角尾 舞 | Mai Tsunoo

デザインを伝える仕事をしています。ライターをしたり、キュレーターをしたり。いろいろな街の美術館や蒸溜所をたずね歩くのがライフワークです。フットワークが軽いです。Photo by Harumi Shimizu http://www.ocojo.jp

喫茶店の味噌汁

事務所から遠くないオーセンティックな喫茶店のメニューをみたら、お酒の名前の並びに「ハンバーグ定食」と書いてあったので、一人で入ってみた。「食事だけでもよいですか」と聞いてみたら、快く通してくれた。

テーブルにはガラスの灰皿が1つずつ置かれている。年の離れた男女が先客にいて、初老の男性はタバコを吸いながら、ウイスキーらしきものを飲んでいた。女性に煙がかからないように、灰皿を椅子に降ろして、顔を傾け

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深夜の深呼吸

渋谷橋の近くの店のテラス席で人を待っていた。「おまたせしました」と出てきたカフェラテのハートは下手くそだった。iPhoneを見るでもなく、本を読むでもなく、ただガラス越しの店内の、ゆれるロウソクの炎を眺めていた。

仕事をするか美術館に行くかしか日常の選択肢はなく、趣味も、ましてや特技なんて一つもなくて、仕事の付き合いも友人関係も恋愛も下手くそなまま気づけば30歳を超えていて、それでも毎日、打ち合

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あいまいな輪郭 「Contour: 14th Apr.」

ミラノデザインウィーク最終日の4月14日。仕事も大方終えて、賑やかすぎる街にも退屈を覚えはじめたので、ある写真家と、ミラノ市内から日帰りの旅をした。本人は、肩書きはなんでもいいと言っているけれど、写真を撮る人であることに変わりない。
ミラノで再会するまで彼のことはよく知らないままだったけれど、様々な街の姿を見つける彼のふるまいに興味を覚え、それ自体を記録したい衝動にかられた。ここにあるのはいわば、

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ことばのすきま風

「全てを言語化できるわけじゃない」と、デザイナーやアーティストはよく言う。わたしも、そう思う。書いて伝える仕事をしているけれど、作品やアイデアのすべてを言葉にできるなんて、そんなおこがましいこと、考えたこともない。

そもそも、多くの形状や色に理由があるのは、そこに理由が必要だと、デザイナーが考えるからだ。それが正しいことなのか、幸せなことなのか、わたしにはわからない。

ことばにするために、世の

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自分へのインタビュー

Q.「仕事を一言で表すと?」

わたしはときどき、自分にもインタビューする。

ライターという仕事柄、さまざまな人への取材を毎週しているのだけれど、自分がした質問に、聞いた自分は上手く答えられるだろうか?と、よく不安になる。

「次に目指すことはなんですか?」
「これまでの人生で、転機はありますか?」
「忘れられない経験は、ありますか?」

とても難しい質問だと思う。答えてもらうたびに、内

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右手の薬指の指輪

少し前のことだけれども、夫が結婚指輪をなくした。悲痛な声で謝られたけれども、案外なにも思わなかった。有り体にいえば、モノはモノでしかない。

しかし、わたしの手元に残った片割れは、所在無げな、ただの指輪になってしまった。対で存在することで、ようやく意味が生まれていたのを、それで初めて知った。案外、ナットとボルトのような関係だったのだ。

その指輪は、左手の薬指以外にするには、あまりに野暮ったい

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