はじまり

どうして今でもNが、私との関係を続けているのかわからない。

私は家族に対してもNに対しても不誠実だ。
40代になって、からだも衰えてきたし、化粧をしても、化粧を落としても、若いころのようにはいかない。

関係を公にできない以上、絶対にまわりに言いふらさない私が都合がいいのかもしれない。そんなことを思う私は嫌な奴だ。

なんでだかNとは離れられない、でもずっと一緒にはいられない、と気が付いたときには、もう遅かった。Nにだけは抱いてはいけない、自分だけをみてほしい、自分だけのものになってほしいという気持ちがむくむくと芽生え始めて、私は怖くなった。このままでは傷つくだけ。早くどうにかしなくては。

それで結婚したのだ。Nじゃない人と。
本当にばかだ。ばかだし最低だ。


Nと最初にそういうことになったのは、京都で再会したあの日だった。
前と同じように外を歩いて、私はNの話を聞いた。一足先に大人になって、その後はもうずっと先に行ってしまった。そう思った。就職活動もせず、ただただ毎日をやり過ごしている自分がやっぱり恥ずかしくなって、消えたいくらいの気持ちだった。

ふいにNが「全然メールくれないじゃん」といった。「待ってたのに」と。
忙しそうだし、私の相手をしてるひまなんかないでしょ、と言うと、ひとりになる時間だってあるんだよ、と言った。

なんであんなことを言ったのかわからない。Jさんとの関係で、麻痺していたのかもしれない。私はNに、「うち、大阪だけど、来る?」と聞いた。

Nはちょっとびっくりして、東京には、明日の正午までに帰ればいいと言って、行く、といって私の手を握った。

大阪に向かう電車の中で、Nと私は離れて座った。Nはめがねをして、マスクをして、深くキャップをかぶっていた。電車に乗る前に、変装じゃん、といって笑ったけど、それは紛れもない変装だった。

部屋についたのは、7時か、8時ころだったと思う。玄関のかぎを開けて中に入り、おなかすいたよね、なんか食べる?といったかいわないかくらいで、ぐっと抱き寄せられて、すぐに激しくキスをした。電気もつけていなかった。靴を脱ぎ散らかして部屋に入り、ベッドに倒れこんで、夢中でお互いのからだを求めあった。

スカートもはいたまま、Nはズボンも脱ぎかけ。私は「つけて」とだけ言って、あとは本当に、早く、早くとお互い気を急きながら、Nが激しく突いて、壊れるかと思ったほどだった。Jさんとの、いやし、いやされ、みたいなセックスとは全く違った。

ひとしきり終えて、顔を見合わせて、私たちは笑った。
「なにこれ」「なんだろ」
たまってんのかな。きっとそうだったのだろう。ずっとこうしたかった、とその後一緒にお風呂にはいりながらNは言った。私はもうその時は冷静で、そうか、まわりに手軽に遊べる女の子もいないのだろうな、と思った。

お風呂から出て、おなかすいたな、なにかつくろうかと冷蔵庫をあけた私を、Nは後ろから抱きしめて、「ずっと好きだった」と言った。

そんなの信じちゃいけない、あんなセックスをしたお詫びの言葉だ、と自分に言い聞かせながら、私は涙が出た。涙が出るくらいうれしかった。

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