ドラムマシンと音楽ジャンルの関係性と考察 後編 (デジタルドラムマシンの進化~現代のドラムマシン)


前編ではROLAND TR-808登場までを書きました。
ここからは80年代初頭から怒涛の機材の進歩、特にデジタル化の波、そして
ドラムマシンを使用したダンスミュージックへの流れ、90年代以降のドラムマシンサウンドの行方など...
簡単ですが追って紹介、考察していきたいと思います。


PCMデジタルドラムマシン怒涛のリリースの80年代

1980年代はデジタル技術によって一気に音楽機材が進化した年代でした。
奇しくもTR-808が発売されたのと同じ80年には最初のフルデジタルドラムマシン Linn Electronics LM-1が発売されます。


後にAKAIMPCにも携わるロジャーリンが開発しました。
これまで電気回路による発振を用いてドラム音に似せたドラムマシン(いわゆるアナログ音源)から、あらかじめメモリに録音した本物のドラムの音を電気的に再生する(PCM音源)という、より生に近い音を出せるドラムマシンの誕生でした。
しかし、まだ値段が高く($5,500 当時1ドル=平均230円)それほど広く機材としては浸透しなかったらしいのですが(生産数約500台)、セレブな有名ミュージシャンはいち早く使用してます。
その代表的なミュージシャンの一人はプリンスです。


今の耳で聴くと決して生ドラムには聴こえませんが、独特のグルーヴがあり、非常にソウルフルな感じがします。まだメモリが小さく長い録音ができないのが逆にタイトで小刻みなノリに繋がってるような気がします。
アナログドラムマシンとの決定的な違いはやはりハイハットの音色ではないでしょうか。やはり金物系はアナログではなかなか再現できなかったのでしょう。
また、マイケルジャクソンもあのアルバム「スリラー」で使っています。


LM-1が使われている楽曲のイメージはやはり高価なものであるので予算に余裕のあるミュージシャンが使用しているので、その他の音もすべて豪華でお金がかかっているアレンジが多い気がします。ちゃんとプロダクションされている音というか、ポップスとして売れる音というか...。
そしてリンドラムこと初期のデジタルドラムマシンの代表格 LM-282年に発売されます


LM-1より機能が上がり、しかも値段も下がり多くのミュージシャンが使うようになりました。
多くのポップス、ダンス、ニューウェーブ、イタロディスコなどなどに使用されています。


80年代中盤はポップスを始めいろんなジャンルの音楽が新しいモノを求めていた時代で、新しい機材をいち早く取り入れ世に出すという意気が感じられます。楽器メーカーもそれに伴い、競い合って開発を進めていた気がします。
また、日本の当時のアイドルなどの歌謡曲(特に細野晴臣氏作曲編曲作品)にも多く使用されています。
下は貴重な映像です(UPされた方よく貴重な映像残してたなと感心)。

あまり日本では808、909ほど語られませんがリンドラムの音楽に与えた影響は多大なモノだと思っております(またいずれリンドラムだけの事書ければと)。
自分は持っていたんですけど、故障で手放しちゃいました....。

オーバーハイム DMX

リンドラムよりあまり語られることが少ないマシンですが、実は初期のPCMドラムマシンで音楽に与えた影響が少なからずあると考えております。TR-808LM-1、と同じ80年発売で値段もLM-1より安かったのでニューウェーブやシンセポップ、後にヒップホップレゲエにも使用される事になりました。
リンドラムより荒々しいガシガシした音は今の耳ではローファイに聴こえますがそれがかっこよさになってます。
リンドラムDMXなどの初期のPCMドラムマシンの特徴として、ビット数やサンプリング周波数、メモリの少なさからタイトかつ中域が協調されたサウンドがチューニングを変える事によるエイリアスノイズも相まって妙に存在感のある音が出すことができます。

