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2011全日本インカレ男子個人TOP3

●優勝:菅 正樹(花園大学2年)

公式練習でも、菅の動きは目立っていた。このときは、主にロープとリングを練習していたが、どちらも「見せ方がうまくなったなあ」と感じられるものがあったのだ。彼のロープは昨年もかなり好きな演技だったのだが、さらに磨きがかかったように練習でも見えた。大きな変更はしていないのだろうが、細かい部分での見せ方がより洗練されてきてぞくぞくっとさせるものがあったのだ。リングではリズミカルなステップを何度も確認するように動いていて、じつに「踊ってる」感がある。「かなり期待できるのでは?」と、公式練習を見ている段階で、そう感じた。

果たして2日間の競技を終えてみると、菅正樹は、頂上にいた。
4種目合計37.825。2位の福士との差はわずかに0.050。
そんな死闘を、彼はじつに軽やかに、そして華やかに乗り越えた。聞いてみるとスティックは、新しい作品だがほかの3種目はとくに去年とは変えていないのだそうだ。今大会で菅が最初に演じたのは、その新作演技・スティックだった。そして、このスティックのインパクトが大きかった。彼のもつ動きの緩急のよさ、速いスピードからびしっと止まるときのキレのよさなどが存分に生かされたスティックの演技は、たしかに会場の息をのませた。今にして思えば、あのとき、「今年は菅かもしれない」という空気が生まれていたように思う。

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本来は、西日本インカレに向けて準備してきた新しい演技だが、調整が間に合わず、今回が初披露になったと菅は言っていたが、完成に時間がかかっただけのことはある。昨年のインカレでは、菅正樹は10位だった。それがここまで急成長するとは! しかし、彼のスティックの演技には、その成長を認めさせるだけの力が、たしかにあった。

昨年のインカレ優勝者・大舌恭平(青森大学)は4年生だったが、その前の2年間は北村将嗣(花園大学)が制している。北村が大学2年と3年のときだ。さらにさかのぼると、谷本竜也(花園大学)は大学1年でインカレチャンピオンになっている。
菅 正樹。花園大学が再び生んだ、「若きチャンピオン」に拍手をおくりたい。


●準優勝:福士祐介(青森大学4年)

東日本インカレの優勝者である福士祐介が、全日本インカレでは2位になった。優勝ではなかったことは残念だろうとは思うが、今回の福士の2位のもつ意味は、彼の人生において大きいに違いない。
優勝はしたが、どこか「出しきれていなかった」東日本のときと違って、今回の福士は、4種目しっかり、自分の持てるものを出し切ったと思う。福士はもともとミスは少ない選手だ。だから、「ノーミス」自体は珍しくない。ノーミスでなおかつ、自分の思い描いているような大きさや、美しさで演じきれているかどうか、そこが重要なのだ。とくに大きさ。これはそのときの精神状態でかなり違ってくる。福士の演技は、基本的に美しく、破たんはない。それだけに、気持ちが委縮しているとどうしても縮こまったような演技になってしまう。そうなってしまえば、昨年来、懸命に磨いてきた「表現力」も埋もれてしまうのだ。思えば、東日本での演技はそういう印象だったように思う。

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いや、もちろん本番の演技を見ている分には、あれだけのハイリスクな演技をノーミスできちんとまとめるだけでも、すごい! と思えるし、会場も沸く。しかし、練習で見る福士祐介はもっとすごいのだ。7月に青森で練習を見たとき、そこにはほとんどの通しをノーミスで、それもすさまじい迫力で通す福士がいた。これが彼本来の力なのか。そう思ったときに、試合で見せている彼の演技は、もう一歩突き抜けていないのだな、と改めて私は知ったのだ。7月の時点で、福士の演技には、私などが突っ込めるところはなかった。アドバイスなどできるはずもない。「このままの演技を本番でもやれるといいね」としか言えなかった。彼はひたすら、「本番で自分の力を出し切ること」だけを目指して、日々練習を重ねてきた。

そして、このインカレでそれは実現できた。どの種目もすばらしかった。堂々と、大きく、強く、そして美しく。高い技術を見せながらも、自分の世界をしっかりと描いていた。最後のインカレで、福士は、「弱い自分」との勝負には完勝した。それは、なによりも価値のある勝利だ。


●3位:野口勝弘(花園大学4年)

公式練習は、自分の曲が流れている選手が、フロアをメインで使う権利を有するようだが、同時にほかの選手もフロアの上にいて動いている。周囲を気にせずに練習するのは難しいし、ある程度は気にしていなければ事故にもなりかねない。だから、公式練習で自分の練習に没頭するのは案外難しそうに見える。
しかし、3日の公式練習での野口は、じつに自分の練習に集中していた。野口の演技は、かなりドラマチックだ。そのドラマチックな世界に彼は、公式練習でもしっかり入り込んでいた。そして、なんと言ってもスピードのある手具操作。その2点が、公式練習中にも目についていた。

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1種目目のリングでは、入りの王子風ポーズ(そう見えた!)から、いきなり強く動き始め、メリハリのあるすばらしい演技だったが、なんと途中で曲が止まるトラブル。最後まで集中を切らさずに曲なしで踊りきれたのは、練習のときに見えた入り込む力あってこそと感じられた。
リングでのうっぷんをはらすようにスティックでは、「芝居を演じきる」かのような華麗な演技を見せ、9.400。昨年までは「巧いけれど、地味」に見えていた野口の変身ぶりには息をのむばかりだった。
やや大仰にも見える振りも、彼の柔軟性と演技力のおかげで、とてもスムーズに見えて不自然さはない。残る1試合、オールジャパンでも華麗な演技を見せてくれるに違いない。

<「新体操研究所」Back Number> PHOTO by 村岡美穂

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