東京から来た転校生

中学の同級生だったNは、高校にはいかずに東京に拠点のある某所に弟子入りした。

私は中学2年であの田舎の学校に転校して、Nの隣の席になった。
中学生男子なんて、女子とはまともにしゃべらないものだと思ってたけど、Nは違った。

とりあえず目立たないようにしようと思っていた私に、Nが毎日毎日べったり話しかけてくれるものだから、私は転校早々女子から距離を置かれた。

Nは、東京の中学校でわりとあか抜けた男の子たちを見慣れていた私から見ても、かなり美形だった。女子にはNはみんなのもの的な協定があったのに、転校生がそれを無視してNとの距離を詰めているように見えたのだろう。

そんな、いい迷惑、、と今考えても思うけど、私も相当嫌な感じだったと思う。田舎くさい。あほらしい。とバカにして、あきらかに女の子たちを見下していた気がする。そりゃ好かれないわな。

女子との距離が遠ざかってNと近づいたかというとそんなわけでもなくて、Nはただ無邪気に、東京から来た転校生がめずらしくてかまっていただけだったのだと思う。

Nは無邪気だった。本当に。

結局友達はほとんどできずに、やることのない休み時間は、教室で本を読んで過ごした。東京の友達とたまに電話で話せたら、田舎の中学校で話し相手がいなくても平気だった。そういう態度が、よけいにクラスメイトを近づけないようにしていたんだと思う。

細かいことは忘れてしまったけど、そのうち体操着を隠されたり、自分の陰口を言われているところに遭遇してしまったりして、学校に行くのが嫌になり、行かなくなった。母も、どうせ東京に戻るんだし、行きたくなければ行かなくていいといって、家でのんびり、勉強したり本を読んだりして過ごした。母も知らない土地でやることがなく、毎日退屈だったんだろう。たまに観光に出かけたりもした。

Nにばったり会ったのは、近所の公園で人懐っこい猫をかまっていたときだった。登下校の時間は、だれかに会うとめんどくさいので外に出ないようにしていたから、平日の昼前だった。後ろから名前を呼ばれたとき、振り向く前に「しまった、テスト期間だった」と思ったのをなぜかすごく覚えてる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?