地理ガチ勢が語る「特定」の話【AVCC2018】
〜この記事は、AnotherVision Countdown Calender 2018(AVCC2018)の一環でお送りいたします〜
皆様こんばんは、初めましての方は初めまして!
AnotherVIsion5期の宝蔵蓮也(ほうぞう れんや)と申します。
自己紹介は、この記事のリンク元のAVCC公式ブログに載せておりますのでご参照下さい。
さて、僕の記事は、謎解きではなく、地理にまつわるお話です。
日本テレビさんの頭脳王2018に「地理オリンピック金」の肩書で出場させていただいたこともあり、謎解きだけでなく「地理の人」というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。折角の機会なので、普段なかなかしない地理のお話をしようかなと思います。
その中でも、今回お送りするのは「特定」の話です。
「特定」にもいろいろあるかとは思いますが、ここでは「SNS等の投稿内容から、投稿者の居場所を『特定』すること」について語りたいと思います。
ちょっと物騒ですね。内容はこちら。
目次
1.「特定」の実例 〜特定って意外と簡単なんだよ〜
2.「特定」されないためには 〜今すぐできる防衛術〜
3.「特定」スキルを良い方向で使う 〜聖地巡礼〜
なんでこんな物騒で、言ってしまえばストーカーじみたテーマで語ろうと思ったのか。それにはわけがあります。普段は謎解きばっかりで、なかなか地理っぽい話をする機会がないというのもあるけれど、一番は、読者の皆さん、そしてアナビメンバーにとっても無縁な話ではないからです。
メンバーのTLを追っていると、公開アカウントで、「特定できそうな実況ツイート」をつぶやいている人をを見かけることがあります。アナビの活動の幅が広がり、各メンバーが顔やハンネを出して活動する機会が増えた今だからこそ、気をつけたほうがええんやで!ということを伝えられればなぁ、なんて思ってます(老害並感)。
なんか固くなってしまった。気を取り直して参りましょう。
1.「特定」の実例 〜特定って意外と簡単なんだよ〜
ここでは、ちょっとしたノウハウさえあれば「特定」は簡単にできてしまうということを、実例をもとにお話したいと思います。
※おことわり※
この記事の内容は、あくまで「特定」の危険性を啓発するためのものです。
この記事に書いてあったからと言って、内容を悪用しないでください。
悪用により生じたあらゆる不利益について、筆者は一切責任を負いません。
2018年7月14日。
ナゾトレパーティ の制作が大詰めを迎え、制作チームで会議をしていた日のこと。
作業の合間にTwitterを眺めていて、あるツイートが話題になりました。
我らが松丸くんのツイートです。どこかに旅行に行っている様子。
このツイートを見て、こんな会話が起こりました。
誰か「こんなツイートしてて大丈夫かなぁ。特定されるぞ……。」
ぼく「え、待って、これ特定できそう。」
誰か「え!?」
というわけで、特定が始まりました。発言者が誰だったかは覚えてない…。
(※注:松丸くんにはツイートの引用許可をいただきました。ありがとうございます!)
