『象は忘れない』アガサ・クリスティ

『象は忘れない』

『法月綸太郎の消息』読んでたらこの作品が大きく関わりそうな筋立てだったのでネタバレする前に借りてきて読んでみた。この印象的なタイトルだけは栗本薫の文章で出てきたので中学生くらいから知ってた「私は何でも覚えている、旦那が『君は忘れられなくて可哀想だね』と言う、象は忘れない」こんな内容だったと思う。


1972年の刊行、クリスティー82歳での著作。過去に起きた事件を関係者たちの弁から探っていくスタイルだがその関係者たちってのもいい齢で、みんな平気でくい違うことを言い、時系列や人の名前を飛ばしたりしながら「わたしほどよく憶えてる人はいませんよ!」なんて言う。その記憶のありようがなんか愛おしい。『法月〜』作中では「若い頃読んだときには冗長でわけがわからずさすがのクリスティーも筆が鈍ったかと思ったが、今読むとまったく印象が違いこの『象』たちの証言がむしろ読ませどころ」とあってまさにこの通り。クリスティーは後半生30年をこういった、過去の事件の紐解きというテーマに捧げたという。


作中、かつての乳母が惨めな生活をしながら、世話してきた子供達の写真に埋もれてなんとか幸せに暮らしているのに胸がぎゅっとなった。自分が齢とってきた今、あやふやになる記憶とならない記憶、大切なものの記憶、それすらほんとじゃないかもしれない記憶を後生大事に抱えていきたいなあ、などと思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?