こうりん (降臨) 21

無事にゴルフウェアの撮影も終わり、あれ以降、樋口さんのゴルフ場には、異変は起こらなくなった。
ゴルフウェアのネット販売の準備も、ゴルフ場の建設も順調に進んでいるみたいだ。

ある日、王さんからラインが来た。
今度の土曜日のドレメ教室に来て欲しい、と言う内容だった。
土曜日、アマテラスとダックスで大家さんの家に行った。
アマテラスは、大家さんに作ってるもらったワンピースを着て行った。
大家さんが以前
「あと二着、作りかけの服があるの。」
と言っていたものだ。
首周りに丸い襟があって、胸元はゆったりとひだが取ってあって、アマテラスのバランスボール大の乳房をすっぽりと覆うデザインになっていた。
ガーリーな雰囲気で、アマテラスも幼く見える。

大家さんのところで、王さんが僕たちに話したことは、たった一つ。
明日、王さんの会社に来て欲しい、と言うことだけだった。
その時に、これを着るようにと服も渡された。
アマテラスには特製のチャイナ服が、僕には普通のチャイナ服だった。

翌、日曜日、僕とアマテラスは王さんからもらったチャイナ服を着た。
アマテラスのものは、深紅で膝より少し短い丈だった。
バランスボール大の乳房もきれいに収まっている。
僕のは濃い青色で、何故かアマテラスのものより丈が短かく超ミニ丈のものだった。
脚がスースーして落ち着かなかったけど、アマテラスにはウケた。
アマテラスが言うには、僕が穿いてるボクサーパンツでは、パンツが見えると言うことなので、今はアマテラスのショーツを借りて穿いてる。
これでも見えそうなんだけど。
しばらくして、王さんが迎えに来てくれた。
王さんは僕を見るなり
「結構似合ってるね。野郎のくせに綺麗な脚です。」
「どうして女性用なんですか?」
「余った制服が、それしか無かたね。」
「チャイナ服が制服なんですか?」
「そうね、社の女はみんな、チャイナ服ね。」
「男性は?」
「あぁ、全体の10%くらいいるけど、みな普通の制服ね。」
「王さんの会社って、何人くらいいるんですか?社員。」
「今から行く本社は、80人居るね。」
「と言うことは、男性はたった8人しかいないんですね。」
「ちょっと聞いてもいいか?」
「はぁ、なんでしょう?」
「おまえ、男なのにどうしておぱいあるね?」

確かに、チャイナ服は体のラインが出やすい。
僕も感じていたことなんだけど、最近、胸が膨らんできた気がしていた。
アマテラスが言うには、
「仕方なかろう。汝れは我とずっと交わっておるのじゃから、我の力が僅かに還元されるのじゃ。」
「だったら・・・。」
「汝れは人の男じゃからのう、我の乳のようにはならんから安心するが良い。」
「じゃぁどこまで大きくなるの?」
「それは神のみぞ知るところじゃ。」
「アマテラスは女神様じゃないの?」
なんだかはぐらかされたような気がする。
ここのところ、アマテラスに後ろから抱きつかれて、胸を鷲掴みにして揉まれることが多くなった。
ダックスに乗る時も、今まで腰に回していた手を胸に回して、膨らみを鷲掴みにする。

王さんが乗ってきた車は、ベンツのリムジンだった。
めちゃくちゃ長い車の後部座席に乗り込む。
後部は4人が向き合って座れるようになっていた。
王さんは、僕とアマテラスにそこの後ろ側の席を勧めてくれた。
王さんは僕たちの前、運転席の後ろにある席に座った。
運転席との間は、濃い緑のガラスで仕切られていて、前は見えなかった。
幅も信じられないくらい広いんだけど、僕の体は横に座るアマテラスの乳房で覆われた。
環状の道路を30分ほど走ったところで、信号を右に曲がる。
坂道を上った所に王さんの会社はあった。
広い敷地に5階建てのビルと、平屋の大きな建物があった。
王さんは5階建てのビルに僕たちを案内した。

すごい大きなガラスの入口を入ると、中は3階分の吹き抜けのロビーになっていて、そこに受付があった。
受付にいた女性もチャイナ服を着ていた。
日曜日なのに結構人がいる。
みんな女性でチャイナ服を着ていた。
男性の姿が見えない。
「野郎はみな、セキュリティね。」
と言うことは、社内で働いているのは全員女性になる。
「今日は日曜日ですよね。お休みじゃないんですか?」
「本社は、365日24時間動いてるね。海外が相手だから休めないね。休みは交代で取ってるね。」

