違う世界の

京都で再会したNとキスをしたのは、どこの公園だったか。数年前まではグーグルマップで確認できたのに、今は公園がなくなってしまったのか、私の記憶があやふやになったせいか、もうわからない。

なんでそういう展開になったのか。
前と同じドトールに行こうとして、せっかく京都にいるのに、外に出ないのもったいないよね、という話になって、それで外を歩き始めた。
だんだん暗くなってくる時間帯で、観光客や、地元の人や、いろんな人とすれ違いながら、私とNはどう見えてるかなと、そんなことを考えていた。

京都は寒くて、冷たい風が頬を刺すようだった。
並んで歩いていると、手をつながないほうが不自然みたいな距離感になって、パッと手を握られて、Nの顔を見ると「いい?」と笑った。
なんの「いい?」なのよ、と笑いながら、胸の中はもうどきどきで、うれしくてたまらなかった。

キスをしたのは、その先にあった小さな公園だった。
無言になって、もう一度「いい?」と聞かれて、目が合った。きれいな顔。あ、でもにきびできてる…とおでこに注目した瞬間、唇が重なった。

うれしい、と思いながらも、これってなんだろう、という気持ちにもなった。付き合うの?付き合うとかあるの?ないならコレはなんなの…?

でもそういうことをNに言うのが嫌だったのだ。なぜなら、Nはもう先に大人になっていて、私とは違う世界にいる、ということをひしひしと感じていたから。子どもで、学生である自分のことが、Nといると恥ずかしく思ったりした。

だからNが、私をぎゅっと抱きしめて、彼氏とかいないの?と聞いたとき、え、彼氏になってくれるの?と言いかけてやめた。いないよ、とだけ言った。そして次に、これから、どっか入る?とNが言ったとき、私はもう一度、Nが先に大人になったことを知って、ちょっとだけ悲しくなったのだった。

「また、大阪か京都に来たときは連絡して」と私は言った。
Nは、抱きしめながら、わかった、と言った。

あまり話さずに手をつないで京都駅まで戻り、新幹線の改札まで見送った。あ、これでまたしばらく会えないのかと思ったら涙が出てきた。改札で泣く女とか、嫌なのに!嫌なのにー!でも泣けたんだ、なんだかとても。
「あのときも、俺と離れるのが嫌で泣いてたの?」とNが言った。
「あのとき?」
「ほら、中3のときの、道で…」
「えー!そんなわけないじゃん!」
笑ってしまった。そうか、そう思ったのか。ちょっと恥ずかしそうに「そこまで言うことないじゃん」というNもおかしくて、あ、好きだなNのことが、と思った。言わなかったけど。

新幹線の改札で、こんなにエモーショナルにさよならをして、Nのことが好きだと思ったのに、そのあと無事志望校に合格して大学生になった私は、何人かの男の子と軽い付き合いを繰り返した。

Nにはなかなか会えなかった。メールも頻繁にくるわけじゃなく、私も状況がわからないのでしなかった。Nのことが好きだという気持ちはあったけど、ふつうの「お付き合い」をするのは無理だろうな、というのもわかっていた。自分がNとどうなりたいのか、よくわからなかった。

Nはそのころ、そのきれいな顔立ちと抜群のスタイルで、一部のメディアで騒がれ始めていた。彼の所属する一門も、そういうNを積極的にPRに使っていたと思う。
関西の夕方のニュースで、Nが「イケメン●●」として紹介されたときには、もうあきらめもついていて、会うことはないだろうなと思っていた。

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