ダンス」はなくて、「やばいどうしよう」これだけが頭を駆け巡る。でも周りはノリノリ。多数派の圧力から、前に出ざるを得なくなり、なんの武器も持たずにステージという名の戦場へと向かう。日本人は3人いるけどもちろんここは僕が出るしかない。

前に出てしまった以上は後戻りはできない。踊りの経験なんかないし、踊れるようなJPOPなんか知る由もない。芸人だったら即ネットで叩かれるくらいあたふたしてしまった挙げ句、僕が出した答えは三代目J Soul BrothersのRYUSEI。数年前狂うように流行って、何度も擦り倒されたあのダンス。当時結婚式場でアルバイトしていた僕は毎週のように余興で見ていたあのランニングマン。

「やるしかない」

手を震わせながらYouTubeで『J Soul RYUSEI」などと打ち込んで早速音楽を流す。地獄の時間が始まった。僕が唯一わかるのはサビに入った後のランニングマンだけ。そこに辿り着くまでが異様に長く感じられて、ステージの上で突っ立っている。周りからの視線が集まる。そしてやっとサビが来た。思い切ってランニングマンをする僕。

ダダ滑り。いやーいい感じで滑ってたかな。みんなが時代に追いついていないのか、僕が時代に追いついていないのか。まあとりあえず滑り倒した。優しいみんなはなんとか盛り上げてくれたけど、ここ2、3年でまあ断トツで恥をかいた瞬間だった。

反省。反省。

こういうとき引き出しがある人ってかっこいいよな、と純粋に思う。勢いに任せてやってしまえば、その勢いがなんとかしてくれる。あたふたしているその時間だけハードルを上げて自分の首を絞める。こういう時の瞬発力ってすごく大事だね。

振られてから急いで引き出しを片っ端から開けて探してみて、見つからなかった時。その辺の紙に「ダンス」って書いてしまってあたかも自分の引き出しにあるかのように振る舞う。やっぱりこういう時にガッと前に出れないのは昔から変わらない。

人を楽しませる(芸人的な意味合いではなくて)のは好きなはずなのに、こういう時には羞恥心が勝ってしまう。引き出しがたくさんあるやつってかっこいい。そう心から思った、数分の出来事だった。

引き出しをたくさん持っている人ってすごく魅力的で、懐が深く見える。そんな人になりたい。

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今日の一枚。教授の部屋に飾ってあったバラの花たち。すごく綺麗だったのでついついパシャり。宴もたけなわでデザートを食べ終わるころ、隣に座っていた教授の旦那さん(この話で言っていた教授は女性)が話しかけてくれた。よくよく話をしてみると、今はもうリタイアしたけど旦那さんもかつては教授で、ポリティカルサイエンスを教えていたそう。ノルウェーの色んなこと(石油産業とか)を聞けたし、日本にもたくさん興味を持ってくれて行きたいんだよね〜と言っていた。薄暗い部屋の一角の密かに照らされたところで教授と話せるなんてなんだかすごく嬉しくなった。やっぱりノルウェーの教育のこういうところは大好きだ。

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