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ポストEDMの模索?2PM”PROMISE”とJYPのドラムンベース

昨年突如のハウス推しであっといわせたSMエンターテインメント。ポストEDMというかダブステというか、00年代に育まれたデジタルネイティブなダンス・クラブ音楽ではなく、デジタルβ版ともいえる90年代のスタイルを見直す作業が行われている感じなのかなあ?と見ていました。

他方で、BLACK PINKでとりあえず規定路線で走る宣言を出したYGエンタをしり目に見つつ、はて、JYPは?

…というところで今回の2PMのこれ。

ミドルテンポの16ビートと高速8ビートが並走するような緊張感にのせて、エレガントな2コードのループから歌もの的サビへ展開していく(註1)…素敵なドラムンベース歌謡です。元来ドラムンベース(DnB)は浮世から身体を引きはがすような、トレインスポッティング的(幻想へ耽溺する)感性によって生み出された音楽だと思いますが、ここでは徹底的に世俗的情念に転用されているのが面白いです。

90年代中盤、日本でもクラブ音楽が(一部愛好家で?)流行るなか、鳴り物入りで紹介されていたのがドラムンベースでしたね。元はジャングルなどとも呼ばれ、いち早く小室哲哉がダウンタウンの浜ちゃんとのコラボで取り入れていました。当時、「初めてのイギリス発のリズム!」なんて言われていたのが(イギリスのアメリカコンプレックスを感じて)ほほえましいですが、その流行のはしりとして有名なのはこちらでしょうか…


で、2PMの新曲を聴いて、不覚にもJYPが少し前からDnBのリズムでカムバック曲をプッシュしてきたことに気づき、あっそうか!となりました。

もとをただせば2PMのこちらに始まり…

(売れなかったと聞きますが、うちでは大評判だった「お・ま・え・だけ」。このステージなんてもう目化粧ごっつ濃くしながらくねくねしてて最高っす、ほんと。個人的には、Promiseも同じですが、高速モードにいききらずに「高速にいくでいくで!」という緊張感だけでひたすらもたせてるところが大好きです。)

少し間があきますが、MissAのこちらでも使われ…

(サビで一気に単一8ビート感が強くなるけど、テンポがゆったりした部分でハイハットがチキチキしてるあたりにDnB歌謡としての神が宿ってる感じ。悲恋に酔うのではない、あくまでも恋愛の主体としての女性を描いているところが、JYPらしい。男性である2PMが性の客体を演じ切ってる感じなのと対照的。)

大人気となったTWICEのこちらでも登場しました。

(MissAと異なり、むしろRoni Sizeばりの骨太スネアが登場するサビのパターンにDnB的な細部=神を感じる。サナのシャシャシャ(Jぶりっこ)の大活躍もあり、一見MissAと対照的なかわいい系という印象のTWICEですが、歌詞を読んでいると「男性に交渉をしかける主体」として女性を描いている点は実はMissAと同じ。やはりJYPだなあ、という印象。)

ADTOYとOnlyYouの間がだいぶあいていますし、その間、他事務所だってDnBっぽいのを出していたりもするので(註2)、確固たる一つの流れとして感じられるわけでもないのですが、作曲家をこえて登場するカムバック曲のリズムということで、JYPのA&Rがここに一つのキメパターンをもってきているのは確かなんじゃないか、と想像しています。

びきびきのEDMサウンドをトレードマークとして世界に飛び出したともいえるK-POPですが、SMのハウスにしてもJYPのこうした選択にしても、その次の展開を見据えた工夫・苦心のひとつなのだろうなあと感じられます。と、同時にこうやってポップスの歴史というのは、過去を参照しながら系譜として紡がれていくのだなあ、としみじみ思います。

ぴえむさん、早く歌謡番組のステージがみたいですね。


【おまけ:90sドラムンベース振り返り】

いつだったか、なんの曲だったか、最初「最新のダンス音楽ジャングル!」と聞いて、すでにCATV等で何度も見ていたプロディジーのこの曲を思い出した私。

その後、この曲をジャングルの原型と紹介する文章を見たことはついぞありませんでした。なので大いに勘違いの可能性も高いのですが、個人的にはこれをジャングル、DnBの原型として捉えています。ゆったりしたレゲエと高速ブレイクビーツの複合的なリズムの快楽、こそが核であると。

そうこうしているうちにジャングルがDnBと呼ばれるようになり、「いよいよDNBの総本山が来日!」とか「いよいよ新譜!」とか、タワーレコードのBOUNCEで見たりして色々聴いていた90年代後半。DnBのリズムメイク自体の違いとか、上にのっける音の違いで、いろいろとバリエーションがありました。4つほど思い出深いものを張り付けておきます。

(ブラックミュージック玄人向け?という感じの、非常にストイックでクールなDnB。当時はアクセントも単調に感じられて、ひたすらの反復が辛かったのですが、いまとなってみるとこれが一番かっこいい、と思います。大和田俊之さんのいう「反復と制御」を体現しています。)

(イギリス人がこれを?とびっくりした思い出。まさに青い目からみたくーるじゃぱん。DnBの「間」の感覚を見事に日本の時代劇の美意識に投影していて、なるほどと膝を打ちまくって見ていました。)

(当時、ジョン・コルトレーンの「至上の愛」なんかにハマっていたぼくりんとしては、本当に「うぇ~い」となった、アフロフューチャリズム&オーガニック&コズミック趣味全開の曲。本当になんども聴いた曲。Star Chaserという曲も好きでした。)

(さて、ここまでくるともう「クールネス」なんてどこ吹く風。ジャズ、フュージョンにあこがれるこの厨二的ロック少年マインドは、ローリングストーンズにもさかのぼれる戦後英国の系譜を感じます。こういう感じの精神的にパンクな?カッコよさから、最初のRoni Size的なクールなカッコよさへと理解が進んでいくなかで、私の青年時代は終わりを告げたような気がします。)

ところで、当時から私も含め、バンドをやっていた人間は、DnBを生演奏で取り入れようとして、創意工夫を楽しんでいました。個人的にはモードっぽいスタンダード曲をDnBアレンジにするのがお気に入りでよくやっていたのですが、その後、ジャズにせよ、あらたに登場したジャム・バンドというジャンルにしても、DnBは現代的なリズムの定番として定着していったような気がします。昨年見る機会のあった下記のバンドなどは、DnBのみならず、90年代のテクノシーンのメランコリーな空気感をまるごと再現し続けているような感じで興味深いなあと思います。

(こういった「ポストサッチャー期のイギリス中間層白人青年のメランコリー」ともいうべき音を、当時20前後の自分はただただ大好きで接収していましたが、今はむしろRoni Size的な「クールな覚醒の感覚」の方が好きだなあと思うところがあります。私より若いであろう彼らは、どんな気持でこうした音を紡いでいるんだろうか…とEU脱退という状況を思い出しつつ考えたりして…。)


註1:ADTOY以上に「歌謡」を感じさせるのはなんといってもサビの和声。AM7、G#7、C#m7、E7、AM7、G#7、Bm7E7、のコードのうち太字のG#7は、この曲の音階にない音を含んでおり、狂おしいばかりの(不合理な)「辛さ」をより強調している感じで、Bm7やE7は愛しい人との心地よき時間へといざなわれる「甘い欲望」の感覚を強調したりしています。

註2:5人KARAのラストとなったこちらも印象的でした。しかし、DnBは別として、キム・スンス&ハン・ジェホ(Sweetune)の(日本の歌謡曲を思い出す)「過剰なギラギラ感」はほんとにすごいですね。


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