僕が注目したのは、主に2つ。写真と前後のツイートです。
手がかり1〜写真から読み取れることはないか?〜
早速ですが、きっかけになったツイートを振り返ってみましょう。
このツイートの中で最大の情報源は、2枚目の写真に写り込んだ「標識」
拡大してみましょう。
「歩行者注意」という文章とともに、「?野町」という地名らしきものが読み取れます。1文字目が読み取りにくいけれど、それは特に問題にはなりません。ほかにもいろいろ読み取れる情報をまとめると、こんな感じ。
・「◯野町」という町にいる。
・田舎にいる。
・川があり、橋の上から写真を撮っている。
・おそらく徒歩で移動している。
・青木くんと一緒にいる。
「地名」という大きな手がかりを得たところで、次の手がかりを確認してみましょう。
手がかり2〜前後のツイートから読み取れることはないか?〜
今度は、「特定」の対象ツイートの前後に発せられた情報を確認してみましょう。これによって、おおまかな「絞り込み」ができることになります。
この写真から、2つのことが読み取れます。
・彼らは今、名古屋近辺にいる。
・おそらく近鉄を使って移動している。
実際に「特定」していく
さあ、手がかりがそろいました。ここまでの情報を統合して推理すると、以下のような条件が導き出されます。
・写真は、名古屋近辺の「◯野町」という田舎の町で撮影された。
・彼らは、鉄道(おそらく近鉄)を使って移動している。
・前後のツイートを見る限り、路線バスなどを使って移動した形跡はない。したがって、撮影地は駅から徒歩圏内の地域である可能性が高い。
それでは、この条件に当てはまる場所を探していきましょう。
僕も地理がそこそこ得意だからといって、全国の市町村を暗記してたりするわけがありません。ここで頼りになるのは、Google先生です。
Googleの地理系サービスは、地図のみならず、ストリートビューや航空写真など、めちゃくちゃ充実してます(研究で使ったこともあるくらい)。この文明の利器を使わない手はありません。
Step1.名古屋周辺をアップで見てみる。
まず、大きな手がかりである、名古屋近辺の「◯野町」を探してみましょう。
ありました。三重県の四日市市の西側に「菰野町(こものちょう)」があります。あの標識の読み取りにくかった字も、見返してみれば「菰」っぽく見えるような…。
ほかにも、愛知、岐阜、三重あたりの市町村一覧を見ましたが、名古屋からのアクセスが良い「◯野町」はここくらいしかなさそうです。
Step2.菰野町をアップにして見てみる。
菰野町をアップにして、さらに探索。
菰野町に近鉄が走ってたらなぁ……なんて思いつつアップすると…
ありました。調べてみれば、「近鉄湯の山線」だそう。
だんだん近づいてきた感があります。
あとは、菰野町内の駅の近辺で、橋の上からのどかな風景を撮影できそうな場所を探すだけです。
見たところ、湯の山温泉駅近くには川があります。
チェックしてみましょう。
Step3.航空写真でチェック
※環境によってデフォルトで地図が表示される場合があるみたいです。その場合、地図左下の航空写真ボタンを押してください。
けっこう長閑ですね。では、あの橋の上を見てみるとしましょう。
Step4.ストリートビューで最終確認
Googleの車が全国を走り回って、車窓の景色を集めている「ストリートビュー」
これを使えば、撮影者と同じ目線で最終確認ができます。
あの地図の橋の上にピンを置いて、ストリートビューを表示すると…
特定成功!!!
ツイートにあった写真と見比べてみましょう。
あの「歩行者注意」の看板、写り込んだ建物や川の様子、全てが一致します。
というわけで、この写真の撮影地は、「三重県菰野町 近鉄湯の山線 湯の山温泉駅近くの橋の上」と特定することができました。
ここまでの所要時間、10分未満。
特定した後どうしたか
こうして、twitterの情報から松丸くんたちの居場所を特定できてしまいました。このまま放っておくのもどうかな…と思ったので、松丸くんたち一行に「特定できてしまった」と連絡しておきました。
もちろんびっくりされましたが、その後は時差投稿を心がけるなど、ちょっと気を遣ったみたいです。これにて一件落着。
「特定」は意外と簡単にできてしまう
ここまで書いた実例を見て分かるように、特定をするのに特別な知識は要りません。発信者が出している情報と、検索ツールを使いこなせば、誰だってスピーディーに「特定」ができてしまうのです。
裏を返せば、現代のSNS社会では、誰だって特定されうるという大きなリスクがあるということも分かります。
スピーディーに特定されて、その場所に突撃……なんて事件が起こったらたまったもんじゃありません。
特定を避けるためには、どうすれば良いのでしょうか。
2.「特定」されないためには 〜今すぐできる防衛術〜
今回紹介した実例では、投稿者のツイートとタイムラインを基にして「特定」することができてしまいました。これを防ぐ方法としては、以下のようなものが考えられます。
・時差投稿
撮影直後にアップするのではなく、少し時間をおくなどして、時系列をずらしてしまう。特定は可能だが、時差があるので、現地に赴いたところで本人は居ない。
