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ギャプラス補講

2024年4月初頭に同人誌『アブノシップ変形完全解明』を発行しました。「アブノシップ」とはナムコ社(現バンダイナムコエンターテインメント社)が1984年4月に発売した『ギャプラス』というゲームに登場する隠し機体の名称です。

アブノシップへ変形するためにはゲーム中にいくつかの条件を揃えなければならないのですが、じつを言うと発売から四半世紀の間、詳細不明でした。『アブノシップ変形完全解明』では、細かい条件を詳述しています。

『アブノシップ変形完全解明』では「アブノシップ」という名称が初出となった資料を探すという追加調査を行ない、その結果と経緯を記載しました。そして、すでに1984年の時点で発行された同人誌『ゲームフリーク』によって「アブノシップ」という名称が公知となっていたことが判りました。

さらなる追加調査

しかし、その後アブノシップという名称は一般的には普及しなかったらしいことも追加調査を行った事で判明しました。そこでナムコゲームの用語が豊富に収録されている『新明解ナム語辞典』をさらに追加調査してみました。本エントリはその結果を補講としてまとめたものになります。

結果から言えば、『新明解ナム語辞典』にはアブノシップという名称は掲載されていませんできた。しかし、「へんしん」の項目には「変身ファイター」という名称が登場していることが確認できました。

ギャプラスのファイターが、おなじみの形から変形すること。変身したファイターは青く、従来の2連射に貫通性のある矢ぶすまミサイルを加えた3連射となる。形状は多少「USSエンタープライズ」に似ている。残りファイターの表示も変身するのは芸が細かいが、クイーンの運んでくる従来のファイターパーツが3つ集まって「変身ファイター」になるのは納得できない。

『新明解ナム語辞典』より引用

『新明解ナム語辞典』はナムコ社が全面協力しているので、アブノシップという用語が掲載されていないのは当時のナムコ社では公式名称ではなかった可能性もあるのですが、社内でも失伝していた可能性も残されています。

『新明解ナム語辞典』にはファンが使っていた用語も豊富に収録されていますから、アブノシップという名称が不掲載であるというのは、それほど一般的には普及していなかった呼称だったことになります。

釈然としないのは、アブノシップという名称は『ゲームフリーク』に掲載されていたはずなのに、ゲームフリークも協力していた『新明解ナム語辞典』で不掲載となっている点です。やはりナムコ社内でも失伝していたのかも知れません。

共通する用語を探る

ギャプラスについて記載されている『ゲームフリーク』は初版発行から僅か2ヵ月で全面改定をしています。改定に当たっては開発者の存在がチラついています。なぜならアブノシップの発射する貫通弾に「槍ぶすま」という名称があることも併記されているからです。

『新明解ナム語辞典』には「槍ぶすま」の項目はありませんが、「へんしん」の項目には「矢ぶすまミサイル」という記載があり、さらに「矢ぶすま」の項目が掲載されています。この「矢ぶすま」という用語に共通性が見られることから、『ゲームフリーク』の改定に当たって開発者が関わった可能性を高めてくれます。

槍なのか矢なのかは表記揺れかもしれませんし、『ゲームフリーク』への記載時にライターがうろ覚えだったなどの要因も考えられますから、誤差だと考えて差し支えはない些細な間違いだと思います。

『新明解ナム語辞典』から「矢ぶすま」の項目を引いてみると、次のように書かれています。著者の西島 孝徳さんは「矢衾」が本来の意味で利用されていない点についても言及しており、文章から研究熱心さが伝わってきます。

ミサイルなどに貫通性があること。本来、「矢ぶすま」とは、「矢がすきまなく一面に飛んでくること、また、刺さること」であり、「矢衾」と書く(「衾」は「夜具、ふとん」のこと)のだが、これを「間仕切り」の「襖」と勘違いし、「矢襖」として「矢がふすまを何枚も突き抜けていく様子」のことだと思いこんでしまったところから生じたものと推察できる。だから、「矢」のあとは漢字を当てず、「矢ぶすま」としなければならない。

『新明解ナム語辞典』より引用

「槍ぶすま」と「矢ぶすま」の類似性については状況証拠に過ぎません。しかし、こうした状況証拠でも多く集めることができれば、実態の解明に繋がると考えています。

ギャプラスに隠しメッセージを仕込んだりしていたメインプログラマの小島 伸一さんは既に故人であり、また開発段階では40年より前の事になるので、新しい情報を得るのは難しい状況ですが、いつの日かアブノシップの全貌が判明することを願っています。

参考文献

(著)西島 孝徳(監)ナムコ『新明解ナム語辞典』日本ソフトバンク、1987年12月1日
(編)ゲームフリーク『ゲームフリーク13号(II) ギャプラス』ゲームフリーク、1984年10月25日

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