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千代紙と少女

陽の当たらないお店の棚のその奥に、その千代紙はありました。

その場所は、お店の灯りもほとんど届かず、その千代紙は、いつも淋しそうでした。

その上、自分はなんてちっぽけで、薄っぺらい存在だろうと、独りで嘆いていたのです。

それを見ながらおじさんは、優しく声をかけるのですが、その千代紙は、聞く耳を持たず、ますます引きこもるばかりです。

そんなある日のことでした。お店に、三つ編みをした可愛い少女がやって来ました。

少女は、お店の中を散策しながら、棚の奥にあるその千代紙を見つけると、一目で好きになりました。

「おじさん、これちょうだい。私、この子が気に入ったわ」

少女は、おじさんにそう言いました。そして、それを聞いたおじさんは、微笑みながら、こう言いました。

「ありがとう。この子もきっと、あなたのことが、とても好きになりますよ」

やがて少女は、千代紙を連れて家に帰ると、その千代紙を使って、あっと言う間に、綺麗な折り鶴を折りました。

そして、亡くなった母の形見である鏡台の上に、母から教わったその折り鶴を、優しくそっと置きました。

すると、どうでしょう!鏡の中には、薄っぺらい千代紙ではなく、美しい鶴がいるではありませんか!

千代紙は、見事に変身した自分の姿に驚きながら、嬉しくて、天にも昇る気分でした。

ふと見上げると、窓の外には、おじさんの優しい笑顔と、まあるく明るい満月が、ぽっかり浮かんでいたのです。

もちろん、少女が見上げた夜空にも、お母さんの優しい笑顔と満月が浮かんでいたのは、今更言うまでもありません。

夜空に浮かぶ明るい満月に照らされながら、千代紙と少女は、夜更けまで、楽しく語り合いました。


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