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「半沢」を観たら「集団左遷!!」も観て欲しいいくつかの理由。

 こんばんは。半沢直樹なら渡真利が好きです。

 最近は毎週水曜のコラム「アドレセンス・アドレス」更新を頑張っている(のでぜひ観ていただきたい)ところですが、とはいえたまにはふつーの記事も書いていきたいなと。

 さて、「半沢直樹」がついに最終回を迎えますね。歌舞伎さながらの大立ち回りと、個性の闇鍋のような人物関係、そして息を飲むバトルに自分も周囲も夢中でした。
 個人的な話ですが、僕個人としては以前金融関係の仕事をしていたこともあって、単にドラマとしてだけではなく職業目線でも楽しめる作品でした。ただ、今回は国家レベルの大規模な問題にも発展していたりしたので若干現実味ありませんでしたが…。

 で、です。そんな僕が金融機関時代を終えた直後に、同じTBS日曜劇場でやっていたドラマが「集団左遷!!」でした。

 同じ銀行バトル系ドラマで、「半沢」と引き合いに出され比較されたりすることも少なくないこのドラマ。
 でも、「半沢」と共鳴する部分もありつつ、全体的な毛色としては「半沢」とはまた大きく違う良さを持つ作品なので、激動の銀行歌舞伎を観て歯を食いしばってきた皆さんにぜひ観ていただきたい、ある意味うってつけの作品なのですよ。

 そんな「集団左遷!!」について、今日はご紹介します。


「本部の理不尽に立ち向かうサラリーマン奮闘記」

 平成最後、なおかつ令和最初の日曜劇場として放送された「集団左遷!!」。
 金融系小説の名作家で「半沢」の原作者である池井戸潤さんではなく、こちらは江波戸哲夫さん著「銀行支店長」「集団左遷」が原作。実は僕の生まれたくらいの頃に「集団左遷」は一度映画化しており、柴田恭兵さんや津川雅彦さんなんかが出られてたようですよ。でもそちらは銀行の話じゃなく、ただ登場人物の名前が部分的に「集団左遷!!」と一致してたりしたので、設定は「銀行支店長」から、キャラクターは「集団左遷」から、といったところなんでしょうか。

 組織の合理化を目論む常務・横山(演:三上博史)は、大規模リストラのために廃店候補を選出し、それらの支店長に「廃店は決まっているので頑張らなくていい」「大人しくしていてくれれば支店長に関してはキャリアを保証する」として、到底達成し得ないような業務目標(=半期純増100億)を通達。
 時を同じくして蒲田支店長に昇進した片岡(演:福山雅治)は無慈悲なリストラに反発し、自身の保証すらも蹴って、支店を奮起させ業務目標達成を目指す形で横山に対立する。

 ざっくり言うとこんなお話です。
 ちなみにこの純増100億っていうのは数字がでかいんでヤバそうな感じがしますが、それだけじゃなく「純増」ってのがヤバくて、100億円分の新規契約を取っただけではダメなのです。
 例えば時期を同じくして10億円分の解約や融資回収があれば、10億円減益してるわけですから、増益は110億ないといけないと言うことなんですな。だから物語序盤には「目標増えちゃってるじゃないですか…」なんて落胆する会話があったり。

 少し話が逸れましたが、要は「本部の理不尽に立ち向かうサラリーマン奮闘記」という意味では「半沢直樹」と大筋では同じタイプのドラマってことになるわけです。
 本部が融資の稟議審査を渋ったり、大口先の契約を妨害したりするあたりは半沢も同じように苦労してたっけな〜という感じです。

 ただ、この2作には、それぞれ全く別種の魅力を持ったドラマだと思えるポイントがいくつかあります。

コロシアムの半沢、スタジアムの集団左遷

 まずひとつ、「上役たちとの戦いこそがそのドラマの本質なのか?」ということです。

 堺雅人さん演じる半沢は、まず彼の出自からして「父を見殺しにした銀行に復讐するために入行した」過去がありますし、ドラマの流れ的にも自分自身に泥を被せ私腹を肥やした行員を成敗することが半沢の主な行動目的でしたよね。
 対して福山雅治さん演じる片岡支店長は、もちろん上役の理不尽に憤りを感じ反発するわけですが、第一の目的は「配属になった支店の行員の未来を守ること」にあるのです。

 自分だけなら100%生き残れるという道を捨て、一か八かで行員全員が銀行員として生きていける未来を掴みに行くわけです。
 だから「正しく誠実な銀行のあり方を追求する」という点では半沢と片岡には共通するところがあるんですが、その根底にある感情や流儀はかなり違うように見えます。
 殺すための戦いか、生きるための戦いか。
 命を奪い合うコロシアムに立つ半沢と、名誉をかけて戦うスタジアムに立つ片岡。
 ものすごく極端な言い方をあえてしますが、この紙一重の差異が、二人の銀行員に大きな違いを生んでいるように思います。

 片岡支店長は「頑張る」ことをすごく大事にしている人間で、何かにつけて「そこはほら…頑張るんですよ」「達成目指して頑張りましょー!!」「お前頑張ったなあ!!」と口にします。
 対して息子には「頑張ってるんだから頑張れって言わないで」とあしらわれたり、まさに横山常務は「支店長の皆さんは頑張らなくていいんです」と豪語するように、これはドラマを通した一つのテーマだったりもします。
 がむしゃらに頑張ることに意味はあるのか?美しいことか?頑張ってはいけないのか?頑張らなくてはいけないのか?
 最初はマイペースで後ろ向きだった蒲田支店の行員たちが、バンカーとしての正義やプライドを抱くまでに育っていく過程には、確かに片岡の「頑張りましょう」が強く響いている。
 部下を奮起させ、一丸となって戦う求心力。
 孤高に戦う半沢も、仲間に対しては発揮している力だとは思いますが、メインに据えられているようには見えませんでした。片岡と半沢との明らかな違いのひとつに数えられる要素だと思います。

 だから自ずと「半沢直樹」よりも心温まるというか、立ち向かう壁はシリアスでも、どこか穏やかな気持ちになれる要因がここにあるのです。

その融資は顧客のためになるのか?その判断は銀行のためになるのか?

