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~解体韻書~ Vol.11 ZORN「Lost」

 11回目に取り上げるのは、今年リリースされたZORNのEP『925』から1曲目の「Lost」です。というか、この回から「925」の全曲を解剖していきたいと思います。

 新小岩レペゼン、今年1月に武道館、9月に横浜アリーナでのライブを成功させた、今最も勢いのあるラッパーの一人です。また、韻へのこだわりも顕著なラッパーです。

 そうした状況にあるZORNのこの1曲ですが、華やかな躍進とは裏腹に、成功したことへの苦悩を吐露する内容となっています。

もういらねえ 成功も名誉ももういらねえ

 こんなリリックが出てきます。大規模なライブを成功させたら普通は調子に乗って浮かれそうなものですが、そんな気配は微塵もありません。今30歳くらいだと思いますが、ものすごく地に足がついている印象です。自身の楽曲で語っているように、相当濃厚な人生を送ってきたのだと思います。

 ではそんなラッパーZORNの濃厚な韻の世界も覗いていきたいと思います。

 ビートはBACHLOGIC、BPMは97くらい、バースは32小節です。この曲は8小節ごとに起承転結で分けていくと見やすいと思います。

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 起承転結の「起」です。「生活」「贅沢」「連絡」「玄関」と<e-a>の脚韻4つから始まり、「オールしてた公園」「遠く見えた光景」と7音の長めのライムを挟み、最後の2小節は「」と「有名」、「叶った」「なラッパー」で踏んでいます。

 現在のラッパーとしての状況を語っています。

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 続いて「承」です。「一家団欒」と「減っていっただんだん」、「仕事ばっかしてて」と「また来てね」で踏み、「嫁さんを銀座」「カード切った」「幸せかと聞いたら」「だと言った」と<aoi-a>の韻を4つ踏みます。

 『昔の方が幸せだった』っというやつですね。My Lifeの頃というのが凄くリアルで、胸に迫るものがあります。

 『「My Life」の頃だと言った』に向けて前段で韻を3つ重ねているので、よりこのフレーズが響くようになっていると思います。

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 続いて起承転結の「転」です。「これが幸せか」と「俺は来ただけか」、「どんなもんより」と「持ってたもんが尊い」などで踏んでいます。

 ZORNのようにほとんどのフレーズで韻を踏んでいるラッパーだと、逆に韻を踏んでいないフレーズが気になってしまいます。

手にすることはなくすことだった

 このフレーズは前後を見ても韻に絡んできません。不自然です。あのZORNが韻を踏まないなんて。

 でもだからこそこのフレーズが際立ちます。大半のフレーズで韻を踏んでいることを考えると、韻へのこだわりを横に置いてでも言いたかったことだという推測ができます。

 通常、リリックでメッセージとして伝えたいことは韻を踏んだ方が強調できそうですが、ZORNの場合は膨大に韻を踏むという前提があるので、韻を踏まないことで歌詞を強調しているのです。

 これを「ZORNの逆説」と言います。(言わない)

 でもこの8小節は迫力があり、本当の事を言っているんだろうなという凄味があります。

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そして、最後の「結」です。最初の4小節では、「何のため」「やんのかね」「安堵はねえ」「苦難の螺旋」「ガン飛ばせ」「感動させる」と<anoae>の韻を6つ踏んでいます。また、最後の4小節でも「だけの少年」「誰ももういねえ」「おろしたての情熱」「当てろ証明」と<aeoo-e>の韻を4つ踏んでいます。

 韻を畳みかけることで、自分を鼓舞する心情がより分かりやすく表現されていると思います。

【まとめ】

 この曲は、心情の吐露がメインで、ZORNの曲の中では踏んでいない方だと思います。しかし起承転結の流れが綺麗に見て取れますし、それぞれの心情に応じて韻の量などを使い分けるなど、テクニカルな韻の踏み方になっていると思います。

 また、「韻を踏まないことでメッセージを強調する」という事もあり得ることが見て取れました。これは前提として踏みまくっているラッパーの方が効果的に使えるので、ZORNの得意技の1つとしてもいいかもしれません。

 まだ仮説段階なので、これからもっと深く見ていこうと思います。

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