大阪へ

大阪の高校の受験日は、卒業式の日だった。

卒業式の前の週、クラスだけの卒業式を開いてくれた。
私と、Nの卒業式だった。

私が大阪の高校を受験すると担任がクラスメイトに報告した日、Nは高校にはいかず、とある伝統芸能の一門に裏方として弟子入りするため、卒業式の前日にこの街を離れると発表された。

あ、東京ってそういうことだったのか、と思った。
優しいクラスメイトたちは、みんなで卒業式に出られないことを悲しんでくれて、私もその雰囲気の中で素直に、さびしい、と思った。だけど、この街で生まれ育ったNがいなくなるのは、最初からずっとよそ者だった私がいなくなるのと、衝撃の大きさが違う。さびしい、と思いながらも、Nを囲んで男の子たちが泣いたり笑ったり騒いでいるのを見て、彼らのことがうらやましいと思った。私はこの街で、最後までフワフワ浮いてた。

その日の帰り道、Nがクラスの男子とふざけあいながら歩いているのを道の反対側から見かけて、なぜか涙が出て止まらなくなった。

私はこの街に縁がなくなる。Nは遠くに行くけど、ここはNの街だ。みんな私のことなど忘れてしまうだろうけど、Nのことはきっと誰も忘れない。帰省するたびに、きっとみんなが集まるんだろうな、そんなことを考えて、さびしい、と思った。そこに私はいない。

そのあともNと二人で話すことはなく、Nは卒業式前に東京に行ってしまい、私は母と大阪に行き、初めて見る高校の受験をした。

無事に大阪の高校に合格した私は高校生になり、それなりの毎日を過ごしていた。あの田舎町での2年間は、すっぽりと抜けた2年間になり、私はむしろ東京で過ごした日々の続きのように、大阪で過ごした。地下鉄とJRを乗り継いで学校に行き、帰り道に友達と雑貨や洋服を見て、本屋で立ち読みをし、ドーナツやハンバーガーを食べながら友達と好きな音楽を聴いたりした。夏休みや冬休みにはアルバイトもした。あの町で高校生になっていたら、こういう日々はなかっただろう。

Nに再会したのは、本当に偶然だった。


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