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投資先を「銘柄」って呼び続けますか? ー 投資信託に必要なことは”高度化”ではなく”真面目化”

そもそも「会社とは何か」を考えた時、会社は人(自然人。以下、「人」という)によって設立され、人によって運営されます。人がよい判断をすれば発展し、間違った判断をすれば衰退します。こうして人に依っている以上、人の性質を多分に含んでいるのが「会社(法人)」といえるでしょう。

#鎌倉投信  さんが運営を始められたスタートアップ会社を投資対象としたファンド(個人投資家がお金を預けることができない私募ファンドです) #創発の莟  のWebページで表明されている「世界観」です。

どんな会社であれ、会社は「人」の集まりであり、会社そのものも「人」と考えられます。だから”法「人」”なんですよね。

そんな会社が活動するための資金を融通する機能を担っている金融業界。その金融業界は、投資先のこと、資金を託している対象のことを「銘柄」と呼び続けています。

この業界の人は会社のことを「銘柄」と呼ぶのです。場合によっては上場企業についているコード番号で呼びます。まるで会社を完全な「無機物」として扱っているかのようです。

これは、“働く株主®”を掲げる #みさき投資 の社長、 #中神康議さん  の著書「投資される経営 売買される経営」(2016年6月出版)の一節です。5年前にこの本に出会って非常に強く印象に残りました。

金融業界、投信業界の皆さんは、一体、いつまで「銘柄」と呼び続けるのだろうか、そんな気持ちがあらためて自分の中で盛り上がってきました。ということ想いを抑えきれず、 #投資信託事情  の最新号に

”銘柄”って呼び続けますか?

と題してコラムを寄稿しました。

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お金、資本を託している相手先のことを”銘柄”と呼び続けること。

それは

「株式投資とは値動きを追っかけるもの。安く買って高く売るもの。」

そんなイメージがいつまで経っても払拭されないままにしている。

株式投資って、「株式」という証券に投資しているのではなく、それを発行している「会社」「企業」に投資することだ、という考え方が根付かない理由ではないか、と考えています。

「銘柄」という言葉づかいが、株式投資と、下の写真を反射的に結びつかせている(もちろん、これも重要な一面であるのは確かなのですが)。

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投資先のことを「会社」「企業」と呼ぶこと、表現することを意識してもらいたい、そう思ったのです。

「高度化」を語る以前の段階だと思います

上記のレポートが発信されました。

昨年のレポートについての感想を述べた記事です。

今回のレポートも個人的には「ピント外れ」だと感じました。数字、結果、リザルトを追いかけていて、プロセスにはあまり注意が払われていないと感じました(個人の感想です)。

正直、「高度化」という言葉そのものが今ひとつピンと来ません。定義は何なのでしょう。どういう状態を目指すのか。レポートの冒頭にこう書かれています。

日本の資産運用会社が、顧客本位の商品を提供し、中長期的に良好で持続可能な運用成果を上げることにより、顧客の資産形成に寄与するとともに、その信頼・支持を獲得することによって、 収益基盤を確立していく

これが「高度化」、目指すべき場所ってことのようです。

レポートには運用成果、リザルトの数字、グラフが沢山載せられています。運用成果こそが大事だ、という思想を感じます。しかし、そもそも、成果こそが出ていれば、顧客本位と言えるのか。さらに、その成果として示されているデータ、グラフには”時点”という言葉が至る所で添えられています。つまり、スナップショット、一瞬の姿です。

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この4つについて、対話?ヒアリング?した内容がまとめられていました。しかし、顧客(投資家)への情報開示、丁寧な説明のことはほとんど触れられていませんでした。

特定の大手金融グループに属さない独立系等資産運用会社においては、自社の目指す姿を明確にし、投資先企業との 対話を重視する徹底した企業調査、顧客に対する企業理念やファンドの運用状況の丁寧な説明、資産運用会社自らに よるファンドの販売(直販)により、投資先企業や顧客との信頼関係を構築する取組みが見られる。