やはり、DMXといえば日本では人気のこの曲。


そして


その他のヒップホップの多くの楽曲で聴かれますが、紹介すると長くなりますので、詳しくはこの方のブログを参考にしてください(ところどころにDMXTR-808が使用されている楽曲が紹介されています)。

PCMドラムマシンの盛況

80年代中旬から多くのメーカーがPCM音源によるデジタルドラムマシンを出し始めました。
まず83年Sequential Circuitsが初のMIDI搭載のDRUMTRAKSを発売。
同年、ROLAND808の後継種としてアナログ音源PCM音源のハイブリッド、TR-909を発売し、翌84年にはフルPCMマシンTR-707を発売します。この二台はハウス以降の四つ打ち音楽に非常に重要なマシンですので別項で考察したいと思います。
84年にはYAMAHARX11を発売。このころから多くの楽曲でPCMドラムマシンの音が
聴かれるようになりました。またドラムマシンにドラム以外の音、パーカッションや、ベースオケヒット効果音などが入る事により、手軽にいろんな音を楽曲に使用できる様になり豪華な音作りが増えてきたように思います。
あまりにも使われてるのでこれといって紹介する曲がないのです(笑)。
日本ではYAMAHARX5TM NETWORKが多くの楽曲で使ってます。
また、レゲエでは80年代中盤からのコンピュータライズドリディムの流行りによりYAMAHARX7などのドラムマシンを使ってリディムが作られてます。

ちなみに自分はYAMAHAのRXシリーズはフルコンプしております(笑)。


世に出てるドラムマシンの大半はPCMドラムマシンといっても過言でないほど多くのメーカーが出しています。
あのターンテーブル定番のテクニクスでさえPCMドラムマシンを発表しています。

しかし80年代後半から本物のドラム音へ近づける努力、そしてメモリの増加で一台のマシンに多くの音色を入れる事ができ、ドラムマシンが持つ個性がだんだん失われていった感じがします。これが後にアナログドラムマシンの再評価にも繋がっていく事にもなると思います。
このリアル追及の波の頂点に達したのが89年発表のROLAND R-8


ヒューマン・リズム・コンポーザーという名前を冠し、生ドラムのニュアンスを出せるこのマシンもかなりの楽曲に使用されているらしいのですが、もう判別できないようなぐらいに生々しいプログラミングができるのでわからないっていうのが正直なところです。このR-8はカードで808,909、CR-78、TB-303などアナログマシンの音を追加できるカードがありまして、この後説明するハウステクノに多少なりとも貢献したのではないかとも感じております。
個人的にはこのあたりで、10年間で急激な進化を遂げたドラムマシンの一区切りが付いたと思ってます。この後の90年代以降ののPCMドラムマシンはいろんなジャンルに対応できるよう様々な音色を増やす方向への舵を取っていきます(ALESIS SR-16,BOSS DRシリーズ、ZOOMなど)。

ハウスとドラムマシン

80年代中盤にシカゴでハウスミュージックが誕生します。ハウスミュージックの生い立ちなどはいろんなところで紹介されているので省略いたします。
ここではちょっと自分なりの考察がありまして、間違いかもしれませんが書き記したいと思います。


よくハウスの生い立ちに「黒人DJが二束三文で売られていたTR-909を使って~」みたいなのがあります。確かに909は発売当初は人気が無く、すぐ生産中止になったと聞いております。
たしかに初期のシカゴのハウスミュージックは、もちろん909の音も多く聴かれますが、TR-707TR-727、その他当時新しいと思われるPCMドラムマシンの音もかなりの楽曲で聴かれます。またTR-808もよく使われてます。


これから推測するに、ドラムマシンシンセなど元々それなりに制作環境があったミュージシャンがハウスミュージックの黎明期に存在という事だと思います。実際909はこのあとハウスの代名詞的なマシンになりますが、それが固まったのはシカゴハウスニューヨーク、そしてヨーロッパ、特にイギリスに渡った80年代末ぐらいな気がします。
まぁこれはあくまでドラムマシンの音から個人的に推測しているだけであって、通常に語られてる歴史も正しいとも思うんでよくわかりません(笑)。

