初めては、それほど好きでもない人と

大学に入って初めて「お付き合い」をしたのは、友達の付き合いで入ってしまったテニスサークルにいた男の子だった。

テニスを見るのは好きだけど、自分でやりたいわけじゃない。着替える場所がないとか、授業にもラケットを持って学内を移動しないといけないとかも嫌だった。

そんなんなので、付き添った友達がサークルになじみ始めると、スーッと行かなくなったのだけど、同じようにだれかの付き合いで来ていたらしく、いつの間にかサークルには顔を出さなくなっていたのが、Hくんだった。

たまたま学食で会い、なんとなくだらだら話したのをきっかけに、飲みに行くようになり、何度目かで家に誘われて、ついて行って、飲んだりゲームしたり、映画見たりして朝になった。朝方、寝起きでキスされて、付き合いたいと言われて、いいよと言った。

でも、もう、その帰り道から後悔していた。
全然「好き」じゃないのに、付き合えるのかな。めんどうなことになったな、と思っていた。

何度か遊んで、でも家に行くのはやめた。このままだと、流れでシてしまうのはわかっていた。私は流されやすいのだ。

Hくんもそれに気づいたのか、あるとき朝から集合して、急に「淡路島に行かない?」と言われた。そのとき淡路島には、ワールドカップでイングランド代表が滞在した記念館なるものが立っていて、それを見に行こうというのだ。

淡路島は神戸からバスで1時間くらいだったな、と思い出して、いいね、行こう行こうとのった。
記念館を見たのか、観光をしたのかは覚えていない。夕方になって、そろそろ帰ろうか、というとHくんが、せっかく淡路島まで来たんだから、俺は泊まっていきたいと言った。
ああ、私はなんてばかだったんだろう。そうだよな、そりゃそういうこと考えるよな。「どうしてもいやなら、帰るけど」とHくんは言った。もういいや、なんでもいいや。というのがその時の気持ちだった。

「わかった、泊まるとこ探そ」
なんでもないふりをして答えて、Hくんはうれしそうだった。

泊まったのは夫婦でやっている小さいペンションだった。なんか、明らかに大学生が、これから不純なことする気満々な感じで泊まりに来て、嫌じゃないのかな、とか思って、かわいい部屋も居心地が悪かった。

それが私の初めての夜だ。
気持ちのいいものではなくて、残ったのは下半身の違和感と、罪悪感だけ。Hくんは私が初めてだと知って、大事にするから、やさしくするから、と言って、私の体をなめまわし、ぎこちない手つきでなで続けた。それは、彼の精一杯で、私のことを好きだったのかはよくわからないけれど、乱暴にしちゃいけない、と思っていたのは本当だと思う。
挿入したHくんが「好きだよ」と言うのを下からながめて、そんなわけあるか、と思ったりした。嫌な女だな。
Hくんのことは好きじゃない、この先も好きにはなれない気がする、と最中に思って、どうやって終わろうか、考え始めていた。

もっと自分を大事にしたらよかったんだろうか。いや、自分のことは自分なりに大事にしていたと思う。そう好きでもない人と初めての体験をするのは、今考えるとバカだなと思うけど、当時はこんなもの、と思っていたし、だれかを好きになれるような気がしていなかった。

Nのことはずっと忘れていなかった。でも、会いたいとか、付き合いたいとかを伝えたいとは思わなかった。Nは大人の世界にいて、私は学生だった。世界が違うとNに思われたくなかった。Nのことが好きだけど、会えないから、だれと付き合ってもべつにいいやと思っていた。なんか変だけど、20歳の私はそう思っていた。



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