・地名をぼかす
写真に標識などで地名が写り込んでいる場合、写真編集アプリなどを使ってその部分をぼかす。特定が困難になる。
この2つは、今すぐにでもできる心がけです。この2つをやるだけでも、「特定」する側の難易度はけっこう上がってしまいます。
さらに、今回は使いませんでしたが、写真に自動的に入れ込まれたGPS情報 も危険です。jpeg形式の写真には、EXIF情報といって、画像データだけでなく、画像にまつわるあらゆる情報を記録することができます。スマホで撮影された写真には、位置情報をOFFにしていない限り、EXIF情報としてGPSの緯度経度データが含まれている可能性があります。それを読み取ることで、ピンポイントな特定が可能になってしまいます。実際に過去には、アイドルが自宅を特定された、なんて事件もあったとか……。
twitterなどの大手SNSでは、アップロード時にEXIF情報を自動的に削除してくれるみたいですが、例えばブログにアップしたり、自分のHPにアップしたり、クラウド経由でファイル共有したりするときには、EXIF情報を削除することも考えたほうが良いでしょう。(詳しくは割愛します。いろいろアプリがありますので検索してみてください。)
3.「特定」スキルを良い方向で使う 〜聖地巡礼〜
ここまでは、「特定」の負の側面ばかりをクローズアップしてきました。
でも、この「特定」のスキルも、使い方によっては、楽しみに変えることもできます。
それが、「聖地巡礼」です。
イスラム教徒の方々が一生に一度メッカに行く行事、ではありません。近年人気の、アニメの舞台のモデルになった場所や、映画などの撮影地を探訪する方の「聖地巡礼」です。
僕は趣味が地理と旅行と乗り物とアニメなので、時々聖地巡礼に行くことがあります(最近はアナビで沼津に行くことが一番多い)。
もし自分が行けなくても、聖地を特定してまとめて、ファン同士で情報共有をすることもあります。
一番頑張ったのは、これ。
2015年公開の「ラブライブ! The School Idol Movie」
舞台がニューヨークとのことで、ちょうど公開数ヶ月前に行っていたという土地勘も頼りに、けっこう細かいところまで特定できました。
自分の情報を基にして実際に現地に行ってくださった方から、「行ったよ!」と写真付きで報告をいただいた時は、とても嬉しかったです。
いつかは自分で行きたいなぁ、と思ってるうちにもう3年も経ってしまい、気づけばもう「ラブライブ!サンシャイン!」の劇場版が始まってしまう時期に…。今度の舞台はイタリアということで、土地勘はないけれど公開されたら頑張って特定しようと思ってます。
4.まとめ
「特定」について
・特定は意外と簡単にできてしまうので気をつけよう。
・時差投稿や画像ぼかし、EXIF情報消去などの防衛策を!
・聖地巡礼に「特定」は有用。ストーリーを思い浮かべながら現地歩くの楽しいよ!
「特定」における「地理的な思考」とかいろいろ
このままだと、ただ特定だけして終わってしまうので、ちょっとだけ、今回活用した地理的な思考について書き残しておこうと思います。
特に今回重要だったのは、ある事象を目にしたときに、どれだけ多くの情報を読み取り、考察できるか(裏を返せば、読み取るためのベースとなる地理的な基礎知識)、そして、検索手段の適切な選択(たとえばGoogle Mapの活用など)の2つです。
特に前者。写真からの情報判読は、地理オリンピックでも定番問題です。たとえば、1次試験では、写真の撮影地を地図上に示された4つの点から選ぶ四択問題が出題されたことがあります。そのときには、写真の中から「植生」「天候」「土の色」「地形」といった自然地理学的情報、「人々の様子」「建物の様子」といった人文地理的情報を読み取っていき、それらを満たす地図上の点を選ぶわけです。もちろん試験なので検索はできませんが、与えられた手がかりから情報を読み取り適切に活用する力、というのが試される試験になっています。
地理的思考、というとお固い話になってしまうけれど、日常生活においても、何かを見たときに、どれだけ頭の中で想像できるか、というのは、人生の豊かさに直結する気がします。旅行先で目にしたもの、美術館で見た絵画、量販店で見かけた家具、新聞の一面の見出し……などなど。それらを見かけたときに、バックグラウンドにある知識が多ければ多いほど、いろんなことを想像したり、よりよい選択をできたりするのではないでしょうか。
世の中まだまだ知らないことばかり。事あるごとに、色んな知識を吸収して、頭の中にたくさんの引き出しをつくる、それもまた楽しい。何かを目にしたときに、それをもっと楽しめるように、もっと勉強していきたいと思います。
それでは今回はこのへんで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
5.おまけ
突然ですが問題です。以下のツイートの撮影場所を特定してください。
※前後のツイートはありません。難易度は高めですが、頑張ればこれ1枚から特定できます。
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