落下予感001-02

大学は嫌いだ。

楽しく連れだった群の隙間でひとり下を向いて歩いている。
アパートの隣の部屋は留守の気配。なちはもう登校しているはずだった。美術大学、同じ専攻同じ学年、だけど浪人したあいつの方がひとつ年上で。

「あ、ウタヤー」

群の中から頭ひとつでかい金髪の男。
なちだ、こちらを向いて笑ってる。今日は違う専攻のやつらとつるんでいた、その事実にまたイラついて俺はなちの言葉を無視した。

なちは俺だけのものじゃない、そのくらいわかってるはずなのに。

"嫌い、みんな大嫌いだ"

そのまま下を向いてキャンパスを走った。左肩に抱えたスケッチブックが揺れている。

スケッチブックのなかのラクガキには、苛立つくらいなちの顔が描かれていた。

「ウタヤー」
昼休み、食堂にはなちがいた。
また誰かを引きつれて。

手を振りかえすのも癪だったので再びあからさまな無視をした。

机の上のトレイには、カフェオレのカップ。

「ウタヤ、またご飯食べないの?」
「別に腹減ってないし」
「そんなわけないだろー、ひとりで食べるのが嫌ならおれと一緒に食べる?」
なちの引き連れた知らないやつらは俺を見て苦笑い。

……別に俺だって空気くらい読めるよ。
なちの明るさはみんなを癒している。俺は性格も作品傾向もどんより暗くてみんなを困らせる。あいつ感じ悪くない?そんな声が聞こえることも少なくない。

だけど、なちは俺から離れなかった。

「同級生でさ、ご近所さんどうしだろ?仲良くするのは悪いことじゃないよ」

そしてひとり集団から抜けて、トレイを持って俺の隣に。
「……いいのかよ」
残されたなちの友人たちから、なんだか嫌な視線を感じた。
「おれはウタヤとごはんが食べたいんだよ。ダメ?」
「……」

なちは俺の言葉を待たずに、自分のトレイからおかずを取り分ける。

「ほら、ウタヤも食べないと」
「いらない」
「……ウタヤ」

男のくせに、母親みたいなことをする。
俺は母親なんか覚えてないが。

それからなちはずっと俺の隣に座っていた。

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