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Kはガラパゴスの夢をみるか?RV「ロシアンルーレット」雑考

RVの新作、なんとも面白く、またアルバムもそれぞれいい曲で、CDかったるぞ!という気持ちになっています。

ミン・ヒジン的な意匠を施したSMのコンテンツには、単にスタイリッシュなアートワークというだけでなく、若さを商品にするアイドル商売への、ひりひりとした(自己言及的な)批評性が含まれていて、それはEXOでは厨二的な形をとったり、RVではキッチュやブラックユーモアの形をとったりします。

特に、「アイドル事務所による若さの搾取」というイメージをユーモアとキッチュさたっぷりに諧謔するビジュアルイメージは、高級な文化を消費しているぞという高揚した気分を与えてくれます。

しかしそれは、アイドル個人に対するリアルな抑圧や搾取を再演しているだけにも見え(実際に、メンバーの逃避・離脱をすらコンテンツ化してしまった)、笑えない、楽しめない要素にもなります。引用元のあからさまさも相まって、ヒジンさんが強く関与したと思われる作品には、どこか居心地の悪さも感じるのも事実です(それゆえに、すごいと思わされる…以下無限ループ)。

さて、そこで今回の作品。


上記のようなことを思いながら、今回のRVの新曲RRをみていて、2つ気になったことがありました。

第1点目は既存の「清純系」といわれるアイドルのイメージからの引用です。SMは、これまで「ほかではやっていないようなこと」に強くこだわる会社でしたが、今回はAPinkのMr.Chuだったり、GFriendの諸作を思い出すようなビジュアル素材をあけすけに採用しています。テニスルックにテニスコート(奇妙にはねるテニスボール!)、体操着に体育館などがそれです(註1)。

ただしそこはヒジンらしく、お互いに陰湿な暴力を仕合う(ときに多人数→一人といういじめ構造すら見える)、なんともいえないダークでキッチュな所作を放り込むことで、最近はやりの清純系アイドルのイメージに対する茶化しや批判を表現しているように見えます。

たしかに、セクシー系に対してApinkが勝利するとみるや、こぞって「清純系」のアイドルグループがデビューしたり、そちらに方向転換するグループが出てきているここ最近の動きは、やや食傷気味…という感もあります。なので、上記のようなブラックユーモアにはちょっとした痛快さを感じます。

しかし同時に、KPOP好きでないとわからないような「リテラシー」を前提とした知的ゲームになっている側面もあり、王者SMらしくないことをやっているなあ、という感じもあります。ガラパゴス化…という言葉が頭に浮かんできます。

これは第2の点、音楽面での特徴につながってきます。

今回の楽曲は、スタイリッシュ映像に比べて、(個人的な感覚で)JPOP的なゆるさを感じました(作曲には当初JPOPで活躍し、徐々にKPOPの作品を増やしてきていて、昨年はソシのPartyが売れたAlbi Albertssonが参加している…註2)。ダムダムや7月7日で、スタイリッシュなアートワークにびったり寄り添うような先鋭的なサウンドが披露されたのに比べて、ややフィット感が弱い感じます。歌詞と映像のズレも同様です。

個人的には、このくらいのズレがあった方が、音をつくる側と絵をつくる側それぞれの想いが独立に伝わってきてうれしい気持ちにもなるのですが、同時に、SMの目指す方向性が見えにくなあという印象もあります。

昨年のSHINeeやf(x)でのハウス路線は、方向性が見定まらない中での苦肉の策、のようなところがあり、すごくいいんだけど…で、次はどうなるのよ?という不安がありました。「ほかにないあたらしい何か」を提示しつつ、それが「これからの王道」のようにみえ、かつ「バカ売れする」というのがSMの面目躍如たるところですが、むしろ、刺激的だけど閉じたなかで安全に楽しめる範囲での良曲という感じもあります。このあたりは、昨年のソシのPartyにもつながってくるとことで、f(x)というよりも、実はポストソシとしてのRVの一側面が出ているのかもしれません。

また、歌声の無個性さも非常に興味を引くところです。もともとビジュアル面での無個性さを特徴とするRVですが、スルギとウェンディというそれぞれ個性をもった強烈な歌うまメンバーにさし色のような歌声のジョイと、非常にカラフルなのが特徴です。しかしこの曲では歌うまをことさらに強調するパートはなく、むしろアイリーンとイェリのやや素朴な歌声がむしろ印象に残るような気もします。「ヘタウマ」的なものがむしろウリになる…ガラパゴス日本風味がうっすらと浮かび上がってきます。

以上、批判ととられそうな書き方になってしまいましたが、それも含めてなかなか楽しいなあというのが今回の印象で、アルバム曲にもそれぞれ面白さを感じますし(註3)、ウェンディやスルギもそちらでは大活躍しています。ぜひCDを買ってブックレットを眺めながら聴きたいなあと思っているところです。ステージもまた印象が変わるので、そこもぜひ楽しみにしたいです。

註1:Mr.ChuのMVを手掛けたdigipediと作風や映像そのものが似ている気もするので、digipedi本人?とも思いますが、未確認です。なお恋愛における女子間の腹の探り合い、足の引っ張り合いというモチーフは、OMGのLiar LiarのMVと同じです(本曲冒頭のLa-La-La-のフレーズがLie-Lie-Lie-と聴こえなくもない?!)。Liar Liarもdigipediなので、単なるアイデアの使いまわしだったら、やや脱力してしまうオチですね。ただ、ミン・ヒジンさんが、OMGに対してどう思っているかはとても気になるところです。個人的には他の清純派アイドルは「氏ね」くらいに思っていても、OMGに対してはすごくライバル意識をもっているんじゃないか、という気がします(そう考えると楽しい)。

註2:彼のプロフィールを日本のコーディネート会社のHPで確認すると、2012年ごろからジャニーズをはじめとするJPOP、そしてKPOPそれぞれに楽曲を提供してきています。彼の楽曲のどこにJポップらしさを感じるのかは、まだ自分でも分析しきれていませんが、少なくとも長調(明るさ)を基盤としながら、そこにオシャレさ(テンションノート)と切なさ(短和音)を、前者があまり突出しないような具合で配合していく、ところにJポップらしさや、近年Kポップにもとめられている要素が含まれているのだろうと考えています。

註3:KENZIEが作詞作編曲を手掛けたSome Loveは、彼女のTOTOへのリスペクトが感じられる良曲です。冒頭、デトロイトテクノのようなスペーシィなサウンドが耳に飛び込んできますが、その後、現代R&B的なセカンドラインのリズムをベースに、TOTOのAfricaの要素がたっぷり展開されていて、とても面白いです。


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