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夫が育休をとり、妻が先に復帰する「しんどくない子育て」の実践報告(2)

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3. 育休を取るべき期間の検討

夫が育休に入ったのは、娘が生まれてから1ヶ月後である。これはなぜかというと、出産予定日からと計画していたからで、娘は出産予定日より1ヶ月早く生まれてきてしまったのだった。女性の産休・育休は、出産予定日の6週間前からというのが一般的だが、男性のばあい「産休」という制度はないので、出産予定日が起算日になった。結局早く生まれてしまったからといって、引き継ぎ業務があったので、前倒しで育休を取ることはできなかった。

3.1 「1週間の育休」は誰のため?

どこかの大手企業が、男性育休を義務づけるというのでニュースを見に行ったら「5日間」と書いてあって愕然としたが、この土日を含めた「1週間」は、おそらく(本人が中心となって)フォローできる程度の期間として設定されているのだろう。引き継ぎとか、補充の人員とかがなくて済むように。それ以上取ろうとすると、大がかりになるから、という設定。

しかしこれ、いつ取る設定なんだろうか。そもそも産んだ方は出産後5~8日は入院しているから(私は帝王切開だったので8日コース)出産直後に男性が育休を取れたところでやることはあまりない。では、いつ取るのが良いのか。1週間じゃなくて1ヶ月とか、3ヶ月とか取ろうとする人にも参考になるだろう情報を以下に記していこう。

第二子、第三子のばあいは、産後入院中、ママが家にいないのをパパが埋めるというのが有効であろう。では第一子のばあいはどうすべきか。ちなみに里帰り出産をしないケースで考えているが、結局里帰り出産はひとつの選択肢なのではないかと思うようにはなった。ただし実家との関係次第ではあるのだが。

さて、第一子のばあい、退院してきてからすぐは、ママとしても未熟なので、未熟なパパがいたとしても割と足手まといなのだ。経験してみて本などが出ているのに納得したのだが、産んですぐの期間は、確かに新米ママはしんどいのだ。だから、全般的に信頼できる人に全部任せて寝ているのが正解だと思った。パパが貴重な育休をとってくれても、それを見ていられないといってママが起き出していろいろやる羽目になるのであれば、いっそ会社に行っててくれた方がいいかもしれない。そもそも日本の男児は、家事ができない人が未だに多い。また、自分はできると思っている人でも、妻と宗派が違う、つまり求めるクオリティが違うことがままある。そのうえ、大家族で育つ人が減っている今、男女ともに赤ん坊の世話の経験は持っていない人がほとんどだろう。

新米ママは、赤ん坊と自分だけにされるのもかなりキツイし、すべての事象が初めてだらけなので、パパ育休だ! といっても不慣れな2人での世話は「しんどい」だろう。だから里帰り出産が推奨されるのだな、と里帰り出産しなかった自分も思った。

しかし、里帰り出産をしてしまうと、新米パパはすべての蚊帳の外になってしまう。うちは夫の育休ありきで考えて、最初の数週間は実家にいても良かったのかもなと思ったけれど、共働きでなんとかしていこうとしているときに、実家頼みの割合が増えるのはあまりいことではない気がする。

それでも推進される「せめて5日間」の「男性育休」の正体は何かというと、1週間というのは何もかも「戦力」になるとは捉えられていない人の「共感」のための期間だろう。であるとすれば、パパのためのお休みだ。ママのしんどさを軽減する効果は大してない。たぶん、がんばってくれても、ありがたみが感じられる時期ではないのだ。最悪なケースを想定すると、もし夜もろくに眠れずに子育てに奮闘してるとしたら、その頃は何もかもがしんどいために、人に感謝するなんて余裕はないかもしれない、というかおそらく、ない。第二子以降なら、ママが司令塔になれるかもしれないが、第一子だともう、わけがわからんのである。

それでも5日間の男性育休の義務化は「画期的」と言うべきと先輩男性研究者(未婚)に言われた。ーーそうですね。共感をもらうことは大事だ。だから「ないよりはまし」ってとこは賛成しますよ。でも残念ながら、それ以上でも以下でもない。私の意見を言わせてもらえば1週間なんてほとんど「意味がない」。子育てのしんどさを軽減する効果はほとんど期待できないうえに、1週間休んだパパは仕事を挽回するべく前後は残業で帰りが遅くなるし、その期間ではたいした技術も身につかないのだから。1週間を目標に設定したり、1週間取ったことを数値として成果のように出してきたりする政府とか、「家庭での男の存在感を忘れさせない」ためだけの施策にだまされてはいけない、と思う。