で、このシカゴのハウスはアシッドハウスというジャンルを生み出します。
アシッドハウスという名称は後にUKに派生した際に付いたといわれますが)
みなさんご存知ROLAND TB-303を用いたハウスです。後に303だけではない楽曲もアシッドハウスに分類されてるので一様には言えませんが。
初期はやはりTR-707,TR-808を使った楽曲が多いです。

このアシッドハウスこそ、実は型落ち、不人気だったマシンを二束三文で買って使ったジャンルだと思っております。
固有のマシンがなければ存在しなかったといえる最たるジャンルではないでしょうか。このアシッドハウスでのTB-303,そしてシカゴのダンスマニアレーベルに代表されるシンプルなリズムトラックでのCASIO RZ-1や、それをルーツにする後のJUKEというジャンルでのROLAND R-70 など、陽の目を見なかったマシンを使うのがシカゴのミュージシャンは優れていると感じます。


テクノの登場

テクノの起源とかはいろいろ語られていますが、ここではデトロイト発祥のダンスミュージック以降のテクノドラムマシンの関係を考察したいと思います。
まずはデトロイトテクノの創始者といわれるホワンアトキンス。
80年代前半に発表されたCybotron名義の作品はクラフトワーク、そしてエレクトロヒップホップの影響を多大に受けてるのもあって808が多用されております。


その後のMODEL500名義での楽曲も808中心のものが多いです。
特徴としてはテクノといっても四つ打ちではなく808を用いたエレクトロビートで、黎明期のエレクトロとテクノの中間的サウンドでやはり808の特徴をうまく使っている作品だと思います。
そして、そのホワンと共にデトロイトテクノの重要人物のデリックメイケビンサンダーソンですが、初期の楽曲からやはりハウスの影響が強いと思われ、四つ打ちが多く909が使用されてるのをよく耳にします。
この名曲も909727です。


マッドマイク率いるアンダーグラウンドレジスタンス909を使用する事が多く、これらの流れから90年代以降のテクノミュージックには909、もしくはそれに準ずる音色が多用されていく事になり、現在でも多くの楽曲でその音(実機ではなくても)が聴かれます。


ROLAND TR-909というマシン

個人的には909808と同等、もしくはそれ以上の功績があると思っています。


繰り返しになりますが、90年代以降のハウス、テクノの楽曲の多くが実機でなくても909の音色を使ってます。
特にバスドラムの音は現在でもハウス、テクノのみならずいろんなジャンルで聴かれます。アタックがあってしかも低音もしっかりあるという、硬くて太いという男性が憧れる特徴を持ってます(笑)。
これは80年代からクラブのサウンドシステムが進歩し、より大音量、より低音が出せるようになり、より迫力、よりインパクトのあるバスドラムが求められてるのも理由の一つではないかと推測しています。

四つ打ちダンスミュージック以外でも80年代後半からのグラウンドビート


ダンスカルチャー以降のポップミュージックでも多く使われ


日本ではやはり電気グルーヴが多くの作品で使用しています。


その他多くのダンスミュージッククリエイターがその音色に魅せられてきたと思います。
また、J-POPの楽曲にダンスミュージックのエッセンスを入れる為に使用される場合も多いです。

90年代以降のPCMドラムマシンPCM音源モジュールには必ずって言ってもいいほどダンスキットという形で909(それに類似した)の音色が入ってました(ちなみに808アナログキットって名前で入っている場合も)。

現在のハウスやテクノ、その他エレクトロニック(ダンス)ミュージックは機材の発展のおかげもあり、いろいろなドラム音が聴かれますがバスドラムの音だけは元々909を意識したものがかなりを締めているんじゃないかと感じています。


