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「福岡大学2012JAPAN」~2012/12公開記事(新体操研究所)

「独自性」

明日の「井原フェスティバル」に、福岡大学の団体も出場すると聞いて、行こうかどうか直前まで悩んだ。いったんはあきらめたのに、この記事を書くために、動画を見直したり、写真を見ているうちに、やっぱり行くしかない! という気持ちになり、夜行バスを衝動的に予約しそうにもなった。(なんとか思いとどまったが)

そんなにも、今回の福岡大学団体の演技をもう一度、見たい! と思うのは、もちろん、素敵な演技であり作品だから。

しかし、もう1つの理由は、このチームは、選手登録されている8人のうち4人が4年生だからだ。
個人の選手も、4年生は卒業と同時に新体操から離れる選手も多いが、それでも、個人は社会人で続けてくれる可能性もある。いったんは辞めても復帰してくれることもままある。
だが、団体は…。

大学時代と同じメンバーで社会人になってもやる、ということはまず考えられない。

だから、おそらくもう最後になってしまうだろう、今の福岡大学のメンバーによるあの団体演技を、もう一度見たかった! 見ておきたかった!

今年の福岡大学団体は、そう思わせるチームだった。

今の4年生(木原正憲・栄永成晃・中村優太・丸山力)が、福岡大学に入学する前年・2008年には、福岡大学の団体はインカレに出場していない。その年のインカレのプログラムの福岡大学の紹介のページには個人選手3名の名前のみが掲載されている。

現在、インカレの団体は青森大学が11連覇中だが、その前に優勝しているのは福岡大学なのだ。2000年、2001年と福岡大学が連覇しており、2002年から青森大学の連覇が始まっている。
そして、福岡大学は、2008年には団体も組めない状況にまで追い込まれていた。

そんな状態の福岡大学を、進学先に選んだ今の4年生達。
今年のこのチームは、間違いなく、彼らの4年間の集大成だった。

彼らが1年生だった2009年のジャパン。まだ男子新体操を見始めたばかりだったころの私のメモには、「はじめと終わりの動きがすごくかっこいい! 倒立とびにびっくり!」と書いてある。

ああ。
そうだった。
このころの福岡大学は、1年生が多かったため、とても華奢でおしゃれな印象のチームだった。「あらまあ、ジャニーズみたいにかっこいいチーム!」と思ったのを覚えている。
そして、当時は他にやっているチームのいなかった倒立してのジャンプが、私の目には新鮮に映ったのだった。

2010年、青森で行われたインカレでの福岡大学については、「シャープでクール。個性的な作品。3バックの入りが、ひとりだけ違う方向から入る工夫がされている。演技冒頭の動きがすごくいい。」とメモしている。

同年のジャパンでは、「鹿倒立で倒れる向きを変えたり、ふわっとゆっくりした脚を前に出す動きなど工夫されている。最後の組みのあとのラストへの動きがかっこよすぎる。振付、構成はかなりいい。」とある。このときの決勝での得点が、18.925。 なかなか届かない19点に、あとほんの一歩のところまできた。

そして、2011年の西日本インカレで、今でも語り継がれる名作「ほたる」が演じられる。(今年のジャパンで一千会が踊ったあの作品だ)
Youtubeでもかなり話題になり、「今年の福大は強い!」と評価も上々だった。

しかし、インカレでは、予選・決勝通して大きなミスはなかったものの、私のメモにも、「ムダ足?」「脚のゆるみ」「鹿倒立、すこし乱れたが持ちこたえた」「足元がふらついた」などの記述が残っているとおり、万全の演技ではなかった。

その結果、得点も予選18.750、決勝18.650となり、この年は、優勝した青森大学、以下、国士舘大学、花園大学といずれも素晴らしい演技で19点台にのったため、インカレでは、水を開けられての4位にあまんじることになる。

さらに、2011年のジャパンでは、予選で組み技に大きなミスが出て、18.050。
まさかの予選落ちを経験する。

西日本インカレで上々の滑り出しだった2011年は、終わってみれば「しりつぼみ」の年になってしまった。

そんな状態で、彼らは「学生最後の年」を迎えることになったのだ。

2012年。
西日本インカレでの福岡大学の団体は、とても評判がよかった。演技冒頭の時計が時を刻むような音が印象的な作品で実施も伴い、19点台をマーク。

さらに、インカレの予選ではほぼノーミス演技で、18.925。
決勝では、バランスで1人、少し揺れたようにも見えたが、19.025。
ついに、国士舘を下し、3位入賞を果たした。

