見出し画像

【本】湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(2019-06-13 組合機関紙)

 著者の湯浅誠は、豊かな社会から外れ貧困に陥ってしまった人々の支援をライフワークとする社会活動家。「派遣切り」が社会問題となった2008年の年末、失業者らを救う「年越し派遣村」を開いたことで著名となった。翌年鳩山政権において内閣府参与となる。

 本書が書かれた2012年は、社会の問題を「自己責任」という言葉で弱者自身のせいにし、その一方で“正義”を夢見させる強力な指導者を求める風潮が漂っていた。それに警鐘を鳴らし、単なる多数決でない民主主義を見つめ直そうとするのが本書だ。

 著者の生き様が示すように、社会の課題は、地道な調整や合意形成、行動を、自分たちが重ねていかなければ改善しない。それは、行政の現場で働く私たちがまさに感じていることだ。

 本来は、公務員だけでなく世の中の普通の人々も、自分の感じる社会の課題に取り組むことができる。しかし人々からそれを行える柔軟性や創造性、「生きる余裕」が失われているからこそ、“正義”を振りかざす指導者に“世直し”を委ねたくなってしまうと著者は読む。

 社会問題の現場で尽力する著者だからこそ語れる、リアルな民主主義の作り方。政治は画面の向こうではなく、私たちの街の中にある。

(朝日新聞出版、2012年、1,300円+税)


【紙面】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?