街と運河と妄想と
僕が泊まったホテルから、歩いてちょっと行った所に、サン・マルタン運河がありました。
この運河は、映画『アメリ』にも出て来る運河で、それを見ながら散策するのが、僕の日課の一つでした。
だけど、昼間は観光客でいっぱいなので、僕がここを歩くのは、夜が明けて間もない、明け方の時間なのでした。
だからと言って、僕は決して人間嫌いではないのですが、幼い頃から大勢よりも、一人の方が妙に落ち着く性分でして。
アメリのように、人付き合いが苦手なので、いつも一人で行動したり、妄想をするのが大好きな、そんな人間なのでした。
(と言っても、個展の会場やお店では、人と明るく接しましたし、今現在は、どこへ行くのも、妻と一緒に行動しますが)
この日もちょうど、一人きりで運河沿いを歩いていると、石畳の舗道には、色付いた街路樹の葉がたくさん落ちていました。
そして、道を隔てた向こうの通りには、色とりどりの可愛いお店のファサードが、曇り空の運河の街に彩りを添えていました。
しかも運河は、外国のおとぎ話に出て来そうな美しい鏡のように、水をたたえて、お店や建物を静かに映していたのです。
パリの曇り空の下、一人きりでそこにいると、あたかも、街の全てを独り占めしたような、そんな気分にもなるのです。
そんな風景を立ち止まって見ていたら、僕の中の乙女チックな妄想が、アメリのように、それこそどんどん膨らんで…。
そんな僕の乙女チックな妄想を、上の写真にコラージュをして表現すると、☟こんな感じになるでしょうか。
それから僕は、道端に落ちていた小石を拾って、アメリのように、サン・マルタン運河の水面に投げました。
けれども小石は、跳ねることなく、チャポンと鈍い音を立て、そのまま水底へ沈んでしまいましたが…。
明け方の運河の街でただ一人、夢から覚めても、再び夢を見るように、歩き始める僕なのでした。
明け方の運河の街(サン・マルタン)に独りゐて妄想を抱く乙女(アメリ)のやうに 星川孝
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