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速乾性シャツという悪徳商品

 私は札幌に住んでいるが、この季節は本当に暑い。このアパートが安普請のせいか、昼間は蒸し風呂のようになる。天井と屋根が薄い板一枚を挟んでいるだけなのではないかと疑っている。冬も寒くて、一月などは、ストーブを点けているのに、彼女は震えが止まらず、布団の中にさらに寝袋を用意してやった。私はウィンドブレーカーとフリースとウルトラライトダウンを重ね着して寝た。

 翻って夏、冷房を買う余裕はないので、扇風機でやり過ごしている。しかし午後になると、椅子に座っているだけで汗が額から流れてくる。
 私は多汗なので、食事をすると髪の毛が湿るほど汗をかく。脇や尻は蒸れて酷い臭いになる。自分の臭いなのにノイローゼになるんじゃないかというくらい臭い。

 私は自衛隊に八年間いたが、ここまで臭くはならなかった。今の比にならないくらい毎日汗をかいていたのにもかかわらず。
 一日の大半を座って過ごすせいで、尻が異様に蒸れてしまうのが原因かと思ったが、それでは脇について説明がつかない。
 そして、考えてみると、その日着る服によって悪臭を発さない日がある。

 結論から言えば、化学繊維の服が臭いの元凶だった。綿100パーセントのシャツとパンツとズボンにしたら、嘘のようにあの嫌な臭いは収まった。
 考えてみれば、自衛隊の迷彩服は綿が含まれていた気がする。

 調べてみると、化学繊維の布は綿と違って吸水性が殆どないので、まるでラップで尻や脇を覆っているようなものだというわけだ。だから蒸れて菌が増殖し始める。また繊維が細かいので、菌が中に留まるのに好都合な構造らしい。

 妙なのは、今や服売り場にいけば「速乾」とか「夏でも涼しい」という謳い文句で化学繊維の商品が溢れていることだ。夏こそ、化学繊維素材の服を着た方がいいという印象さえある。
 実際触り心地はひんやりさらさらしているし、つい良いのではないかと思ってしまう。
 確かにスポーツ時に一時的に着るなら、伸縮性があっていいかもしれない。長時間着ないならば菌が体温で増殖することもないだろう。
 だが一日中着る普段着としては明らかに不適格だ。めちゃくちゃ臭くなる。

 もちろん私の体質もあるかもしれない。しかし明らかに夏場に向いていない素材の服を、宣伝によってあたかも季節に適しているが如く誘導するのは悪徳商売ではないか。

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