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dBm→dBuV/m変換式と導出

一般に、スペアナは電力の単位として[dBm]が初期設定されています。しかし、EMC試験の輻射エミッションでは電界強度のデシベル値[dBuV/m]に換算する必要がある場合があります。

本記事では、アンテナファクタ(アンテナ係数)を用いて[dBm]→[dBuV/m]に変換する式とその導出方法について解説します。

dBm→dBuV/m変換式

$${\text{[dBm]} \rightarrow \text{[dBuV/m]}}$$変換は、受信電界強度$${E_r \ \text{[dBuV/m]}}$$, 受信電力$${P_r \ \text{[dBm]}}$$およびアンテナファクタ$${A_f \ \text{[dB/m]}}$$を用いて、以下の式で与えられる。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=P_r \ \text{[dBm]}+A_f \ \text{[dB/m]} +107
$$

実際にはケーブル損失$${\text{Loss} \ \text{[dB]}}$$とアンプ増幅分$${G \ \text{[dB]}}$$が加わり以下の式となる。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=P_r \ \text{[dBm]}+A_f \ \text{[dB/m]} +\text{Loss} \ \text{[dB]}-G\text{[dB]}+107\text{dB}
$$

なお、スペアナの単位が[dBuV]の時は、さらに簡略化され、以下の式となる。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=P_r \ \text{[dBuV]}+A_f \ \text{[dB/m]} +\text{Loss} \ \text{[dB]}-G_a\text{[dB]}
$$

以下の章で、この変換式の導出方法を示す。

導出

[dBm]→[dBuV/m] 変換式は、図に示すととてもシンプルに導出できる。

まず、アンテナファクタは、アンテナが受ける受信電界強度$${E_r \ \text{[V/m]}}$$とアンテナが出力する電圧$${V_r \ \text{[V]}}$$の関係を示す係数であり、以下の式で表される。

$$
A_f=\frac{E_r}{V_r} \quad \text{[1/m]}
$$

ここで、スペアナの受信電力とアンテナの受信電界強度の関係を下図に表す。

電界強度と受信電力

図に示すように受信有効電力$${P_r \ \text{[W]} }$$は、受信電界強度$${E_r\ \text{[V/m]}}$$, アンテナファクタ$${A_f \ \text{[1/m]}}$$, 受信電圧$${V_r \ \text{[V]} }$$, システムインピーダンス(特性インピーダンス)$${Z_0=50\Omega}$$を用いて以下の式となる。
ただし、$${E_r}$$, $${V_r}$$は実効値であることに留意。

$$
P_r=\frac{{V_r}^2}{Z_0}=\frac{{E_r}^2}{Z_0 {A_f}^2} \quad \text{[W]}
$$

したがって、受信電界強度は以下の式で表される。

$$
E_r=A_f\sqrt{P_r Z_0} \quad \text{[V/m]}
$$

この式をデシベル値に変換すると、$${\text{[dBm]} \rightarrow \text{[dBuV/m]}}$$変換式が、以下の通り導出される。

$$
20\log_{10}{\frac{E_r}{1\text{uV}}}=20\log_{10}A_f+10\log_{10}{\frac{P_r}{1\text{mW}}}+10\log_{10}{(50\Omega)}
$$

したがって、

$$
\begin{align*}
E_r \ \text{[dBuV/m]}&=120-30+17+P_r \ \text{[dBm]} + A_f \ \text{[dB/m]} \\ \quad \\
&=P_r \ \text{[dBm]}+A_f \ \text{[dB/m]} +107
\end{align*}
$$

ここで、スペアナの値が[dBuV]である時を考える。
スペアナは受信電圧値を$${V_r \ \text{[dBuV]}}$$で表示しているだけであるので、アンテナファクタの式から、受信電界強度との関係式は以下の通りとなる。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=V_r \ \text{[dBuV]}+A_f \ \text{[dB/m]}
$$

次に、実際の測定環境を考えてみよう。
実際にはアンテナとスペアナ間にケーブルがあり、そのケーブルにはロスが発生する。また、受信信号が小さい場合などにはアンプにより信号を増幅してスペアナに入力する。
そのケーブルロスとアンプを考慮した測定系を以下の図に示す。

ケーブルロスとアンプ

ケーブルロス($${\text{Loss}}$$)とアンプのゲイン$${G}$$を考慮したときの受信電力$${P_r \ \text{[W]}}$$の式は以下の通りとなる。

$$
P_r=\frac{{V_r}^2}{Z_0}=\frac{{E_r}^2}{Z_0 {A_f}^2}\cdot\frac{1}{\text{Loss}}\cdot G \quad \text{[W]}
$$

先ほどと同様の手順でデシベル値に変換すると、以下の式が導出される。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=P_r \ \text{[dBm]} + A_f \ \text{[dB/m]} +\text{Loss [dB]}-G \ \text{[dB]} +107\text{dB}
$$

また、スペアナの測定値の単位が[dBuV]であるとき、以下の式となる。

$$
E_r \ \text{[dBuV/m]}=V_r \ \text{[dBuV]} + A_f \ \text{[dB/m]} +\text{Loss [dB]}-G \ \text{[dB]}
$$

以上で、[dBm]→[dBuV/m]変換式を導出できた。


参考文献

https://www.emc-ohtama.jp/emc/doc/013_emc_reference.pdf

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