3.2 最初の1ヶ月:産褥期

さて、この出産から1ヶ月くらいの時期を「産褥期」というが、産んだあとの体はけっこうきつい。ホルモンバランスは整ってないし、ふくれた子宮と骨盤は元に戻ろうとするし(産んだら一瞬でしぼむわけではない)、1ヶ月間ずっと生理みたいな状態である。この時期に無理をするとずっと響くというので、上げ膳据え膳で過ごせと言われる。それでいて24時間体制で乳はあげなきゃいけない(無理ゲーでしょ)。乳をあげるということは、食生活は乱れてはいけない。すぐ貧血になる。赤ん坊の状態が悪いと、母体の健康状態を疑われる。そもそも新生児(生まれて1ヶ月間の呼称)は、フニャフニャで、抱っこの仕方もむずかしく、ちゃんと見張ってないと、毛布とかで窒息して死ぬ生き物だ。最初の数週間は、息をしているか何度も確認してしまった。

しんどくない子育てエキスパートとしては、「ドーラ」など、とにかく慣れている人に全般的に面倒を見てもらって、安心して横になれるのがいいらしい。(参考:『産褥記 産んだらなんとかなりませんから!』吉田 紫磨子) 私の場合は、結局実母に来てもらった。とはいえ、母が近くにいるとそれはそれでストレスなので、お金があれば、誰か別の人に来てもらうというのもアリだったろう。

「とにかく産褥期は寝てないと復帰に響きます。」

3.3 里帰りか育休夫か(最初の数ヶ月)

私の父はなぜ里帰り出産にしなかったんだとプンスカしていたらしいが(元祖ツンデレな本人は絶対に認めないが、赤ちゃんが好きなのだろう)、父までいたら、私が1ヶ月もたなかっただろう……。だれでも実家と折り合いがいいわけではない。そもそも里帰りすると切り上げるのが難しくなるし、パパのあずかり知らぬところでしんどい時期が終わってしまう、というのはよくないだろう。自分の子供だという感覚が弱いまま、主体的になれないまま子育てに関わらない団塊の世代型の蚊帳の外のお父さんができあがるわけだ。

とはいえ、夫がずっといてくれたらよかったかというと、疑問が残るところだ。

産後3週間目に私の母が実家に帰った。このパパ、ママ、赤ちゃんだけで過ごす初めての週末、赤ん坊が泣き止まなくて2人で途方に暮れた。便秘か? おっぱいが足りないのか? それともなにか調子が悪いのか? なんなのかわからず、アタフタ。夫がいるのはありがたいが、それでも「頼れる」レベルかというと、まだスライムのようなレベルで、「見ていて和む」くらいの戦力レベルなのであった。それを突然、最もハードなバトルに突入させるって、そりゃ無理な話だ。精神的な支えもありがたいが、必要なのは戦力、すなわち技術と体力と経験値である。(ドラクエってよくできてる)

3.4 短い育休はいつ取るのがよいか

結局、第一子の場合、1週間とかの短い育休はパパのためという前提がわかった。そして「足手まといにならない覚悟と技術があるなら」退院後にとるのがいいのかもしれない。というのも、どうせ夜中の授乳があって、家に赤ん坊がいるケースでは、よく眠れないのだから。

産後すぐはまだ会社に行っていた夫を起こさないように気を遣った。夫は引き継ぎの最終段階で超絶に忙しく、終電帰りも当たり前で、家では寝ることしかしておらず、幸いなことに(と言っていいのかわからないが)疲れて爆睡していた。

でも1週間より長くとるなら、細切れ授乳・夜中の授乳がしんどい時期(生後1~3ヶ月がピーク)などに、男性もまとまった育休を取れるといいのだろうなと思う。妻と夫が入れ違いで取る方式などもあるけれど、最初の数ヶ月がやっぱりありがたかった。「しんどくない子育て」としては、そこを一緒に乗り越えられたことが、最も大きな成果だったと思う。我が家では、そのあとピークが過ぎた頃に私が先に復帰し、そこから1年間、家族で過ごせることになった。夫は「猶予期間」などと不吉なことを言っているが……。

(ちなみに私の身分は、「復帰準備支援期間」といって、実は給料が半額の中途半端な身分である。夫の支援でフルで働かせてもらってますが、時短的な立場。)

4. 男性育休のメリット

男性育休のメリットはまとめると次のようになる。

・たとえ社畜でも育児ができる(社畜だから育休が取れない…というのはあるだろうが……)
・男親が育児がなんぞやということがわかる
家事を身につける機会が乏しい男性が、家事のことがわかるようになる
・最大限家事をさぼる方法を男性目線で開発してくれる
・その後の共働きの家事分担への良い影響が期待できる

・妻の体力回復を早める効果がある。
・産後に弱った妻が、(家事分担をせず)復帰して働ける期間がとれる

特殊な事情として女性ポスドク研究者の会社員夫の男性育休のメリットは次である。

・育児休業手当が出る人が家にいられる(自分はもらえない)
・家事をやってもらえる(保育園に預ける場合と比較して)
・子供を置いて出張に行ける(夫が育休の間限定だが)
・集中する時間を取れる(このおかげで次のポストの申請書を書けた)

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