「本日はお忙しいところ、ありがとうございます。」
と声がした。
振り返ると、王さんとは対照的な女性が立っていた。
身長はほぼ僕と同じくらいある。
「わたくし、王 春麗 と申します。」
そう言って、女性は名刺を差し出した。
名刺の肩書きは副社長となっていた。
彼女もやはりチャイナ服を着ている。
しかも、僕が着ているものと同じくらい丈が短い。
「しゅんれい、さん」
僕は名刺を受け取りながら、あるゲームを思い出していた。
「おやじがストリートファイターのプレイヤーね。春麗しか使わないね。」
あぁ、なるほど。
と僕は妙に腑に落ちた。
「さっきの車もこの子が操縦してたね。」
「お姉さん、そこは操縦ではなくて運転です。」
「あ、そうだた。」
「早速ですが、ご案内します。」
「みんなで会議室に行くね。」
エレベーターで5階に上がる。
会議室はエレベーターホールの近くにあった。
王さんが観音開きのドアを開ける。
中はめちゃくちゃ広くて、壁の一面が全てガラス張りで、外の景色が良く見える。
部屋の中央には、テーブルが円形に配置されていて、まるで国際会議場みたいだった。
「おぉ!間違たね。」
王さんはそう言うと、観音開きのドアを閉めて、廊下を隔てた反対側のドアを開けた。
こちらは、さっきの会議室よりも小さいけれど、それでも十分すぎる広さがあると思う。
部屋の真ん中には、テーブルが長方形に並べられていて、王さんと春麗さんは一方の長辺に、僕とアマテラスは向き合ったもう一方の長辺に座った。
僕たちが座ると、チャイナ服を着た女性が、水の入ったペットボトルを持って来た。
女性はアマテラスを見て、目を丸くして驚いていた。
「おぉ、ありがとね。」
「失礼しました。」
女性は一礼すると会議室を出て行った。
女性が出ていったドアが閉まるのを見届けてから、春麗さんが話し始めた。
「最近の不規則な天候は、ご承知の通りだと思います。頻繁にゲリラ豪雨が発生し、ここにも幾度か落雷がありました。」
春麗さんの言う通り、最近の天気は急変することが多く、先日もアマテラスとショッピングモールに行った時に、経験した。
アマテラスの説明では、龍神が我々人間に警告を発しているらしい。
「建物には被害は無かったのですが、私たちの扱っている製品が精密電子部品がメインですので、電気、雷の影響は少なからずあるのです。」
「そうね、部品を再検査したら、半分くらいダメになてるとか。」
「製品や部品を保管している場所は、シールドされていて、外界とは完全に遮断されているにも関わらずです。」
「実に不思議ね。」
「よろしければ、その部品とか製品を保管している場所を見せて頂けませんか?」
僕は王さんに聞いてみた。
「ぜひ、お願いします。私たちだけではもう、手の打ちようがなくて。」
僕達は再びエレベーターに乗って、一つ下の4階に降りた。
「ここが、製品の倉庫フロアになっています。3階で組み立てられたものが、出荷まで保管されています。」
「製品の、と言うと部品は別の所にあるんですね。」
「そうです、部品は2階の部品倉庫にあります。」
「2階に部品、3階組み立て、4階製品。アッセンブリも含めて、全部自動ね。我か社の最新鋭ラインね。」
「部品の入庫から、製品の出荷まで、完全自動になっています。ですから、オペレーターは少ないですよ。」
「あぁ、それで365日24時間体制なんですね。」
この時、突然警告音が鳴り響いた。
春麗さんがチャイナ服の胸元からスマホを取り出した。
音の発生源は春麗さんのスマホだった。
「お姉さま、製造フロアで異常発生ですわ。」
「うむ、お前たちも一緒に来るね。」
僕達は三度エレベーターに乗って2階に降りた。
2階には、巨大な設備が並んでいた。
すでに数人のチャイナ服を着た女性が、設備を操作していた。
「ナンバー3が緊急停止し、直後ナンバー4、ナンバー5と次々緊急停止しました。現在、復旧作業中ですが、原因不明です。」
オレンジのチャイナ服を着た女性が、僕達のところに報告に来た。
作業している女性のチャイナ服の色が違っていた。
緑のチャイナ服の女性が作業しながら、青いチャイナ服の女性に指示を出していた。
どうやら階級ごとにチャイナ服を色分けしているようだ。
例えば、青色が一般社員、緑色が係長、オレンジが課長みたいに。
「こんな事ってよく起こるんですか?」
「今まで無かったのですが、この1ヶ月ほどで5回発生しています。その度に復旧させることは出来るのですが、原因不明で今回のように再発するんです。」
「このフロアだけですか?」
「いいえ、発生フロアはまちまちです。」
僕が春麗さんと話していると、アマテラスがフロアの隅に向かって歩き始めた。
「あちらには何があるんです?」
「このフロアのキュービクルと配電盤があります。」
「そこも確認されるんですよね?」
「もちろんです。一番に確認に行きます。」
「その時には異常はなかったんですね?」
「先程の報告では触れていませんでしたから、異常は認められなかったはずです。」
でもアマテラスが向かっている。
何かあるのか?いや何かいるのか?
やがてフロアの隅に到着した。
金属製のベージュの筐体が並んでいる。
何も無いし何もいない。
「さぁ、出てくるのじゃ。」
筐体から少し離れた所にしゃがんだアマテラスが、筐体と壁の間に呼びかけている。
「我はアマテラスじゃ。心配せずとも良い。出てまいれ。」
すると筐体と壁の間に、すぅーっと形が浮かび上がってきた。
それはすぐにはっきりとした形になった。
何?このたぬきとイタチの中間みたいなものは。
ふさふさとした尻尾が二つある。
「雷獣じゃのう。お前がそこにいると、ちと厄介なのじゃ。さぁ、こちらにまいれ。」
アマテラスに雷獣と言われたものは、猫が警戒するように、背中を丸めて全身の毛を逆立てた。
2本の尻尾も直立させている。
きっと女神のアマテラスが怖いんだ。
そう思った僕は、アマテラスの隣にしゃがんで呼びかけてみた。
「この女神が怖いのなら、僕の方においで。大丈夫、何もしないから。」
それでも雷獣は、警戒を解かなかった。
「ほら、何もしないから。」
雷獣の逆だった毛が寝ていく。
「それに、そこは危ないから。」
雷獣が丸めた背を戻すと、ゆっくりと僕の方に歩いてきた。
雷獣と言う名前が似つかわしくないほど可愛い姿をしている。
鳴いたんだろうか、口を開いた。
でも何も聞こえなかった。
口の中には鋭い牙が2本生えている。
広げた僕の両手に入ろうとする。
「気をつけるのじゃぞ。雷獣は雷と共に駆け下りてくる。落雷の稲妻は雷獣が通った跡じゃ。雷そのものじゃぞ。」
「えっ?」
と思ったのも束の間、雷獣は僕はの腕の中に飛び込んできた。
「危ないっ!」
その場にいた全員が床に伏せた。
だけど何も起こらずにぼくは雷獣を抱いていた。
「汝れなんとも無いのか?」
アマテラスが座り直して僕に言った。
「うん、なんともないよ。」
と腕の中にいる雷獣を見た。
尻尾を小刻みに振って、うるうるした目で僕を見上げている。
「何か言いたそうだけど。」
僕が雷獣を抱いたまま立ち上がると、床に伏せていたみんなも立ち上がった。
「おかしいのう。雷獣は天から駆け下りて来た後、すぐに天に駆け上って行くのじゃが。」
「どうして君はまだここにいるの?」
僕が話しかけると雷獣は、きょろきょろと辺りを見回す素振りをした。
「もしかしたら、仲間を探してるんじゃないのかな。」
「もしそうなら大変じゃ。これからも難儀は続くぞ。」
僕の腕の中の雷獣を見てると、可愛くて、飼って手元に置いておきたいと思ってもおかしくないな、と思った僕は、設備の復旧作業を終えて、僕たちの周りに集まってきた社員に向かって言った。
「どなたか、この子と同じ動物を見たり、何か知ってる人はいませんか?」
集まった社員はお互いに顔を見合わせた。
「この子、仲間を探してるみたいなんです。その仲間を見つけないと問題は解決しないんです。」
「これからもずっと、こんな事が起こり続けるんですね?」
「ここのどこかに居るんだとしたら、そうなると思います。」
「お聞きの通りです。誰かいませんか?」
春麗さんが言った後、集まった社員の後ろで手が上がった。
春麗が手が上がった方を見る。
集まった社員も一斉に同じ方を見た。
さーっ、と人垣が割れて手を上げた人物が見えた。
「あの、私です。」
そう言ったのは、復旧作業の時に指示を受けていた、青色のチャイナ服を着た女の子だった。
「たなか、さん?」
「はい。」
「田中さん、どこにいるんですか?」
僕の問いかけに田中さんが答えた。
「寮の自分の部屋に。」
「行きましょう。みなさんは作業に戻って下さい。この経緯が後ほど説明しますから。」