この箇所くらいでしょうか、情報開示について言及していたのは。

お金を託されているのに、そのお金をどう使っているのか、どんなプロセスを経て、どんな材料を元に判断して、どんな会社に投資しているのか、その説明をロクにお金の出し手にしていない。繰り返すのは、市況、投資先の会社の株価の値動きの薄っぺらい説明だけ。

こんな不真面目なことってあるでしょうか。

ほとんどの公募投信の情報開示は不真面目と呼ばれるべき水準でしかない、と感じます。そこには全くこのレポートは触れられていません。

ガバナンス、経営体制以前の話だと思うのです。

ガバナンス等が改善すれば「真面目」に発信してくれるのでしょうか。ガバナンスがボトルネックなのでしょうか。その意識が無いのでは。

数年前、ある投信会社のファンドマネジャーとお話しする機会を得ました。

あなたのファンドの月次レポートは、どうして、抽象的でその量も極めて少ないのですか?

そう尋ねました。ファンドマネジャーはこんな風にお答えになりました。

アクティブファンドの月次レポートを読んでいる人は投資アイデアを探している人の方が多いのでは、と推測している。そうした読者に「手の内」を見せるようなレポートを発信することに抵抗がある。

僕はこう応じました。

確かに投資アイデアを探している人もいるでしょう。でも、投資家の中には、自分の保有しているアクティブファンドが、どのように運営されているのか、投資先をどう選んでいるのか、どんな調査をしてくれているのか知りたいと思っている人だっている。それが分からないのに追加で資金を託すことは出来ないよ、という人もいるはずです。より具体的にファンドの行動を発信しないと投資家には分からない。
そこは投信会社のイニシアティブしかありませんよ。
具体的に、また、想いや熱を込めたレポートを発信して、「さすがプロは違う。こんな人たちにお金を託してみたい。」投資家にそう唸らせるようなレポートを発信してくださいよ。



その後、そのファンドのレポートの発信内容はスゴく改善されました。

ファンドの運営のためにファンドマネジャーが、投信会社が行動していることを、「真面目」に発信する。そんな「真面目化」が全然足りていないのが実状です。この「真面目化」を徹底するようになれば、ファンド濫造への歯止めにもなる可能性も高いと思います。一つ一つのファンドに手間がかかることになりますからね。

アクティブファンドの成果は、投信会社と投資家との協働、お互いの信頼から生まれてくるものです。双方が不真面目であれば、成果が生まれないのもある意味当然です。

冒頭の鎌倉投信さんの世界観を再度。

魚類が数万個の卵を産み、1匹2匹生き残ればよいという子孫存続のモデル

これまさに、今の投信業界のモデルに似ています。スタートアップはこうしたモデルもやむ無しの面はあると思います。しかし、上場会社に投資する投資信託がこのモデルってどうなのよ。

会社が人としての性質を持っているのであれば、多産多死の魚類モデルではなく、人の成長を参考にした「育成成長型」の投資モデルが必要であると思います。

会社が人としての性質を持っているのであれば

この世界観で投資信託を運営しているのであれば

投資先のことを”銘柄”って呼び続けることは、実に不真面目ではないだろうか、と感じ流のです。

そのような姿勢で投資先と目的を持った「対話」なんて可能だろうか。投資先の会社の人たちだって、会社に戻れば「あの銘柄」と呼び証券コードでコミュニケーションしているマネジャーと真正面から向き合うだろうか、腹を割って話すだろうか。

投資判断、投資行動を誠実に、具体的に説明する「真面目化」が、投信業界に何よりも最初に求められていることだと僕は思っています。

ファンドの運営、投資家の為に為している行動を、具体的に、誠実に、熱心に、「真面目」に、投資家に伝えようとする投信会社、ファンドが少しでも増えてくれることを心の底から期待しています。

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