 僕が思う半沢と片岡のもう一つの違いは、顧客との関係性にあると思います。

 半沢と片岡は、目指す目標がそもそも違うという話は先にしました。

 だから半沢の戦いの中にある顧客との関係は、取引先との付き合いや案件そのものは前提としてあって、そこに絡まる利権や思惑、その闇を暴く流れになっていると思います。
 対して片岡は、まずは業務目標を達成しなきゃならない使命があって、その中で担当顧客との出会いや融資相談の中での物語のうねりが起きる。
 だから「集団左遷!!」は他支店や本部とのバチバチ、ノルマ達成のための奮闘もありつつ、顧客との関係性にフォーカスが当たることが多い印象が強いのです。
 実際に片岡は、頼まれてもいない土地探しに奔走したり、利率で他支店との対立が起きた時には社長に好きな方を選ぶよう判断を委ねたり、ノルマ達成に必要な融資を会社のためを思って引き下がったり、顧客に対してものすごく献身的な姿勢を見せます。
 もちろんまず第一にノルマ達成と支店の生き残りが目的ではありつつ、副支店長の真山の口癖である「それはお客様のためになりますか?」という問いかけや、担当職員の心境なんかも相まって、支店と顧客の両方にとって最善の取引判断を下すことを続けてきました。

 話が逸れますが、僕も金融の仕事をしていて、会社の利益のために色々な指導を受けましたが、それが必ずしも正しいとは思えませんでした。担当顧客に不本意な手間をかけさせたことも多くあったし、それは未熟な僕の段取りの悪さや説得力のなさももちろんあったとは思いつつ、自分の想いに反する部分が大きかったのもまた事実でした。だから蒲田支店でなら働いてみたいなあ…と少し羨ましくもありました。笑

 顧客第一主義は銀行の常識ですし半沢にもその理解はあります(それをベースに戦ってきました)が、これもやはり焦点の問題で、その視点から派生して「守る戦い」が片岡、「砕く戦い」が半沢の魅せられ方だったのではないかと思います。

 正直、支店編は6話までで、7〜10話では片岡も本部に行き役員の闇を暴くストーリーが展開されるんですが、面白いっちゃ面白いけどなんかやっぱり「砕く戦い」は片岡っぽくないなあとも思ってしまいました。その中で蒲田支店チームの再集結と協力ムーブが起こったりもするんですが、そこが後半のドラマの中では一番「集団左遷!!」っぽいと感じる部分だったりします。

 だから終盤の横山と片岡の直接対決も見応えはありましたし片岡のポリシーは終始決してブレてはいないんですが、業務目標を泥臭い努力で乗り越え横山を追い込んだ前半の方が、片岡の戦い方として個人的には好きでした。

 とかく、

・生きるため、守るために戦うのが「集団左遷!!」
・殺すため、砕くために戦うのが「半沢直樹」

 というのが、ざっくりですが僕の理解です。

 だからこそ、「半沢直樹」で血を見た皆さんに、「集団左遷!!」で汗を見て欲しいんです。

異なる時代観とフィット感

 「半沢は現代的ではない」という意見をよく見ます。

 確かにテクノロジーや職種の面で時代に沿ったものが出てきたりもしますが、社会的な銀行員のポジションや内部での争いなど、現代の話としてはあまり現実味がない要素も多く感じます。

 対して「集団左遷!!」に関しては、「頑張る」をキーワードに据えつつ、それを信じている片岡を俯瞰して前時代的に描写したり、神木隆之介さん演じる瀧川の仕事のスタンスや片岡とのズレ、そして半沢にはない片岡の物腰柔らかさや表情の可愛らしさが、かなり現代にフィットするというか、それは世相や現代社会という意味でもそうだし、ドラマ作品としての作風や空気感そのものとしてもそう感じるのです。

 なんなら原作は「銀行支店長」の方が「オレたちバブル入行組」(「半沢直樹」原作)よりも10年ほど前に出されているのにもかかわらず。

 だから、そういう意味でのリアリティや、入りやすさ、見やすさという点での魅力も「集団左遷!!」にはあると感じます。

銀行ドラマのシンクロニシティ

 最後になりますが、この二作はかなり多くの出演者が共通しています。

 半沢の宿敵・大和田役の香川照之さんは、片岡の相棒となる真山副支店長役。
 その真山の妻役の西田尚美さんは、開発投資銀行の職員として半沢とタッグを組みました。
 大和田を欺いた市川猿之助さんは片岡を救い片岡に救われた社長役。
 「半沢」でタスクフォースのヘッドを務める筒井道隆さんは「集団〜」で自社の闇を暴く副社長役。
 戸次重幸さんはどちらにおいても信用ならない役どころを…。
 川原和久さん、モロ師岡さん、赤井英和さんなんかも共通しています。

 ロケのセットでも、あの例の会議室はおそらく同じ場所。他にも共通して使われていた部屋はあったんじゃないかなあ。

 原作者が違うとはいえ、同じTBS日曜劇場の同じ銀行ドラマで、たくさんの出演者が共通している上で、絶妙に異なる魅力を魅せられるこの二作。
 どうでしょう?組み合わせたら結構楽しそうじゃないですか??僕は楽しかった!

 執筆現在ならAmazonプライムビデオで視聴可能になっているので、もしよかったら是非ご覧ください。 


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