ワンルームの田中さんの部屋に、プラスチックの箱に入れられて、その子はいた。
「事情を説明して。」
春麗さんの言葉で、田中さんは話始めた。
「4,5日前、落雷のあった日に、建物の外周を点検している時に、茂みにうずくまっているところを見つけました。
すごく弱っているみたいで、このままでは死んでしまう、と思ったので部屋に連れて帰りました。」
「その時、電気のショックは無かったの?」
「ありませんでした。」
「余程弱っておったのじゃろう。」
田中さんの説明の間、僕の腕の中の雷獣は、仲間を呼んでいるのか、盛んに口をぱくぱくさせていた。
それに応じるように、プラスチックケースでうずくまっていた雷獣が首を持ち上げ、それから体を起こした。
お互いに口をぱくぱくさせている。
と、二匹が同時に大きく口を開けた。
キーン、と鋭い音が耳をつんざく。
直後、凄まじい雷鳴が轟き、地震のように建物が激しく揺れた。
1,2秒という短い時間だったのだろうけど、もっと長く感じた。
地震のような余韻も残さず、揺れが収まった。
すでに僕の腕の中の雷獣も、プラスチックケースの中の雷獣も、姿は無かった。
あぁ、一緒に帰っていったんだ。

それから王さんの会社では、一切異常は起こらなくなったそうだ。
王さんと春麗さんには感謝され、アマテラスの事は王さんの会社で知られることとなった。

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