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第11章「 めげずに次いってみよ!!」魔女の奇異な人生

「 私を怒らしてくれてありがとう 」 

最初に入社した美容室で、ぶち切れバックれた後、さすがに落ち込み誰にも会いたくなく引きこもっていた。どのくらい引きこもったかは、忘れてしまった。

せいぜい、一週間くらいだったと思うけど、全く時間の概念がなかったような気がする。ただただ、真っ暗な穴の中にすとんと落ちてしまっている感じで、今思うと引きこもっている人って、こんな感じなのかもしれないな。
人は、「何年もいつまでも引きこもってんだ!!」とか言うけど、当の本人は、その世界からどうしたら抜け出せるのか本当にわからなくなっちゃって、時間とかもわからないまま、虚無の世界に、ただ穴に落ちちゃってるだけなのかも。

グズグズして布団と同化していた魔女は、ある日、むくっと立ち上がった。

最初は、いじめたちんちくりんや、見て見ぬふりをして助けてくれなかった周りの人に対しても、悲しみと怒りが納まらなくて、めそめそぎゃぁぎゃぁー泣いていた。
別に失恋したわけじゃないけど、中島みゆきとか、あえて聞いて悲劇のヒロイン気分で感情のおもむくまま泣いてみた。誰にも遠慮せず泣き晴らすには、みゆきお姉さまは最高だ!散々泣いたら、そのうち泣いている自分に対して、くだらなく思えてきた。

怒りは次第に自分に対してだということに気が付いた。
落ちるだけ落ちたら、自分の弱さに腹が立ってきて、
「私は、何しに東京へ来たんだ?!」
そんなことを悶々と考えていたら、なんだか分からない怒りが、また出てきて。不思議と、それが次第にパワーに変換?されていき、自然と情熱がむくむくと出てきた。
本屋へ行き、雑誌を買い込んで読み漁った。

「 中途半端な自分がいた。もう家には帰れない。ちゃんと飛び込もう。
  学びたいと思う先生に懇願して、何度でもお願いしに行こう。」
一人で盛り上がり、自分を励ましていたら、久々の妄想が拡がり始めた。
その世界では魔女は良き同志と、生き生きと働いていた。それを見たら今度はさっきまでとは違う涙が静かに出てきた。
ちんちくりん、
「もう会うことはないと思うけど、私を怒らせてくれてありがとう。
一歩、自分の足で進むことができたよ。」
不思議と感謝が込み上げてきた。

「 成城のとあるお店へ 」

渋谷店が希望だったけど、成城店へ配属。それでも嬉しかった。
スタイリストの先輩方は、とっても個性強めの方々ばかりで、それでいてなんか余裕があって皆んな楽しそうに仕事をしていた。
前の店は、普通にオシャレな服装な先輩たちだった。でも、この店は、各々が自分の世界観を持っていて、「 その服、どこへ行ったら買えるんですか???」そんな質問が出てくるほどの、オリジナル感がすごい人ばかりで、よく言えば、パリコレ。行き過ぎるとサーカス団?!みたいな。
中性の先輩もいて、話し方と仕草は私より、女らしい。うーん見習うべし。
それぞれの個性をお互いリスペクトしている感じで、なんというか、別世界、他の惑星に来たような印象を受けた。
「そう、こういう感じ!!私が見ていた世界は、こういう空気感」
妄想で見た世界とほぼ同じだった。毎日、ここで働けると思ったらワクワクしてきた。

後に、カリスマ美容師の走りになり美容界を変えた大きなサロンができたのだが、このお店から数人先輩や同期が立ち上げに携わった。そのくらい、魅力的な個性豊かなスタッフ揃いのサロンだった。

「 同志」

決して、広い店ではなかったけど、スタッフ総勢20人くらいの店で、毎日予約もびっちりで忙しくてご飯も食べれないお店だった。ほとんど、お昼ご飯を食べられるのは、夕方か夜。そして狭いスタッフルームで立って、瞬間的に食べるという毎日だった。
営業が終わってから、毎日下っ端は勉強会。深夜まで毎日。それが何年も。
今だったら、超ブラックと言われてしまうのだろうか?そう思うと、今は寂しい世の中かも。

最終の電車に乗れず、途中下車の同期の仲間の家に、みんなで泊まり込み、そのまま、朝みんなで出勤なんてざらだった。お金も、みんな無くて小銭をみんなでかき集め、牛乳買って小麦粉で貧乏シチューをよく食べた。

ここでは、世の中の常識とはぶっ飛んで違っていて、大事なことはそれぞれ自分の夢や目的を達成すること。
そこだけが共通意識だったように思う。
だから、スタッフ間でもめることもそんなになく、イジメもなかった。
みんな、自分の夢に向かって必死だった。小さな嫉妬とかはあったが、ちゃんと頑張ってるのを知っていたし、お互いの才能と努力と個性を認め合う仲だった。こういう意識の集合体はすごい。
誰もが、主役でいい。自分の人生の主役は、自分だけなんだから。


「 転がっちゃうダイヤモンド 」

長い常連のお客様が多く、成城という場所柄、お家柄がよく本物のお金持ちの方が多く、色々な方面での著名な方がいらしていた。

カットやブローの合間に、ハンドマッサージをサービスでするのが売りでもあった。その時、指輪を外してもらい預かるのだが、忘れもしない数々の宝石。その中でもトップクラスだったのは、超巨大なダイヤモンド。美術館にあるくらいのものらしい、ものすごい大きなダイヤモンドの指輪をしてくる女性。預かるのも緊張した。
そして、「ダイヤモンドが大きすぎて重いからまっすぐ立たないのよ〜」と貴婦人はいつも言っていた。
そんな特殊なサロンでの接客やおもてなし、またお客様から色々教わることも沢山あり、ここで人間性を育んで もらったと言っても過言ではない。

オーナーの先生は、男性だったけど、すごくセクシーでいつも足を組んで斜めに座ってる人だった。先生が作るスタイルは、どんなに歳をとっている人でも、セクシーでフェミニンに仕上がる。
「 髪の毛は、少し痛んでるくらいが色っぽのよ」と先生が、無造作に作るスタイルは、ほんと誰も真似できないものがあった。

魔女は、ここで幼少の時と同じ感覚、沢山の本物という人たちに巡り合った。
本物とは、「 本物だ。」とシンプルに思うだけで、説明のつかない圧倒的な何かをもっている。
歳を重ねて、そんな大人に自分もなりたい。そう思った。


【 本物】・・・本物の基準て。
人間の身体は小宇宙とよく言いますね。本当は、全て叡智をみんな知っていて、この身体の中で全て完結している。それを忘れてしまっているから、真理から離れてしまっているから孤独が生まれ恐れが生まれ、我が生まれる。
魔女が思う、本物というのは、我がない状態の行い、働きをしている人。
今まで、見てきた本物の特徴は、まず、謙虚であり、自分自分という我がない方ばかり、つまり自分を超えてしていることなので、それは誰の心にも当てはまり、多くの人の意識に同化し共鳴するんだと思います。そうして、それは、ごく自然体だから、鼻に付くこともないし、違和感もない。そういう人、もしくは、そういう状態で作った作品が、本物というのではないのでしょうか。
沢山の本物が、あちこちに散りばめられている世の中。
心の目を磨いて磨いて、、、。
この人生で、多くの本物に出逢えることは幸せなこと。


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