サンプラーの一般化とドラムマシンの存在意義

80年代初頭はまだ一部のリッチなミュージシャンのみが使用していたサンプラー(アートオブノイズが使用していたFAIRLIGHT CMIなど)でしたが、80年代後半にはなんとか買える値段になってきました。
そこでドラム音を自由にユーザーサンプリングできるドラムマシン(サンプラー)が出てきました。
まず代表的なものはEMU SP-1200AKAIMPCシリーズです。


これによって特定のドラムマシンの音色に依存せず、ユーザーが好きな音色を使う事ができるという画期的なもので元々レコードのドラムブレイクを使っていたヒップホップのミュージシャンがこぞって使用し始めました。
レコードから空気感も一緒にサンプリングされた音色は数々のヒップホップのトラックを生み出しました。


ビット数の低い荒れたサンプリングが、ヒップホップらしさを演出し独特の雰囲気を醸し出してます。この辺は初期のPCMドラムマシンDMXなど)に共通する匂いを感じます。他のジャンルではOKとしない音質でもヒップホップというジャンルでは良しとする精神が、よりこの音楽を広めていったと感じます。
このパッドをたたいてビートを刻む手法はいまでもヒップホップの定番であり、PCDAWが全盛の今でもNI Maschineなどで引き継がれています。


ハウス、テクノもこの流れに乗り、90年代はサンプリングによってさまざまなジャンルが派生しました。固有のドラムマシンの音色にこだわらない音楽、ブレイクビーツをばらしてドラム音に利用する用いた楽曲も増えました。

このサンプラーの低価格化、大衆化により固有の音色を持ったドラムマシンの存在意義が薄まり、特定のドラムマシンが大きな流れを生む時代はこれで終焉を迎えたように思われます。


現代のドラムマシン

2000年代以降もやはり808、909の音色は健在で、それらをデジタル技術でシミュレーションしたドラムマシン、そしてアナログ回路でそれをそのまま再現したマシンなどさまざまなドラムマシンが出ています。ソフト音源808、909の音の再現されたものが数多く出ています。
今の楽曲の多くはソフトウエア音源、もしくはハードウェアシンセによるものであって、過去の様にドラム音のためだけに単体のドラムマシンを使う事は少なくなってきてます。もちろん便利で音も問題ないので、今はそちらをおすすめします(笑)。

しかしテクノなどのライブではあえてPCを使わないマシンライブが増えてきてるようにも思えます。

やっぱりハードウェアは触ってるだけで楽しいので。

808,909の音色のように定番として一つのジャンルを表す新しいドラムマシンの音は近年出てきていません。確かにこんなにいろんな音源が使用できる時代、特定のドラムマシンに依存する事自体、表現の幅を狭める事にになるとは思うのですが、ドラムマシンコレクターの自分としてはやはり一抹の寂しさも感じます。

今でも楽器メーカーは新しいドラムマシンを世に提供してくれてます。

ROLAND TR-8s808,909など同社のドラムマシンを完全再現&サンプリング機能といういままでの歴史の集大成のようなマシンですし、Elektron Digitaktは各サンプル音色のフィルターなどのシンセサイズ機能が充実した音作りを楽しめるマシン、Dave Smith Instruments & Roger Linn Tempestは現代のリンドラムといえる筐体に強力なシンセサイズ、KORG volca drumは手ごろな値段ながら、本格的DSPモデリングとどれも個性的なモノばかりです。

それらを使った新しく面白い音楽がもっともっと出てくることを切に願っております。

― 完 ―

前後編で書ききれなかった、大きい流れではなく局地的な特定のドラムマシンとジャンルの関係もありますので、いずれ簡単に紹介できればなと思っております。

長文駄文失礼いたしました。


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長年、シンセ、ドラムマシンをこよなく愛してトラックメイクしてきました。今までの蓄積から何か残せないかと思い文章に書き記しています。

ありがとうございます!
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