しかも。
このときの演技は、「どのチームよりも思いが伝わってきた。」「一番泣けた。」など、観客のウケがとてもよかった。
2011年西日本インカレの「ほたる」で、高く評価された「福大の表現力」の真骨頂を見せた演技となった。

そして、2012年11月17日。
ジャパン予選での福岡大学の演技は、素晴らしかった。
いや、じつは倒立で2人が少し動いたと思う。
それはおそらく「残念」なことだったが、そんなことはどうでもよい!
と思わせる演技だった。

とくに上下肢運動の後のスローパートは、まさに福大ならでは味わいがあり、胸に迫るものがあった。

おそらく、決勝進出には十分な出来だったにもかかわらず、この演技終了後、選手たちは、長い長いお辞儀をしていた。まるで、「これが最後」のようなお辞儀だった。

まだ「最後」ではないが、彼らの長いお辞儀を見ていたら、それだけの思いのこもった演技だったんだろう、と思った。おそらく毎回、「これが最後」くらいの気持ちで、彼らは演じているのだな、と感じた。

得点は、19.050。
現在の4年生が、福岡大学に入ってから、ジャパンでは初の19点台だった。
そして、予選順位では、青森大学、花園大学、井原高校に次いで4位につけた。

翌日の決勝では、鹿倒立でミスがあった。
あとは、素晴らしい演技で、なんと鹿倒立のミスがあったにもかかわらず19.050を出した。結果論だが、じゃあ、ミスがなかったら? 2位には十分なれただろうし、王者・青森大学をもっと追いつめることができたはず、な得点であり評価だった。

結果、2012年ジャパンでの福岡大学の順位は、4位だった。

でも、これは値千金の4位と言っていいだろう。
ミスすれば、点数は下がる、順位も下がる。それがスポーツだ。

しかし、観客の心に残るかどうかは、結果とはまた別モノだ。

2012年の福岡大学の団体は、西日本インカレ、インカレ、そしてジャパンと、すべての大会で、観客の心に残る演技をした。そのことに意味がある。

この4年間の福岡大学団体に関するメモを、改めて見直してみると、常にそこには「他とは違うなにか」があったことに気づかされた。

団体を組めない人数しかいなかった「かつての強豪校」にあえて進学したような選手達なのだ。きっとはなから「どこぞの強豪チームのような」演技をする気などなかったのだな、と思う。たとえ、そのほうが勝利には近道だったとしても。

彼らは、「自分たちの新体操」をやりたくて、おそらく福岡大学を選んだ。当時は弱体化していたが、もしかしたら、そのことにも、「自分達で一からやれる」魅力を感じての選択だったのではないかと思う。
もちろん、勝ちたい気持ちもあっただろうが、それが一番の目的なら、この選択はしなかっただろう。

彼らは紆余曲折を経て、「今年の福大」になった。

どのチームよりも、音楽を自分達のものにし、微妙な動きでも、指先の開き方までそろい、表情も揃い(ジャパンでは髪型もどことなく揃っていたような)、そして、ストーリーを紡ぐように3分間の演技をする。

言ってしまえば、「表現力の豊かな演技」なのだが、その表現力が、自分達で培ったもの、と感じられるのは、福大の独自性ゆえんだ。

いくら素敵な振付でも、どこかから与えられたもの、ではこうはいかない。自分達で、曲を聴き、感じ、イメージを膨らませて、それを共有することにおそらく膨大な時間をかけているからこそ生まれる一体感がそこにある。3分間、彼らは彼らの世界の中で生きている、呼吸しているように見える。
だからこそ、見ている側は、無理なく、彼らの描く世界に引き込まれるのだ。

彼らは、4年間かけてこんなチームに育ってきた。

明日の井原フェスティバルで、彼らの演技を見ることができる人達は、本当に幸運だ。

できることなら私も、もう一度くらいはどこかで、彼らのあの演技を、見たいものだと願っている。
<「新体操研究所」Back Number>2012.12.2.

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。