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楽曲構造にみるLovelyzの世界

INFINITEを手掛けたWoollimエンターテインメントによる個性の強さと高い舞台パフォーマンス力をほこるLovelyz。名作家ユン・サン率いるユニットOne Peaceの作りだす世界で、私ぱんちゃもデビュー時から大いに楽しませてもらいました。

そんなLovelyzですが、昨年末のFor Youの活動ではこれまでのOne Pieceが活動曲から外れたがらっと雰囲気の異なる楽曲が話題となりました。

初期少女時代やGfriendを彷彿とさせるパワー感が出ている一方で、これまでのLovelyzらしさも残っているのが面白いですね。

ところでいま、「Lovleyzらしさ」と書きましたが、その「らしさ」は一体どのような「中身」になっているのでしょうか。このテキストでは、この点をちょっと掘り下げてみていきたいと思います。

まずこれまでのメインの活動曲4曲を並べてみると、下記の表のような感じに対比できます。

ちょっと書き込みすぎですね^^;以下、これをもとにしつつ説明していきます。

そもそもAh Choo(AC)までとFor You(FY)では作家が違うので、上記以外にも音響的に大きな差異があるのですが、ここで注目したいのは、案外と前3曲の間にも、いろいろな変化が見て取れる点です。ユン・サンによる微細な楽曲制作テクニックが見どころです。

まず1曲目のCandy Jelly Love(CJL)では、電子音ぴこぴこなパフューム的エレクトロポップが印象的です。和声構造としては、第1にAメロとサビ双方で、中間的な存在の「IV」の和音を起点とし、いわば「家」にあたる「I」の和声が出てこない宙ぶらりんな動きが特徴です。この曖昧さを感じさせる和声が、電子音と相まって、得も言われぬ浮遊感を醸し出しています。第2にサビで宙ぶらりんな状態がキープされたまま1音上に転調しているため、これまた得も言われる空間の広がりを感じながら浮遊感を楽しむことができます。


例えば、この<IVを起点としてIが見えない>構造から、<Iが中心となる>構造に変えてこの曲を演奏してみるとどうでしょう…

(上は中心の見えない原曲の和声、下は中心に向かっていく形の和声)

後者になると、原曲の持つ得も言われぬ浮遊感が薄まり、中心へと向かう前向きさと安定感が感じられます。なんとなく「リア充っぽさ」が増す気がするのが面白いですね。逆に、どこか内向きな孤独感を伴ったLovelyzの沼的魅力が減ってしまいます。

さて、これに対してHiでは、電子音よりも生音を強く押し出し、サビで「I」の和音へと「循環」的に向かっていく「ドミナントモーション」と呼ばれる和声テクニックを駆使しています。これによりふわふわと方向性のない存在感から、安定的かつ情感を伴って気持ちがぐいぐい前に進むような、そんな雰囲気が得られています(実は上の「リア充CJL」もこのテクニックを使っています)。

HiにおいてLovelyzは、このサビの和声テクニックをリッチな生音に乗せて駆使することで、クールなエレクトロ少女というイメージから、どこか古式ゆかしい昭和歌謡少女的なイメージへと大きく変化しているように感じられます。
この和声は響きこそ複雑ですが、理論的に言ってかなりオーソドックスです。20世紀初頭のポップスの立役者であるジャズ的な語法にも適合的な和声で、例えば下記のようなスタンダードなジャズアレンジがフィットします。

(例えばこんなスタンダードナンバーに近い和声構造です)

(実はきかんしゃトーマスのテーマソングにかなり似てたりもします^^)


もしCJLでこのようなジャズっぽいアレンジをやったとすると、スタンダードなジャズというより、クラブ系のジャズっぽいポップスという感じになるはずです(もちろんそれはそれでかっこいい)。

他方で、Aメロや転調の構造においてHiはCJL同じ構造を持っており、Lovelyzらしさを共有しているのも見逃せません。
ちなみに、このAメロの「IV」というのは、非常に爽やかで柔らかな感じを出すのに最適な和音で、最近、他のKPOPの楽曲でもよく見かけます。

(OMGはHiと同じでAメロのみ)


ではACではどのような変化を加えているのでしょうか?
まずACでは、HiとCJLと同様にIVを起点とする和声が採用され、Lovelyzとしての一貫性が保たれていますが、Hiで使用された循環的なドミナントモーションの連鎖によってぐいぐいと気持ちが動いていくような感覚が、より高度に展開されるようになっています。つまりHiの流れをより推し進めた感があります(なので、これまたジャズっぽい演奏がフィットします)。

しかし一方で、ACのサビは、このドミナントモーション構造と同時に、CJLのサビと同様の<IVを起点としてIが見えない>構造も併せ持っており、CJL的な行き場のない浮遊感も同時に表現されています。電子音がやや復活している点もCJLとのつながりを感じさせます。

さらにAC独自の展開として、CJLとHiが採用していた一音上げ転調を逆転させて、一音下げ転調にしているのも非常に面白いです。前2曲ではサビで少しだけふわっと浮き上がる少女の気持ちが表現されていたのに対してむしろMVでメンバーがふっと影に隠れてしまうシーンに見られるように、前向きさと戸惑い・逡巡とが入り混じる、より複雑な乙女の心象が表現されているようです。


以上、3曲の展開を通じて、自分たちの世界に閉じこもりながらも、外の大きな世界を夢見る…思春期のなんともいえない「あの感じ」が、楽曲制作テクニックを駆使して、まるで日本の少女漫画のように繊細に展開されていることがわかります。さすがユン・サンという感じです。
(ただ、ACへと至り、全2曲の要素がかなり複雑な形で盛り込まれるようになり、その後の物語の展開が見えづらくなっているようにも感じられます。)


さて、このようにして繊細に作りこまれてきたLovelyzの世界ですが、冒頭で述べたように、4曲目のFor Youでは、転調をなくしサビもこれまで使用してこなかった明快な和声を採用しています。ビートルズの名曲Let it beなどで使用されてきた王道的なサビの和声は、少女漫画的な微細な心の機微よりも、少年漫画のようなより壮大で前向きな「感動」を強調しているようです。

ただ、変化ばかりではなく、AメロのIVに代表されるように、これまでのLovelyzらしさもうまく継承しています。Woollimは、いったんこれまでの流れに区切りをつけ、戦略的になにか今後の布石を打っているのかもしれません。

果たしてWoollimは次にどんな球を用意しているのでしょうか。ますます目が離せなくなってきました。ぜひ期待したいと思います。


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